塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

赤岳西壁主稜

日程:2004/03/13

概要:美濃戸口から行者小屋を経て赤岳西壁主稜を登攀。地蔵尾根を下り、その日は赤岳鉱泉へ。

山頂:赤岳 2899m

同行:Sakurai氏

山行寸描

▲文三郎尾根を登る。上の画像をクリックすると、赤岳西壁主稜の登攀の概要が見られます。(2004/03/13撮影)
▲1ピッチ目のチムニー。取り付いてしまえば意外に簡単。(2004/03/13撮影)
▲上部岩壁の手前。厳しい寒風にさらされる。(2004/03/13撮影)

前回の八ヶ岳でNiizawa・きむひろ組は赤岳西壁主稜、現場監督・塾長組は中山尾根と分かれたため、この4人の中では私だけが赤岳西壁主稜を登っていません。またこのとき仕事の都合で参加できなかったSakurai氏も赤岳西壁主稜を登ることに意欲を燃やしていたので、「それなら今シーズン中に行ってしまいますか」というわけで2人で赤岳西壁主稜に向かうことにしました。ただしせっかくの土日なのでもう1本登ることにし、イージーなら阿弥陀岳北稜、歯ごたえを求めるなら小同心クラックということにして、後は天候の具合を見ながら現地で決めることにしました。

2004/03/13

△05:50 美濃戸口 → △06:50 美濃戸 → △09:05-35 行者小屋前 → △10:50-11:00 1ピッチ目取付 → △12:10 中間の凹状壁 → △12:50 上部岩壁取付 → △14:15 稜線 → △14:30-40 赤岳山頂 → △15:05 地蔵ノ頭 → △15:35-16:10 行者小屋 → △16:35 赤岳鉱泉

Sakurai号で美濃戸口に着いたのは深夜の12時半頃。そのまま車中で寝て5時に起床し、朝食をとってから林道を進みました。天気予報では今日の方が具合が良さそうなので、この日一気に赤岳西壁主稜を片付ける作戦です。美濃戸までの道はけっこう凍っていて歩きにくかったのですが、アイゼンを着けて南沢の雪道に踏み出すとずいぶん歩きやすくなりました。前回はここをNiizawa・現場監督の韋駄天コンビにひきずられるように歩いたのですが、今日は心優しいSakurai氏がパートナーなのでのんびりペース。美濃戸から2時間15分で行者小屋前に到着しました。前方には赤岳も大きな姿をきれいに見せており、今日登る主稜もはっきり見てとることができます。

装備を整え、若干の荷物をデポして文三郎尾根を登りました。トレイルは思いの外に深くないもののそれでも迷うことなく高度をあげていく……はずが、急に腹が減ってきて「ごめん、シャリバテになってきた」とことわって文三郎尾根の途中で行動食を補給しました。本当にこんなゆっくりペースでいいのだろうか?ところが、文三郎尾根が右へぐっと曲がるところに着いて主稜の取付を見下ろしてみると幸運なことに誰もおらず、これなら時間待ちなしに好きなペースで登れそうです。ここから見上げる主稜ははるか頭上に向かって一文字に突き上げており迫力満点。しかも中腹あたりから上は強風が吹き荒れているらしく、雪煙が随所に激しく舞っています。覚悟を決めて道を離れ、左手へ右ルンゼ内のトラバースにかかりました。

Sakurai氏、私の順に、固く締まった雪の急斜面をそろそろとトラバース。前方には噂どおり顕著なチョックストーンのチムニーが待ち構えていて、チョックストーンの下はくぐっていくこともできそうです。その手前の支点にお互いセルフビレイをとり、ダブルロープを結び合って、ここで「リードはどうします?」。どちらでもいいとのSakurai氏の返事にじゃんけんで決めることにして、結果はグーで私の勝ち。しめしめ、このルートはたしか奇数ピッチが面白いはず。

1ピッチ目:私のリード。チョックストーンを越えてチムニーを登り、抜けたところからバンドを右へ大きく回り込んで急な凹角下の支点まで。チョックストーンの下もくぐれそうと書きましたが、ここでくぐってしまっては後でNiizawa氏に何を言われるかわからないので(笑)正面突破することにしました(IV)。チョックストーンの隙間や、さらに左上にも残置スリングがあって「こちらからか?」と眺めましたがあまり条件が良くなく、それよりも直接チョックストーンにかけた引き手の力で両足を突っ張り上げていく方が間違いがなさそうです。というわけでよいしょよいしょとチョックストーンを正面から越えてみると案外簡単でした。その向こうのチムニーに入ると意外に立った凹角でしたが、フットホールドは豊富にあって頭上のコルまで問題なく到達しました。ところがそこから右手へバンドを辿り、ちょっといやらしいミックスの箇所でロープが引けなくなり一瞬往生しました。これはロープの流れの悪さのせいか、それともSakurai氏の陰謀か?「Sakuraiさ〜ん、ロープ送ってる?」と声を掛けると急にロープが軽くなって、なんとか無事に支点へ到着しました。

2ピッチ目:Sakurai氏のリード。支点左の立ったフェースを正面やや左寄りからガバホールド頼みで登り、しばらく進んだところから周囲が開けたリッジに抜けました。このルートでは声が聞こえないことが多いとの情報を仕入れていたので、ロープの動きが止まった後に片方だけ5m引かれたら「ビレイ解除」の合図、とあらかじめ約束しておいたのが奏功しました。

3ピッチ目:私のリード。リッジ上をほとんど平地歩きのようにどんどん登って、中間の岩場の支点まで。これは実にイージーですが、Sakurai氏の手元でロープが絡んでいるらしく、ときどき急にロープが重くなりました。後続のSakurai氏を迎えてみるとどういうわけかロープがキンクしてしまっており、これでは始末に困ったことでしょう。支点からは右に巻いて行くこともできそうに見えますが、ハーネスに付けたトポトップのルート図で確認するとすぐ左に見えている凹角を登ることがわかり、Sakurai氏にそのまま凹角へ突っ込んでもらいました。

4ピッチ目:Sakurai氏のリード。ちょっぴり歯ごたえのある凹角を抜けて再びリッジ上でビレイ。この辺りから徐々に寒風が厳しくなってきました。

5ピッチ目:私のリード。目の前の上部岩壁がぐんぐん近づいてきましたが、その右端が落ち込んでおり、そこを目指して両手両足を使って高度を上げて行きました。50mロープがいっぱいになる直前で支点に到達し、Sakurai氏を迎えたのですが、ここで勘違いしてしまいました。私が「奇数ピッチが面白い」と思っていたのは遠藤晴行さんの『アルパインクライミング』の記事を頭に入れていたからなのですが、この記事でのピッチの切り方では、5ピッチ目は上部岩壁の下まで真っすぐ登り、6ピッチ目を今自分たちがいる地点までのトラバースとしていたのでした。地形を読んだSakurai氏は「次が核心部のピッチなんじゃないですか?」との意見でしたが、固定観念とは恐ろしいもので私は「いや、その次のはずだ」と譲らず、みすみす核心ピッチのリードをSakurai氏にプレゼントすることになってしまいました。

6ピッチ目:Sakurai氏のリード。途中少々苦戦している様子がロープを通じて伝わってきましたが、しばらくして「ビレイ解除」の声が聞こえてきて一安心。後続してみると出だしの小垂壁(III)、続くミックス壁のトラバース気味の右上、凹角の直上(III+)と極度に難しいわけではありませんがけっこう緊張させられるピッチでした。ビレイポイントに着いたところでSakurai氏に「(セカンドでも)けっこう怖かったんですけど」と声を掛けるとSakurai氏も「怖かったですよ〜」と返してきましたが、目は笑っていました。

7ピッチ目:私のリード。ここから先は易しいミックス帯で、傾斜に沿ってロープを伸ばし、はっきりした凹角の手前左側にピナクルを見つけてそこでビレイ。寒いから急ごう!

8ピッチ目:Sakurai氏のリード。凹角を越えてこれも適当に上に進み、やはり岩角でビレイ。その上は出だしの数mを登ったら、後は一般道と同じと言ってもいいほど緩やかな傾斜になったのでビレイを解除してもらい、さっさと前進してすぐに登山道に合流しました。後続のSakurai氏の姿を立派な阿弥陀岳をバックにカメラにおさめてからロープを外し、肩に担いですぐ上にある赤岳山頂へ向かいました。登攀時間は3時間15分。先行パーティーがいなかったので3時間を切りたかったところですが、初めてのルートとしては合格点ではないでしょうか。

誰もいない快晴の赤岳山頂で行動食をとり、10分ほどで下山開始。ショルダーから主稜を振り返ると、後続パーティーが我々の8ピッチ目上の岩角あたりに着いたところでした。上部岩壁のすぐ上までは我々のどちらかがリードを開始すると後続がビレイポイントにやってくるという間隔で、スピード面で迷惑をかけているのかなと思っていたのですが、最後はずいぶん間を開けることができたようです。ちなみに、この日我々の後ろに確認できたのは3人パーティーと4人パーティーの2組のみでした。

地蔵尾根を下って行者小屋に戻り、ギアを外してデポしていた荷物を回収。中山乗越を越えるところでSakurai氏と共に大同心と小同心を見上げ、ここで翌日は小同心クラックを登ることをお互いに確認し合いました。

◎「横岳西壁小同心クラック」へ続く。