白蛇伝(中国国家京劇院)

2016/05/31

池袋の東京芸術劇場で、中国国家京劇院の「白蛇伝」を観ました。2002年に上海京劇院による同演目を観ており、そのときの主役・白素貞は人気絶頂の史敏で、青衣としての切々とした唱と武旦としての激しい武戯を共に見せてくれて客席を圧倒したのですが、今回も付佳が文戯と武戯を一人で演じるところがポイントとなります。

なんだ、これは?

第1場「遊湖」は、春の西湖に白素貞(付佳=青衣)と小青(白瑋琛=武旦)が遊ぶ場面。伝統的な京劇では舞台装置はほとんどないのですが、この日は彼方に断橋を架けた湖を描く背景画があり、上手側には上から柳の葉が垂れています。名前の通り、白素貞は白い衣装ですらりとした美人、小青は青い衣装で少年っぽい意思の強さを垣間見せる顔立ち。折しも降り出した雨のために柳の下で雨宿りをする二人に声を掛けた許仙(張兵=小生)はゆで卵のようにつるりとふくよかな顔立ちで高い声を使います。三人で舟に乗る場面のゆらゆらは、「秋江」を始め京劇ではおなじみの演技ですが、何度観ても感心します。

第2場「結親」で許仙は、貸した傘をとりに白素貞を訪ねますが、白素貞の意を受けた小青は許仙が結婚していないかどうかを確かめ、独身であることがわかると息も継がせぬ押しの一手で一気に婚礼まで持ち込みます。この場面のテンポ感はまるで後で観ることになる立ち回りのようで、爽快ですらありました。

第3場「説許」で法海の警告を受けた許仙は、第4場「酒変」で端午の節句の日に白素貞に雄黄酒を無理強いし、帳の中で蛇の本性を表した白素貞の姿を見て、能の仏倒れのように見事に後ろに反って倒れ死んでしまいます。最後の場でも許仙が小青に脅されてキレよく倒れる場面が出てくるのですが、許仙役の張兵は見た目に似ず身のこなしが軽いようです。ともあれ、夫を生き返らせるために霊芝仙草をとりにゆく決意の唱は力強く、最初の聴きどころとなりました。

第5場「盗草」はここだけを取り出した折子戯(一幕物)としても有名な場面で、鹿童・鶴童の二人の武生を相手とする立回りとなります。いかにも京劇らしい身のこなしの二人に対し、白素貞も相手の剣の下でくるくる回転したり、自分の剣を頭上に飛ばして鞘を払ったり、足で相手の剣を投げ上げて渡したりと武戯の達者なところを見せましたが、身重であるためにかなわず危うくなったところを、南極仙翁の計らいでどうにか仙草を与えられることになります。

休憩の後、許仙が法海に従うこととなる顛末を描く第6場「観潮」に続いて、第7場「索夫」で白素貞と小青は法海に許仙を返せと迫りますが、小青が法海を「くそ坊主」などと罵倒するその元気いっぱいのムカつき具合が魅力的で、客席は大喜び。

第8場「水闘」が最も派手な立回りを見せる場面で、白素貞につく長江の水族=ひらひらの貝や亀、魚、海老たちに対するのは天界の将兵たち。体操選手も真っ青の空中回転の連続技を披露した後に、小青が文字通り水を得たかのような超高速での二刀捌きを見せて喝采を浴びました。そして白素貞も、最大4人の敵を相手に唱を歌いながら槍を打ち返す打出手を見せた後、さらに敵が一人増えたところで小青の加勢を受けて投げつけられる槍をさらに足で打ち返したりしましたが、全体にその動きはゆったり流れるようなもので、立回りの妙技という点ではやや緩い感じがしました。

第9場「逃山」は丑の見せ場。寺に閉じ込められて悶々としている許仙が戦いの音や声を耳にし、小僧に頼み込んで山を下りてゆくと、許仙を逃した罪を問われることを恐れる小僧もあたふたして逃げていってしまいます。

ラストの第10場「断橋」は、見事な唱の応酬です。金山寺の戦いに敗れた白素貞と小青は許仙との出会いの地へ逃れて、そこで山から下りてきた許仙と再会します。そこで繰り広げられる、白素貞による恨みの唱と許しを乞う許仙の唱が共に胸にしみますが、怒りに燃える小青は隙あらば許仙に斬りかかろうとして、その殺気はなかなか収まりません。ついには和解した白素貞と許仙がビビりながら小青の機嫌を伺う始末で、無言で怒気を示す小青に後ろずさる二人というのは深刻な場面なのに、おかしみが漂います。それでも、白素貞の懇願についに小青は表情を緩めて剣を納め、三人で新しい生活を立て直すことを約束したところで、幕となりました。

上海京劇院のときには演じられた雷峰塔のエピソード(白素貞は許仙と和解したものの、法海に囚われ西湖畔の雷峰塔に閉じ込められる)を省略し、手際の良い場面転換でテンポよくストーリーを進めた演出は、見事。白素貞役の付佳は青衣が本分だけに立回りはかつての史敏と比べると弱さを感じましたが、そこは小青役の白瑋琛に補強させ、第4場「酒変」と第10場「断橋」での唱で客席を大いに感動させてくれました。

パンフレットによって得た「豆知識」をいくつかここに、記しておきます。

  • もともとの白蛇伝では、正しい心をもつ青年が美女に変身した蛇の妖怪に魅入られるものの、高僧の力で救われる、という筋書きだったそう。それが18世紀頃から、白蛇の純愛を青年が受け入れるというストーリーに変わったのは、民衆の白蛇に対する同情に基づくもの。
  • 古い白蛇伝には前日譚として、もともと小青は雄の青蛇だったが、白蛇に負けて侍女の姿になったという「収青」が着いていた。こうした隠し設定は、今でも川劇(四川省の地方劇)などでは残っているのだそう。

配役

白素貞 付佳
許仙 張兵
小青 白瑋琛
老船頭 / 南極仙翁 呂昆山
法海 譚師
鶴童 / 伽藍 王宇舟
鹿童 / 金甲神 朱凌宇
小僧 張亜寧

あらすじ

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