王滝川鈴ヶ沢東股

日程:2008/08/09

概要:御嶽山南面の鈴ヶ沢東股を遡行。小三笠山の北を巻いて中股を下降する予定だったが、雨による増水を懸念して田ノ原駐車場へ詰め上げた。

山頂:---

同行:トモコさん / K沢さん

山行寸描

▲3段大滝。上の画像をクリックすると、鈴ヶ沢東股の遡行の概要が見られます。(2008/08/09撮影)
▲水勢の強い樋状滝。両足突っ張りでがんばって越える。(2008/08/09撮影)
▲不思議な滝。滑り台の先に橋がかかり、その向こうの釜と水中でつながっている。(2008/08/09撮影)

2001年末のキリマンジャロのツアーで知り合った関西在住のトモコさんとは、その後赤木沢剱岳でご一緒していましたが、ここ5年ほどはご無沙汰。とはいえ時候の挨拶のたびにお互いに山の近況を知らせ合ってはいて、いずれ再び山行を共にしたいものと思っていました。なにしろトモコさんは小柄な女性ながらフリークライミング能力、脚力のいずれをとっても私より上。クライマーとしてすこぶる頼りになるパートナーなのです。そんなトモコさんとの久しぶりの山行は、トモコさんがエルブルース登山で知り合ったという年長の友人K沢さんも加えた3人で、御嶽山南面の鈴ヶ沢と奥飛騨の沢上谷を土日で遡行する、慌ただしくも楽しい沢旅となりました。

2008/08/09

△06:55 鈴ヶ沢橋車止め → △08:15-30 三沢橋 → △09:25-30 3段滝下 → △11:30 洞穴 → △12:20 30m直瀑 → △14:00 車道 → △14:10 田ノ原

午前1時頃に木曽福島駅でトモコさん・K沢さんと落ち合って、そのままトモコさんの車で近くの「道の駅 三岳」に移動し仮眠。朝、王滝村を抜けて鈴ヶ沢林道を奥へと走り、鈴ヶ沢橋の車止めの手前に車をおいてから沢装備をリュックサックに入れて林道歩きを開始しました。トポではここから50分ほどで入渓点の三沢橋に着くはずですが、気が付けば道はどんどん西に向かっていて鈴ヶ沢から離れて行っています。これは道を間違えたに違いない!と車止めまで戻ると、いったん足を踏み入れたものの一見行き止まりに見えた分岐が正解で、ここでいきなり1時間弱のロスとなってしまいました。ところが、気を取り直して正しい道を進むと30分もかからずに三沢橋に着くことができました。

沢装備を着けて橋のたもとから入渓すると、出だしは明るいゴーロ。すぐに左に沢筋を分けて右=東股を進むと、最初の小滝が勢い良く水を噴き出しています。水流右から登れそうでもありましたが、まだ時間も早くて濡れるのが嫌だし、ウォームアップも十分ではないしで、右から簡単に巻きました。さらに2条滝やクレバス状の地形を越えて頭上を林道が通過するのを見送り、引き続き釜を持つ小滝などを越えていくと、正面にこの沢の関門とも言うべき3段大滝が見えてきました。

樹木に覆われたV字の谷に突如ダムのように現れた岩壁のハングした落ち口から落ちる3段大滝はなかなかの壮観で、トモコさんもK沢さんも、もちろん私も喜んで写真撮影。直登は不可能なので左手から1段上がり、さらに踏み跡にしたがって左から巻き上がりましたが、木にすがりながらのこの巻きは少々足元が脆く、傾斜もきつくて緊張します。しかし、トモコさんはもとより年長のK沢さんもこの悪い巻きを難なくこなして登っていくのには正直驚きました。実は3人とも亥年ですが、トモコさんが私と同年生まれなのに対しとても上品な御婦人であるK沢さんは我々の一回り上。それでいてこのパワーはいったい何としたことだろう。もっとも、トモコさんは私にこっそり「酒を飲ませたらK沢さんは底なしですよ」と意外な正体(?)を耳打ちしてくれてはいたのですが……。

無事に3段大滝の落ち口近くに出て小休止とし、K沢さんが出してくれたカットスイカでほっと一息ついてから遡行を続けました。この沢はここからが実に楽しいところで、すぐに出てくるちょっとテクニカルな滝は右壁(III+)をガバに助けられながら登れますが、落ち口には支点も設置されているので慣れない人にはロープを出した方がよさそう。その後は次々に出てくる楕円形の釜と滑り台のような樋滝のセットを、あるいは巻き、あるいはへつりして越えていきます。

中でもひときわ大きな釜を左からあえてへつって越えると、それまでとはひと味違う樋滝が現われました。岩壁を断ち割ったようなV字の急な水路に勢いよく水が流れ、巻きもへつりも難しい……というより、ダイレクトに滝を突破するのが面白そうです。ここは志願して私が先頭に立ち、右から倒木の上を歩いて近づくと、岩壁に胸を圧迫されながら微妙なバランスで水流上に移動し、両足突っ張りのステミングでじわじわと身体を上げて、最後は丸くつるりとホールドに乏しいチョックストーンの左から半ば強引にのし上がりました。

後続の2人にはロープを出しましたが、K沢さんはゴボウでぐいぐいと登ってきましたし、トモコさんはもちろんノーテンであっさり突破しました。

勢い良く水を落とす滝を右から巻くと釜と樋滝の組み合わせが再び続くようになって、今度は不可思議な光景が登場しました。目の前のグリーンの釜はぐるりを岩に囲まれていて水が流れ込んでいないのですが、向こうには確かに水路状に樋滝が流れてきています。実はこの釜の上流側の壁はブリッジになっていて、樋滝の水は石橋の下、水中で手前の釜とつながっているというわけです。この石橋を渡って樋滝の右側を小さく巻き、さらに明るい釜を右から回り込んで斜滝の右手のスラブ状を登ると、その先に左から苔とも藻ともつかない緑に覆われた美しいナメ滝を合わせて沢は右手へ曲がっていきます。

スダレ状の滝を右から巻き上がり、巨大な洞穴を横目に見ながら左から1段上がると、またしても釜と樋滝。最初は釜の右手をへつっていきましたが、気温も上がってきていることだし、とうとう我慢できなくなって釜に入り泳いで滝に取り付いて、後は易しいへつりで樋滝の右壁を上がりました。さらにもう一つ、澄んだグリーンがとても美しい釜でひと泳ぎしてほてった身体を冷やしましたが、前方に赤い壁が見えるようになってくるとさすがに源流に近いゴーロ帯になり、大岩を左右に交わしながらの遡行が続きました。また、この頃から上空に黒雲が広がり始めたのが気になってきます。

そして、倒木やゴーロで荒れた沢のどんづまりは涸れた巨大な滝の跡。いかにも御嶽山らしい豪快な構造物を目の当たりにしてから、元来た道を引き返して滝の巻きにかかろうとしましたが、左岸を注視しながら下ってもどこから巻きにかかったらよいのか、目印もなくさっぱりわかりません。それでもこのへんだろうと見当をつけて左岸の樹林帯に適当にルートをとりましたが、この頃から「午後から雷雨」という天気予報の通りに雷が鳴り、ばらばらと雨も降るようになってきました。

当初の計画では、車を置いてある鈴ヶ沢橋まで戻るためにこの涸れ滝30mを巻いて上流の沢筋に戻った後、右岸を下流方向へトラバースし小三笠山の北の鞍部を越えて鈴ヶ沢中股を下降するつもりだったのですが、出だしでの1時間のロスが響いてきたのと、何より雨の降る中の沢の下降は避けたいので、予定を変更してそのまま田ノ原まで上がることにしました。そこで目の前の斜面が30m滝の左右に広がる岩壁に突き当たったところから右=下流方向へトラバースし、適当な場所で再び左上を試みたのですが、ここでK沢さんが浮いていたスレートの落石を受けて手の指を切ってしまいました。それでも我慢して登りを続けてくれたK沢さんをトモコさんが樹林の中の安定した場所まで連れて行って、手持ちのテープで応急処置。幸い他に傷は負わなかったようで、痛む指先をかばいながらも遡行は可能のようです。また、うれしいことに応急処置を行った場所のすぐ右手に地形図でも確認できる沢筋を見つけ、これを詰めれば田ノ原に上がる車道に出られることがはっきりしました。

この支沢は両岸を笹と樹林に囲まれ、ところどころに数mクラスの涸滝を擁してどことなく丹沢の沢に似ている感じ。後は体力勝負で、地形図と高度計を見ながら「あと標高差○m!」と励まし合いつつ登ると、途中で前方の高みに車道のガードレールが見えてきました。そこまで達するのにさらにひと頑張りを要しましたが、ここでもトモコさん・K沢さんのスピードについていけず、亥年の女はもれなく足腰が強靭なのか?とぼやきながらなんとか車道に乗り上がって遡行終了。そこから田ノ原まではわずか10分の平坦な歩きでした。

田ノ原から木曽福島方面に下るバスは最終が15時。ゆっくり装備を解いて、携帯電話でタクシー会社を検索し連絡を入れたところ、6,000円出せば木曽福島からタクシーを出して王滝村から鈴ヶ沢橋まで行ってくれるとのこと。バス代が王滝村まで1人1,000円、それにタクシー代を3人で割って1人2,000円だから3,000円の追加出費となりましたが、思ったほどはコストをかけずに車を回収できることになったわけです。

そんな具合にして鈴ヶ沢橋に戻り、再びトモコさんの車に乗って鈴ヶ沢の1本東にある溝口川の上流の「王滝の湯」へ。さっぱりした後は王滝村の王滝食堂でイノブタ料理などを食し、長駆「道の駅 ひだ朝日村」へ移動しました。ここまでくれば、今日の沢の素晴らしさとお互いの奮闘を称え合い明日の成功を祈って飲むばかり。コンビニで買い込んでおいたビールやら缶チューハイやらが2人の女性によってあっという間に空けられ、私が持参した日本酒の900mlパックもまた同様の運命を辿ったことは言うまでもありません。

◎「高原川沢上谷」へ続く。