西本智実 / イルミナートフィル

2015/12/11

Bunkamura オーチャードホールで、西本智実さん指揮のイルミナートフィルハーモニーオーケストラの演奏会。普段あまりクラシックを聴く方ではないのですが、月末のシルヴィ・ギエム引退公演に備えて「ボレロ」を生で聴いておこうというやや不純な動機から昨日に引き続きBunkamuraに向かいました。座席は三階席の正面で、かなり高い位置からオーケストラを見下ろすかたちになりますが、その代わり各楽器がどこでどのように動いているかが一望できて、これはこれでよい席でした。

パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
パガニーニの無伴奏ヴァイオリンのための「24のカプリース」の第24曲の主題をもとに、序奏、主題、24の変奏曲からなる狂詩曲。ピアノを独奏楽器とし、ところどころにグレゴリオ聖歌『レクイエム』の「怒りの日」の旋律が紛れ込んできます。一つ一つの変奏曲は大半が1分にも満たない短いものばかりですが、ピアノとオーケストラが様々な趣向で主題を変奏し、そのアイデアの豊富さと随所に登場するピアノ(外山啓介氏)のダイナミックな技巧とに目を瞠りました。しかし、第18変奏は例外的に3分近い長さをもち、そして極めて優美な流れるような旋律に惹きつけられます。その旋律に乗って、指揮者の動きも、弦楽器群の弓の動きも、しなやかなダンスを見ているように感じられました。
組曲「展覧会の絵」
ムソルグルキーの「展覧会の絵」はもちろんピアノ組曲ですが、私が最初に聴いたのは冨田勲のシンセサイザー版だったと思います。ついでEmerson, Lake & Palmerのロック版、原曲のピアノ版、そしてかなり後になってラヴェルによるオーケストラ版。冒頭の「プロムナード」のトランペットから早くもインパクトが強く、以後、チェレスタも交えたカラフルな演奏を通じて展覧会の絵の数々がその場に立ち上がってくるかのよう。ラヴェルが原曲の楽譜を見ながら、どこにどの楽器をあてようかと楽しむ様子が目に浮かぶようです。牛車の重々しい歩み、サムエルゴールデンベルクの重厚な姿、市場の賑わい、地下墓地の厳粛な雰囲気、バーバ・ヤガーの不穏な気配。そして最後に、チューブラーベルや銅羅を含むあらゆる打楽器が活躍する「キエフの大門」の壮麗な大団円へ。
ボレロ
弦楽器群の中央、管楽器の前に小太鼓が置かれ、そのリズムパターンを中心にして同一主題が長大なクレッシェンドの下に繰り返される特異な曲。もともと1928年にラヴェルが作曲したときからバレエ音楽として創作されたものでしたが、この曲をとりわけ有名にしたのはモーリス・ベジャールの20世紀バレエ団によるバレエの衝撃的な振付でしょう。しかし、この日の演奏では音楽自体の持つ力がホールを埋めた聴衆を存分に掌握していました。西本智実さんの指揮はかなりテンポが速いように感じましたが、その全身を躍動させて指揮する姿はシルヴィ・ギエムのダンスと二重写しに見えました。そして、前半のいまだ弱音のパートで胸に抱きかかえられて弦を弾かれていたヴァイオリンたちが軛を解き放たれて自在に歌い始める場面、あるいは後半もう一台のスネアが加わって打楽器群が咆哮を始める瞬間、その他いくつものクライマックスを曲中に織り込みながら果てしない高みに達し、一瞬の後に最後の崩落を示して終わりました。

大喝采の中、ステージの袖から戻ってきた西本智実さんは熱演の余韻で息を切らせていましたが、マイクを手にとってアンコールの曲を紹介し、一緒に歌うようにと聴衆に求めました。

クリスマス・フェスティバル
「そりすべり」「トランペット吹きの休日」などでおなじみのルロイ・アンダーソンによるクリスマスソングのメドレー。「もろびとこぞりて」「ひいらぎ飾ろう」「きよしこの夜」「ジングル・ベル」などが次々に登場しますが、この内「きよしこの夜」では聴衆も歌い、西本智実さんも客席の方を向いて指揮をしてくれました。

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西本智実さんは国際的に活躍している指揮者で、イルミナートフィルの芸術監督も務めており、すらりと背が高く颯爽とした姿には風格すら感じましたが、壇上でタクトを使わず全身を躍動させて指揮する姿には、女性らしいしなやかさが感じられました。そう言えば、イルミナートフィルのヴァイオリン奏者は女性比率が高く、指揮者の横にいたのはコンサートミストレル。タンクトップでむき出しになった肩は筋肉質でしたが、ベルボトムのパンツ姿はこれまた爽やかで目を引きました。その若々しさはそのまま、イルミナートフィルの躍動感に満ちた演奏力の源泉でもあるのでしょう。

今回は「ボレロ」目当てで演奏会に足を運びましたが、これからは彼らの活動を継続的にウォッチするつもりです。