上原ひろみ The Trio Project

2015/12/15

ブルーノート東京で、上原ひろみ The Trio Projectのライブ。

前作『ALIVE』を携えてのワールドツアーの一環としてのライブは昨年12月の東京国際フォーラムでしたが、その終演後にホールクラスでのライブではなく、生のピアノ音が聴けるクラブサイズで、この饒舌な3人の音を聴きたいと願ったところ、その願いが一年を経てかないました。そして、この時期にこのトリオでのライブがブルーノート東京ということは、きっと新作の発表間近なのだな、と予測をつけて表参道に向かいました。

すっかりクリスマスの装いのブルーノート東京の、この日はセカンドステージを予約しました。つきあってくれたのは、ボル友Y女史です。Y女史には以前、六本木のSTB139でのManu Katché Quartetteのライブにもご一緒いただいたことがありますが、Manu Katchéがシックなジャズだったのに対し、こちらはロック並みに体育会系ですから、とあらかじめ予告しておきました。

20時半頃に場内に入ったところピアノ側の自由席は先に埋まっていましたので、しからばとドラム側の席に座りました。ここからはSimonの千手観音ぶりと上原ひろみの「顔芸」がよく見えるはずですが、Anthonyの姿は巨大なドラムセットの影に隠れてしまいそうです。

席が決まれば早速探検。ドラムセットの構成は特に変化なし、ピアノの上にもいつもの通りNord Lead 2。後でわかることですが、Simonは3台のスネアの内で右寄りの小口径のスネアをかなり多用していました。

ビールとチーズでおしゃべりをしている内に定刻の21時半になり、大きな拍手に迎えられた3人の練達のミュージシャンが明るい表情でそれぞれの場所に陣取りました。一番近くに座ったSimonはリラックスしたカジュアルな柄のシャツにデニムのパンツ、Anthonyは紺の開襟シャツ、そして上原ひろみは深い青と緑のチェックのツービースに見えるワンピース(by Blue Label Crestbridge)で、これは彼女の旦那さんの関係のようです。しばしの静寂の後に上原ひろみのピアノでステージが始まりました。

SPARK
ピアノのリリカルなイントロから珍しくパッド系の全音符がコードを奏で、5/16拍子の特徴的なリフにドラムが重なって、その5拍子の右手に左手が三連符で絡むスリリングなオープニング。もうこれだけでノックアウトです。3拍子のスピーディーなドラムとベースの上でどこまでも手数の多いピアノソロから複雑なリズムの遊びを聞かせるドラムソロ、そしてやがて冒頭の奇数拍子リフへ回帰して両手ユニゾンで駆け上がるピアノをツーバスが煽り、きっぱりとしたエンディングへ。
Player
2014年のアルバム『ALIVE』から、ちょっとカオスなイントロの後に躍動的なリズムと明るいメロディが楽しい曲。Anthonyのコントラバス・ギターが活躍した後にミドルテンポの音域の広いランニングベースと上品なブラシワークに乗ったジャジーなピアノソロとなり、途中から突然ギアアアップして倍速へ。猛スピードなのに本当に楽しそうに演奏している3人に、観客も負けじと合いの手のような歓声で参加しました。

ここでMCが入ります。この一年世界中津々浦々を回ったバンド仲間のAnthonyとSimonを紹介した上原ひろみは、来年2月3日に『SPARK』が発売されることを告げて拍手を浴びた後に、聴衆へのお詫び。今まで出ているアルバムを聴き込んでいっぱい予習して今日ここに来て下さった皆さま、たいへん申し訳ありません。ここで大笑いになった聴衆は、今日は新譜からの曲をたくさん演奏する「新曲祭り」だと聞かされて大喝采。

さらにスペシャルフードとスペシャルドリンクの紹介は、まずフードが餃子とどら焼き。ファーストセットの前に食事をとり、セカンドセットまでの間にどら焼きを食べるという上原ひろみは、ブルーノートでの七日間の演奏が終了する頃にはドラえもんのような体型になっているのではないかと自分で自分を心配していました。さらにドリンクの方では「スタ……」と言いかけたところでMCストップ。「言っちゃった!」とツッコミを入れた客がいましたが、上原ひろみは自分が好きな『スター・ウォーズ』をモチーフに「DARK SIDE」(アルコール入り)と「LIGHT SIDE」(ノンアルコール)と名付けたものの、権利の関係でここでは映画の名前を出せないのだそうです。大慌てで「さっきの数文字は聞かなかったことにして下さい。危なかったですね。言ってませんよ?言ってません」としどろもどろになっていました。

Take Me Away
マレットを用いた哀感漂う(?)ドラムパターンの上にピアノとコントラバス・ギターが静かにメロディを重ね、やがて一転してドラムが疾走を始めると曲が緊迫。さらに曲調が変わってリムショット中心のドラムと落ち着いたベースの上で情感溢れるピアノソロが続きます。徐々に高揚の度が高まっていったものの、やがてもどかしげに曲は内省的なムードに戻って終わりました。
Dilemma
細かいピアノとシンバルとスネアのリフから爆発的な変拍子リズムの洪水へと行き来するエネルギッシュな曲。メインリフは11拍子。中間でいったん沈静化し、ところどころエスニックな雰囲気も漂う前衛的なスケールの上を音がころころと転がるピアノソロから一転リズムセクションがドライヴをかけてきて(Simonの足が忙しく動いているのがはっきり見てとれます)突き抜けたところでピアノの静かな全音符とSimonのマレットワーク。ドラムのパワーが徐々に高まってきて激しいドラムパターンを聞かせ、フォルテシモでの全楽器ユニゾンのリズムのキメを聞かせた後に冒頭のリフを力強く弾ききりました。
Place To Be
Simonが下がり、Anthonyもステージ上で暗闇の中に消えて、上原ひろみのソロ。ピアノの筐体内の弦をグリッサンドした金属的な響きと鍵盤での穏やかな印象とをイントロに置いて、2009年の『Place To Be』からタイトルチューン。柔らかいタッチで細かく丹念に鍵盤上を走る指、どこか郷愁を漂わせるメインテーマ。聴衆は皆、息を詰めてじっと聴き入りました。
In A Trance
この辺りでPAのノイズをSimonはちょっと気にしたものの、気持ちを入れ替えてスティックでカウントを始め、次の瞬間、怒濤のリズムバトルへ。細かいバスドラとスネアがリードする強靭なピアノソロパートは15拍子。圧倒的なパワーでぐいぐいドライヴする曲展開からいったん曲が終了したかと見せて、ここからSimonのドラムソロに移ります。上原ひろみは舞台中央のAnthonyの後ろに立って水を飲みながらリラックス。かたやSimonはあの要塞セットの能力をすべて引き出すようにスネアロールと技巧的なタム回しを組み合わせた長大なドラムソロを展開しました。最後に一瞬のブレイク、そして大胆にラテンフレーバーなピアノのリフが聴衆を覚醒させてから、15拍子パターンへ帰還しました。

ここで本編は終了で、3人はステージ上に並んで聴衆の歓呼の声を受けていましたが、Anthonyが二人に何ごとか話しかけて、ステージから降りることなくそのままアンコール曲の演奏に入りました(後日mixiのコミュで知ったところでは、Anthonyは膝と腰を傷めていたらしく、そのことが影響していたのかも知れません)。

What Will Be, Will Be
マーチングドラムのようなリズムパターンと極太のコントラバス・ギターのうねるリフ(シンセで低音を重ねていた模様)のイントロ、そしてハイハットのオープン・クローズの上に「Margarita!」を連想させる楽しげなメロディ、Nord Leadのレゾナンスが効いたユーモラスな音色のソロでは顔芸も炸裂。もちろん超絶ピアノソロも加わって、明るい気持ちで聴衆を深夜の街に送り出そうという上原ひろみの思いがこもった演奏でした。

素晴らしくエネルギッシュで、楽しいライブでした。どの楽曲も生き生きとして魅力的で、これは来年2月の新譜の発売が楽しみ。そんなわけで、帰宅してからAmazonで『SPARK』の予約購入ボタンをクリックしたことは言うまでもありません。

ミュージシャン

上原ひろみ Piano / Keyboards
Anthony Jackson Contrabass guitar
Simon Phillips Drums

セットリスト

  1. SPARK
  2. Player
  3. Take Me Away
  4. Dilemma
  5. Place To Be
  6. In A Trance
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  7. What Will Be, Will Be