塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

天狗岳〜硫黄岳

日程:1999/12/25-26

概要:渋の湯から黒百合ヒュッテまで歩いて泊。翌日、天狗岳から夏沢峠を越えて硫黄岳に達し、美濃戸へ下山。

山頂:東天狗岳 2640m / 硫黄岳 2760m

同行:---

山行寸描

▲朝日に染まる天狗岳。中山峠からの登りから仰ぎ見る。(1999/12/26撮影)
▲天狗岳山頂から硫黄岳方面を眺める。手前の小さいピークが根石岳。(1999/12/26撮影)

1999/12/25

△13:35 渋の湯 → △15:45 黒百合ヒュッテ

「しまった、出遅れた!」

渋谷駅の緑の窓口で時刻表を確認して、思わずつぶやきました。新調したプラブーツの慣らしを兼ねて八ヶ岳の主稜線の中でまだ歩いたことがない天狗岳〜硫黄岳の間をトレースするために家を出たのですが、あらかじめ時刻表を見るゆとりがなく、とりあえず10時頃新宿を出ても間に合うだろうと思っていたのに、いま確認してみるとバスの接続が悪くてこのままでは明るいうちに黒百合ヒュッテに着くことができない……と後悔しながら茅野駅到着。行動食を買い、昼食をとってから渋々タクシーに乗りました。降り立った渋の湯で冷たい風の中ヤッケをまとい、プラブーツに履き替えて出発。冬らしい暗い曇り空の下、雪に覆われた樹林の中の坂道を淡々と登り、ほぼコースタイム通りに黒百合ヒュッテに着きました。

薄暗いヒュッテの中も、目が慣れると大勢の客がそこここで宴会を繰り広げているのがわかります。割り当てられた寝床は階段を上がった2階から、さらに身をかがめてもう一つ上がったメゾネット形式の3階(早い話が屋根裏部屋)でした。1階に戻って燗酒をちびちびやりながら明日のコースを確認しているうちに夕食の時刻となり、御飯・味噌汁・おでん・諸々のお惣菜に、クリスマスなのでチキンとケーキがついた豪華なディナーをいただきました。

すっかり満腹になって3階に戻りましたが、ここからが長かった!どこかの団体が2階に陣取って宴会を始めたのですが、消灯時刻を過ぎても一向に静まる気配がありません。2階と3階は空間としては一体なので、2階でわいわいやっている声が天井に反射して3階を直撃する仕組となっています。真っ暗な中でよく飲みつづけられるものだと感心はしましたが、「静かにして下さいよ!」と抗議されても彼らは声をひそめるだけで宴会は止まりません。一応、誰かが大きな声を出すと仲間が「しーっ!」と注意するようになったのですが、その声自体が耳についてうるさく、とうとう3階の住人が起き出して「寝られないじゃない」「消灯時間過ぎてるのに」「小屋の印象が悪くなるわよ」と暴動寸前になったところで、さすがに2階の宴会組も雲行きを察知して「まだ9時半なのに……」などとぶつぶつ言いながら就寝しました。

1999/12/26

△06:40 黒百合ヒュッテ → △06:45-07:00 中山峠 → △07:50-08:10 天狗岳 → △08:30-50 根石岳 → △09:30 夏沢峠 → △10:45-11:10 硫黄岳 → △12:05-25 赤岳鉱泉 → △13:30-50 美濃戸山荘 → △14:25 美濃戸口

5時に起床。外に出てみると月が明るく、星もきれいに見えています。小屋に戻ると夕べの宴会組が1階で早くも飲み始めているのに呆然としました。

宴会A「夕べは2回も怒られちゃったな、ハッハッハ」
宴会B「でも◯◯小屋のときなんか5回も怒られたじゃないか、ワッハッハ」

…… 大したものです。それはともかく、朝食を済ませたらすぐに身繕いをして出発です。まず中山峠に向いわずかに天狗岳寄りのビューポイントで御来光を待っていると、だんだん明るくなるとともに甲武信ヶ岳から金峰山にかけての奥秩父の山並がはっきりと見えるようになり、その向こうの雲の峰の縁がオレンジ色に輝いて、7時ちょうどに太陽が姿を現しました。

岩と雪がミックスした稜線通しの道を登り、誰もいない東天狗岳山頂に到着。今回の山行のもう一つのテーマはQuickTimeVRによるパノラマの素材撮影で、ぐるり一周の撮影ポイントとして事前に考えていた候補地は天狗岳・硫黄岳の両ピークと、その中間の根石岳山頂でした。ところが快晴の天狗岳山頂は風が強くもの凄い寒さで、カメラの設定のためグローブを外したところわずか1分ほどで指の色が変わり刺すように痛くなってきた上に、低温で電池の電圧が下がっているのかデジカメがなかなかこちらの言うことを聞いてくれません。そうこうしているうちに後続の登山者がぞろぞろ登り着いてきたため、ここでのパノラマ撮影は断念せざるを得なくなってしまいました。

天狗岳から少し痩せ気味の稜線を下ってわずかに登り返したところが根石岳で、ここからは東西両天狗岳と硫黄岳の爆裂火口壁が眺められるのでここでも面白いパノラマが撮れそう。しかも天狗岳からこちらへ下ってくる登山者は自分の他におらず、おかげで安心して写真を撮れます。一人不気味にほくそ笑みつつ根石岳の山頂でカメラを構えてぐるぐる回りながら撮影しましたが、デジカメというのは1枚撮ると次の1枚を撮れるようになるまでに数秒かかり、しばらくは構図がぶれないようにじっとカメラを構えたまま立ち尽くしていなければならないわけで、この様子を天狗岳の山頂から見ている人がいたらあいつは何をしているのだ?と思ったことでしょう。

ひとしきり写真を撮り終えて硫黄岳の方に向かおうとしたところ、太陽の下にきらきら輝く光の柱ができているのに気が付きました。おそらく非常に細かな雪の粒子が風にのって舞っているところへ太陽の光が乱反射して輝いているものでしょうが、何かとても不思議な神々しいもののように思えました。

根石岳から箕冠山を越えて2軒の山小屋が向かい合う夏沢峠までの区間は雪が深いことを懸念してワカンを持参していましたが、実際にはしっかりトレースされていて無用でした。ここから見上げる硫黄岳の火口壁は垂直で山頂はとても高い位置にありますが、そこまでの道は意外に歩きやすく緩やかに高度を上げていきます。しかし西の方から黒い雲が押し寄せてだんだん見通しが悪くなり、硫黄岳の山頂が荒れ模様となっていくのが見てとれました。

山頂まであと少しというところで火口壁を左に見ながら歩いている途中、ふっと左足が軽くなり「カラン」という音がしたのに驚いて足下を見ると片方のアイゼンが外れて足首からぶら下がっていました。ひやーっ、と思いながら装着しなおしましたが、どうやら新しい靴にアイゼンを合わせたときにかかとの側の調整が十分ではなかったようで、これがクラストした急な下り斜面だったら一大事です。道具の事前調整の大切さを身をもって学んだ瞬間でした。

硫黄岳の山頂は雲の中に入っており、冷たい風が吹きまくっています。リュックサックを山頂標識のところにデポして火口の縁を端まで歩いてみましたが眺めはまったく得られず、すごすごと下山を開始しました。ここから先は春にも歩いた道で勝手がよくわかっており、赤岩ノ頭から樹林の中を下って赤岳鉱泉に着いたら行動食を食べ、アイゼンを外しピッケルもリュックサックにくくりつけてストックに持ち替えました。

美濃戸山荘でバスの時刻を確認してからお汁粉を注文して一息つき、最後のワンピッチを歩いて下り着いた美濃戸口から茅野に向かうバスからは、きれいに雲がとれて北から南まで全山晴れ渡った八ヶ岳の姿が見事でした。