塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

阿弥陀岳北稜

日程:2013/03/20

概要:美濃戸口からワンデイでの阿弥陀岳北稜。計画ではそのまま中岳を越えて赤岳西壁主稜に継続する予定だったが、諸般の事情で阿弥陀岳オンリーに終わる。

山頂:阿弥陀岳 2805m

同行:セキネくん

山行寸描

▲阿弥陀岳北稜第二岩稜。左から巻いている踏み跡が多く見られが、ここを巻くくらいなら何のためにここまで登るのか……。(2013/03/20撮影)
▲核心部を抜けたところ。眺めは見事だが空模様は下り坂。(2013/03/20撮影)
▲赤岳方向に下る。阿弥陀岳ではこの下りの方が北稜より怖いと思うのは私だけ?(2013/03/20撮影)

2月から会社の休みが不定期休になってしまったため土日をゆったり使って山に行けなくなったセキネくん。それでも幸いにして春分の日を休みにすることができたので、示し合わせて八ヶ岳へ向かうことにしました。計画としては早朝に美濃戸を発って一気に阿弥陀岳北稜を登り、中岳を越えて文三郎尾根を下り赤岳西壁主稜に継続して、その日のうちに下山してしまうというもの。1月の阿弥陀岳南稜〜赤岳西壁南峰リッジで味をしめた「ツインピークス山行」を別ルートで再現しようというわけです。

2013/03/20

△07:00 美濃戸口 → △07:45 美濃戸 → △09:50-10:25 行者小屋 → △12:30-40 阿弥陀岳 → △13:35-14:00 行者小屋 → △15:20-40 美濃戸 → △16:15 美濃戸口

前夜、諏訪南ICを出てすぐのコンビニの駐車場で仮眠をとり、5時頃に再出発して美濃戸口まで着いたセキネ号。雪の状態を見たセキネくんは「チェーンを巻けば、行ける気がします」と美濃戸への林道に進入することにしたのですが、このジャッジのせいで痛い目を見ることになりました。

柳川を渡り、ジグザクの坂を無事に越えてこれで安心と思ったものの、美濃戸のやまのこ村まであとわずかという緩やかな坂の途中でまさかのスタック!セキネ号はFFなのですが、前輪が路面を抉るばかりで前に進めません。バックと前進を繰返して試行錯誤しているうちに車体の後方が路肩からはみ出しそうになってしまい、ドライバーのセキネくんの顔は真っ青に。後からやってきた車3台の人たちに押してもらって窮地を脱し、いったん退避場所に逃れて後続を通すと、切り返して柳川まで戻って平坦地に車を置きました。ここで約1時間のロスですが、それでもこのときはトラフィック・トラブルはこれで終わりだと楽観視していました。

驚くほど高い気温の中、寝不足と朝食の補給不足がたたって足が進まず、セキネくんを待たせながらなんとか行者小屋着。いくら雪道でも日帰りの軽装で美濃戸から行者小屋まで2時間を切れないようでは山屋失格です。ともあれ行者小屋の前で登攀装備を身に着けて、すぐに文三郎尾根へ向かう踏み跡を辿りました。行者小屋からも北稜を登る先行パーティーの姿が見えていましたが、その通り道は明瞭にトレースされていて中岳沢に入る踏み跡も分かりやすく、テープの印と踏み跡を頼りにジャンクションピークへ向かう尾根に早めに乗り上りました。雪はよく締まり気象条件も悪くなく、先を行くセキネくんはぐいぐい高度を上げていきます。後からついていく私は写真撮影を自分への言い訳に時折足を止めて息をつきましたが、その目に西の方から徐々に濃い色の雲が広がってくるのが映りました。どうやら好天は午後までもちそうにありません。せめて今登っている北稜くらいは好コンディションのうちに抜けなくては。

第一岩稜の灌木混じりの急斜面を登りきって、一旦平坦になったところが第二岩稜の取付です。見れば左側から巻き上っている踏み跡が目立ちますが、阿弥陀岳北稜の楽しみはルート全体の核心部であるこの第二岩稜の2ピッチの登攀なので、ここを巻くくらいなら何のためにここまで登るのか理解に苦しみます。セキネくんがロープを捌いてくれている間に私が取り出した新兵器は先日の南沢小滝登攀の際にセキネくんに教えてもらったGoPro HERO3で、セキネくんはヘルメットのてっぺんに取り付けて後から私にケムール人みたいだと揶揄(?)されたのですが、当の私はヘッドランプと同じように頭にかぶることができるヘッドストラップ持参です。このストラップの存在を知らなかったセキネくんはずいぶん驚いていましたが、とにかく準備ができたところでセキネくんのGOサインを受けて離陸しました。

1ピッチ目は私、2ピッチ目はセキネくんのリードとしましたが、やはり3月下旬ともなれば岩稜上の雪は相当落ちており出だしの垂壁は簡単で、かえって1ピッチ目中間部のランナウトするところが脆い草付になっていて緊張しました。そして2ピッチ目のスノーリッジを横から渡れば、山頂は目の前でした。

誰もいない阿弥陀岳山頂で握手を交わしてロープを畳む頃には天気ははっきりと下り坂で、時間的にもゆとりがなく、残念ながらこの日は赤岳西壁主稜は諦めざるを得ませんでした。毎度緊張する急斜面を下って中岳沢のコルに下り着き、気温が下がっていることと左手の雪面に切れ目が走っていないことを確認してから中岳沢を行者小屋まで一気に下りました。行者小屋で装備を解き行動食を口に入れたら、アイゼンを履いたまま時折雨もぱらつくようになってきている北沢沿いの道を下降です。

どうにか無事に車に戻って、これで山行は終わった……と思ったのですが、それは甘い考えでした。

セキネ号は、セキネくんの慎重な運転で柳川から美濃戸口への急坂をゆっくり登ります。一番傾斜のきついところを無事に通過して、最後にカーブを曲がれば八ヶ岳山荘まで緩やかな道になるというまさにそのとき、またしてもスタックしてしまいました。午前中の高い気温のせいで生じた雪解け水が轍をさらに深くし、セキネ号のタイヤをとらえて離してくれなくなったのです。嗚呼神様、四駆でもないのに美濃戸口の先に入った身の程知らずの私たちをどうかお許し下さい。

顛末の詳細は省きますが、またしても後続の方々の力を借りて何とか轍を脱し、いったん路側に退避することができたセキネ号は、40分後に到着したJAFのおかげでどうにか明るさが残っているうちにこの世に戻ってくることができました。JAFのお兄さん、ありがとうございました。御礼は、セキネくんが年会費自動継続のJAF入会というかたちでさせていただきました。またスタックしている間ご迷惑をおかけした皆様、申し訳ありませんでした。

……という具合に登攀以外のところで思わぬ(?)トラブルに見舞われた山行でしたが、セキネくんとの初めての冬季クライミングは、システムの確認も含めて実りあるものとなったと思います。セキネくん曰く、今年1年はフリークライミングに集中するということですが、来冬はぜひまた山に戻ってきて下さい。