中国の不思議な役人 / イン・ザ・ナイト / ボレロ(東京バレエ団)

2017/02/22

東京バレエ団の「ウィンター・ガラ」をBunkamura オーチャードホールで。演目は、久しぶりに観る「中国の不思議な役人」、東京バレエ団にとって初演となる「イン・ザ・ナイト」、そしてパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督オレリー・デュポンが踊る「ボレロ」の組合せというたいへん興味深いものです。

中国の不思議な役人

この作品は2009年にも観ており、そのときは首領:後藤晴雄、娘:首藤康之、ジークフリート:柄本武尊、若い男:井脇幸江、そして中国の役人が木村和夫という配役でした。今回首領は柄本武尊の弟である柄本弾、娘は宮川新大、ジークフリートは森川茉央、若い男は伝田陽美と変わりましたが、中国の役人はやはり木村和夫。というより、この役は端正が服を着て踊っているようなキャラクターの木村和夫以外に踊りこなすことができそうにないと思われるほどの彼の当たり役ですが、2004年の東京バレエ団初演以来この役を踊ってきた木村和夫も、今回が最後の「役人」となるそうです。

そうした背景の下での「役人」の存在感は圧倒的で、人力車に乗り強い光に照らされての登場からの無機的な表情と所作(指先から爪先までも)から、娘の虜になってからの憑かれたような執着ぶり、そして悲惨でありながら神々しい絞首刑の場面、金髪のウィッグを相手に欲望を遂げ呪縛から解き放たれての最期に至るまで、木村和夫が恐ろしいまでの集中の中にいることがひしひしと伝わってきました。この作品の倒錯性を代表する娘の宮川新大も、ノワールな雰囲気を醸し出す首領の柄本弾も好演であったことは間違いありませんが、木村和夫の前には霞んでしまいます。

今回は二度目の鑑賞ということもあって、ドラマティックな緊迫感に満ちたバルトークの音楽、スモークの中に退廃美を視覚化した照明とセットにも感動しましたが、ときに背後で蠢きときに群れをなして役人に襲いかかるアンサンブルの見事さも特筆ものだと感じました。

イン・ザ・ナイト

ジョージ・バランシンの後を継いでニューヨーク・シティ・バレエ団を率い、ブロードウェイでは「ウエスト・サイド・ストーリー」「王様と私」「屋根の上のヴァイオリン弾き」などをヒットさせたジェローム・ロビンズがショパンのノクターン(op.27-1,op55-1&2,op9-2)に振り付けた、三組の男女の物語。東京バレエ団にとって初のロビンズ作品である「イン・ザ・ナイト」は、ところどころにはっとする技巧の煌めきを織り込みながらも、全体を通してショパンのノクターンの曲想を穏やかに美しく視覚化するそのシンプルさのゆえに難しいと言われているそうです。

演目名の通り暗く抑えた照明の下、舞台手前のオーケストラピットの下手側に置かれたピアノの演奏に乗って、最初の組は星のまたたきに見守られ優美に、次の組はシャンデリアの輝きの下で歓喜に包まれながら(倒立リフトも!)ダンサーたちが踊ります。とりわけ3組目の上野水香・柄本弾の長身ペアは、大胆なリフトを多用した情熱的なダンスを見せつつすれ違いの心情もかいま見せて圧巻。最後は有名なノクターン第2番(op9-2)に乗って全員が登場し、さまざまな組み合わせで優しく踊ってから、女性を男性がリフトして順番に下がっていきました。

ボレロ

2015年5月にパリ・オペラ座バレエ団のエトワールを引退した後、2016年8月に同バレエ団の芸術監督に就任したオレリー・デュポンが、東京バレエ団の公演にダンサーとして客演して踊る「ボレロ」。

これまでベジャールの「ボレロ」は、ジョルジュ・ドン、パトリック・デュポン、マリシア・ハイデ&リチャード・クラガン、さらに上野水香で観ていますが、やはり最も強いイメージとなっているのはシルヴィ・ギエムの「ボレロ」です。そのオーラでテーブルの上からリズムたちを睥睨し、支配し尽くす強靭なメロディ……という刷り込みを解き放たないままでオレリーの「ボレロ」を見ると、そのダンスは端正に過ぎ、エネルギーの不足を感じてしまいました。肩をそびやかす本来挑発的な所作は簡素に流され、ジャンプは高さを欠いて不安定。ギエムや上野水香のようにテーブル上に肘をついての蠱惑的なポーズの代わりにジョルジュ・ドンと同じく立ったまま胸の前にV字を作る形を採用したことと考え合わせると、彼女がかつて見舞われたという膝の故障のことを思い出します。

しかしそれでも、最後にリズムたちと共にメロディがテーブル上に倒れ込んで暗転すると、ホールはこれ以上ないほどに盛大な拍手と歓声に満たされました。

キャスト

「中国の不思議な役人」 無頼漢の首領 柄本弾
第二の無頼漢 / 娘 宮川新大
ジークフリート 森川茉央
若い男 伝田陽美
中国の役人 木村和夫
「イン・ザ・ナイト」   沖香菜子 - 秋元康臣
川島麻実子-ブラウリオ・アルバレス
上野水香-柄本弾
ピアノ 松木慶子
「ボレロ」 オレリー・デュポン
杉山優一 - 岸本秀雄 - 森川茉央 - 永田雄大