北岳バットレス第四尾根

山頂 北岳3,193m
分類 南アルプス / 黒澤敏弘ガイド
日程 2000/07/29-30
同行 猫の森ガイド山行
概要 白根御池小屋から大樺沢を登って下部岩壁へ。第五尾根末端壁から取り付いて2P。Dガリーを横断して悪いトラバースから樹林帯を登り、Cガリーを詰めて左に入り第四尾根取付点。あとは第四尾根を終了点まで登って縦走路に飛び出し、山頂着。八本歯のコル経由大樺沢を広河原まで。

Dガリー大滝。我々は左のフェイスから取り付きました。(2000/07/30撮影)

第四尾根出だしのクラック。初心者にはここが最初の関門。(2000/07/30撮影)

マッチ箱を見下ろす。てっぺんにちらっと後続パーティーのヘルメットが見えます。(2000/07/30撮影)

岩登り講習会に「月2回×3か月」通えば北岳バットレスをリードできるようになる、との黒澤ガイドの言葉に俄然バットレスへの憧れを強めていた私。まだ「卒業」に十分な単位はとれていませんが、ガイド山行で連れていっていただく分には迷惑をかけない程度にはなっているだろうと黒澤ガイドに相談したところ、北岳バットレス企画を立ててくれました。

2000/07/29

■10:45 広河原 ■13:50 大樺沢二俣 ■14:25 白根御池小屋

竜王駅9時集合。集まったのは黒澤ガイドとほなみさんに、客がH氏・M氏・Yさんと私の4人。H氏とYさんは先日の沢登りでも御一緒した仲です。黒澤ガイドの車とM氏の車に分乗して広河原へ向かいました。夜叉神峠の手前は霧の中でしたが、トンネルを抜けた途端に上空に青空がのぞき、気分が高揚します。しかし、さすがに登山シーズンで広河原の駐車場は満杯のため、奈良田方面へしばらく走ってカーブの広くなった路肩に車を停めました。

身繕いをし、ロープを分担して歩き出します。大樺沢沿いの登山道はこれで3度目ですが、以前に比べずいぶん樹木が育った崩壊地を過ぎる正午頃から雨が降り出しました。緩やかな道なので折り畳み傘で雨をしのぎ、右岸に渡ったところで昼食休憩。再び左岸に戻ってから1時間弱で立派なトイレが設置された二俣に着きました。白根御池への道はここからほぼ真横にトラバースしています。植生が沢沿いのものから樹林帯のそれに変わって、やがて開けたところが白根御池。

池の周りにはテントが思い思いに張られ、その向こうにプレハブ3棟の小屋が建っています。黒澤ガイドが受付をまとめてすませ、ここで今日の行動は終わりです。ルート確認に行く黒澤ガイド夫妻を見送って小屋に入り、受付で仕入れたワインやウイスキーをぐいぐい。カレーライスの夕食がすんでしばらくしてから、偵察から戻ってきた黒澤ガイドと翌朝の集合時刻などを確認しました。当初予定のBガリーの大滝は雪が残っていて不適、よってDガリーを登ることにしたとの説明です。打ち合わせを終えて、明日の好天を祈りながら就寝。一人布団1枚のスペースが確保され、毛布も数枚ずつ使えて快適な寝床でしたが、アルコールで一晩中身体が火照って困りました。

2000/07/30

■03:25 白根御池小屋 ■03:55-04:15 大樺沢二俣

午前2時半に起床、静かに起き出して戸外に出ました。お手洗いを使い、既に電気がついている小屋の事務所棟で弁当を受け取るとすぐに朝食。3時過ぎに池の脇のテン場でテントを畳んでいる黒澤ガイド夫妻と合流しました。ここから昨日きた道をヘッドランプの明かりを頼りに歩いて二俣に戻り、不要品をデポ。糸のように細い下弦の月がうっすら明るくなってきた鳳凰三山の上の空にかかっており、いい雰囲気です。大樺沢の左岸をひたすら登り、沢が涸れるところで小休止。稜線は日の出のオレンジ色に染まり、目の前にはバットレスの岩壁が横に広がっています。トンガリ頭のピラミッドフェイスと、その右手のCガリーの大滝(水が流れているわけではなく白い岩壁)が特徴的。ここからヘルメットをかぶって、右手のガレた沢をピラミッドフェイスを目がけて歩きました。

■05:40-06:00 第五尾根末端壁取付

Dガリー大滝には、既に数人のクライマーの姿が見えています。そこで黒澤ガイドは方針を瞬時に変更し、D沢の雪渓を右岸に渡って左側の壁の基部に荷を置きました。ハーネスを着けシューズを履き替えて、6時、いよいよ登攀開始!一行6人を2組に分け、黒澤ガイドとほなみさんがそれぞれ二人ずつを引率するかたちで、私はYさんと共にほなみさんチーム。久しぶりのクライミングシューズはできるだけ紐を緩めに履いても足に痛いですが、それ以上に緊張のせいか最初は岩に手足が馴染まない感じです。1P登ったテラスで右から登ってきたクライマーが「へー、そっちからも登れるんですか?」と驚いていましたが、我々が登った第五尾根末端壁のルートは古いルート図にしか載っていないようです。

さらに1P登ると大滝の上、右岸側の小さな高台に出ました。既に黒澤ガイドチームは先に進んでおり、ちょうどH氏が右への悪いトラバースを進んでいるところですが、なんだか恐そう。黒澤ガイドからH氏に「草付の草を50本ぐらいつかめば、落ちても20本くらい残ってくれますから」とアドバイスが飛んでいますが……そういうものなのか?

待っている間にも、大滝を登ってきた他のパーティーが目の前を通過していきました。下から登ってきた女性クライマーが、前方数mにビレイポイントが見えているのに基部にいるパートナーから「あと1.5!」(ロープの残りがあと1.5m!の意味)とコールされて「どうしよ〜?」と往生したり、上のルンゼから「ラクッ!」の声が降ってきたりと見ていて飽きません。そうこうするうちに自分の番になってトラバースを開始しましたが、大滝上部を左岸側に渡って草付の上、スラブ状の岩を登るところ(黒澤ガイドがアドバイスを飛ばしていた箇所)がやはり悪く、「ロープアップ!」(墜落に備えてロープをぴんと張って!の意味)と声が出てしまいました。

無事トラバースを終えて振り返ると、それまでかかっていたガスが一時的に切れて八本歯のコルの登山者の姿が見えています。樹林帯の中をフィックスロープのゴボウで登り、Cガリーのガレに抜けてから雪が出る手前まで直上して左のバンドに入り、さらに階段状の道を上がると第四尾根の取付のテラスに到着しました。

■08:50-09:20 第四尾根取付

第四尾根取付は、当初少人数ならここにビバークしようと考えていたというだけあって、極めて快適なテラスになっています。ここで行動食をとり、靴下を脱いで裸足になってシューズを履き直したら一気に楽になりました。1ピッチ目出だしのコーナークラックは「ここに立てればもう簡単」というポイント(右の写真で私が右足を置いているところ)があって、そこに立つまでにどういう手順でホールドを使うかは各人の身長や得手次第。ちょっとムーヴに迷ったものの、クラックに突っ込んだ左足と両手の突っ張りで「こうかな?」などと言っているうちに越えられました。

2ピッチ目は簡単。3ピッチ目を登ってビレイしているほなみさんの横を抜けそのまま先に進むと「マッチ箱」と呼ばれる顕著な岩峰の手前の垂壁で、このルートの核心部です。ここは本来はV級の5mの岩壁で、細かいホールドを探して登るところですが、我々はアブミを使用。黒澤ガイドチームはアブミに立ち込んだら三角おむすび状の岩壁を右に回り込んで行き、一方ほなみさんチームはてっぺんにヌンチャクをセットしてまっすぐに越えました。ここからマッチ箱の上までは、晴れていたら高度感が恐ろしいリッジ(「申し訳ありません、私が悪うございました!」と叫びたくなるほどコワイそうです)ですが、今日は幸いにして(?)ガスで下が見えないのでぜんぜん恐くありません。

■11:00 マッチ箱のピーク

マッチ箱のピークからは10mの懸垂下降で左のDガリー側に下ります。身体を振られながら懸垂下降を終えて、やれ嬉しやとエイト環からロープをはずそうとしたところで黒澤ガイドから「塾長さん!まず自己ビレイ!」と注意が飛びました。そう、何があっても「今、自分はどのロープでビレイされているか」を常に意識していなければならないのです。このレッジで後続のYさんとほなみさんが降りてくるのを待つ間に、暖かいコーヒーが振る舞われてリフレッシュ。このときCガリー側でかなり大きな岩なだれの音が響きましたが、自然崩落だったのでしょうか?そうこうするうちに最後に降りてきたほなみさんは、しかしコーヒーにありつくこともなく、そのまま次のピッチを登るはめに……。そのほなみさんが「何だか、私かっこわるいなぁ」とぼやきながらのそのそと登った傾斜の緩い(45度くらい?)平らな斜面を次に自分が登りましたが、実はなんでもないこの斜面が一番楽しいピッチでした。1年前だったらおよそ登れる場所とは思えなかっただろう斜面に、次から次へとホールドが見つけられてすいすい登れてしまうこの快感!なお念のために書くと、ほなみさんは7,000m峰登頂経験もある5.12クライマーです。

このピッチは短く切って、ガスの中に見え隠れするマッチ箱を見下ろしながら後続を待ち、続いて登った次のピッチは途中のスラブの一歩がちょっとシビア。またもや三角おむすびの右の辺を回り込むところ(下の写真)で、右足の置き場はそこだけ岩の色が変わっていることでもはっきりわかります。あとは手をかけるところを見つけられればなんとかなりますが、右手を伸ばすと小さいながらもかっちりした引っ掛かりがあり、これを頼りに思いきって右足一本に乗り込みました。今日は、たとえ岩が濡れていてもフリクションを信じられる気持ちになっているのが不思議。ここをクリアしたらリッジをまっすぐ「枯れ木テラス」へと登ります。

■12:00 枯れ木テラス ■12:50-13:25 靴脱ぎ場 ■13:50 北岳山頂

白い枯れ木の根が伸びた枯れ木テラスまで来れば、実質的な登攀は終わったも同然。ここから2Pで「靴脱ぎ場」に到着し、登攀を終了しました。握手を交わしてからハーネスをはずし、シューズも替えてほっとしました。お花畑の中をぬうように踏み跡を辿って縦走路に合流し、ザックとヘルメットをデポしてから5分で山頂に到着です。今日一日、雲の中に入っている状態で展望には恵まれなかったのですが、それでも大過なく登攀を終えて山頂に着けたのだから恵まれていました。黒澤ガイド夫妻のゴム長靴(お二人の登山靴はいつもこれ)に注がれる一般登山者の奇異の視線を感じながら記念撮影をそそくさと済ませ、下山を開始しました。青空を待ちながら余韻に浸りたいところではありますが、広河原までの時間を考えるとゆっくりはできないのでした。

■14:40-50 八本歯のコル ■16:10-20 大樺沢二俣 ■18:25 広河原

あとはひたすら長い下り。二俣でデポ品を回収し、暗くなる前に広河原に下り立つことができました。行動時間はちょうど15時間。壁の中にいた7時間も含めて、まったくよく歩いたものです。車をとりに行った黒澤ガイドとM氏を待つ間に自動販売機で買った冷たいジュースは、本当においしくいただきました。

7/21、HP仲間のさかがみさんが池山吊尾根から北岳を目指して歩きました。下の写真は、その際に撮影された北岳バットレス。私の写真からではわからないバットレスの見事な立ち上がりが、余すところなくとらえられています。さかがみさんの御厚意により、写真の拝借と加工の許可をいただきましたので、ここに転載させていただきました。

© 2000 Eita Sakagami