Moon Safari

2014/10/22

渋谷のTSUTAYA O-WESTにて、スウェーデンのバンドMoon Safariのライブ。このバンドは、音友robin☆さんが勧めてくれて、その美しいメロディラインとテクニカルな変拍子、それにコーラスワークに魅せられ、来日の機会があれば必ず参戦しようと心に決めていたものでした。「Mega Moon Japan Tour 2014」と題した今回のツアーは2度目の来日ですが、単独では初。このツアータイトルは彼らの最新スタジオアルバムである『Himlabacken Vol.1』(2013年)の中の曲名からとられたものであり、セットリストもこのアルバムの曲に力点を置いたものとなります。

仕事をさくっと終えて、軽く夕食をとってから真っすぐ渋谷へGO。O-EASTには何度か来ているもののO-WESTの方は初めてのような気がしていましたが、後で調べてみたら2000年のPlanet Xのライブの会場がここ(当時は「On Air West」)でした。ともあれ、ハコとしてはやや小さい(O-EAST 1,300に対しO-WEST 600)会場内に入るとオールスタンディングの場内は既に満杯。それでも中央後ろ寄りのまあまあの位置を占めることができました。ステージ上は、向かって左の前列にメインキーボード2台(上がNord Wave、下がNord Electro 3 - 73keys)、その後ろにベースの立ち位置。中央にマイクスタンド、その後ろはこの手のバンドにしては比較的シンプルなセッティングのドラム。向かって右前列がギターの立ち位置で、その後ろにもう1台のキーボード(Nord Electro 3 - 61keys)。赤いボディが特徴のNordシリーズをリリースしているClavia社はスウェーデンの企業だから彼らがこの製品を使用するのは当然なのですが、上原ひろみも長らく愛用していますし、一般のミュージシャンにも使用されていて、近年の音楽シーンではごくポピュラーな存在です。

定刻が近づくにつれうっすらとスモークが広がり、やがて客席側の照明が落ちると共にステージ上にライトのシャワーが降り注ぐ中、『Himlabacken Vol.1』のオープニングナンバーである「Kids」がSE代わりに流され、バンドが登場しました。ロックバンドには珍しく、長髪はメインキーボード / リードボーカルのSimon Åkessonだけ。中央に立つもう1人のリードボーカルのPetter Sandströmはハンチング帽がトレードマークでアコースティック12弦を抱え、トサカ状のオールバックで髭面・長身のベーシストJohan WesterlundのベースはGibson Victory(John Wettonも時々使用しているアレです)のサンバースト、Åkesson兄弟の残り2人の内ギターのPontusはゴールドトップのLes Paulでした。

Too Young to Say Goodbye
『Himlabacken Vol.1』収録。「Kids」のコーラスが消えると共にドラムの5カウント、そしてゆったりサステインを効かせた5拍子のギターフレーズからスタート。4拍子のメインボーカル、美しい7拍子コーラスを経て疾走感のあるリズムへ。これはもう、最初から最高です。
Heartland
『Lover's End』(2010年)収録。昨年のDJイベントでも取り上げましたが、Sebastianのメロトロン音から始まる長尺のこの曲は、リードボーカル2人の掛け合いが楽しく、そこから複雑なリズムのギミックを含むコーラスへと展開する、跳ねるような楽しいリズムを持つ曲。途中でPetterが聴衆に手拍子を要求しましたが、5拍子で手拍子をすることになるので表になったり裏になったりと聴衆はドギマギ。どういう符割にしているのか、ベース譜を見てみたいものです。
Moonwalk
『Blomljud』(2008年)収録。スネアの細かいマーチ風ロールから始まり、ぐいぐい押してくるオルガンからリリカルなピアノ、さらにポルタメントのかかった高音のシンセソロ、一転して爽やかなChoirとキーボードが活躍する長大なイントゥルメンタルナンバー。Pontusのギターも叙情溢れるゆったりしたソロで曲趣を盛り上げていましたが、それにしても先ほどから見ていると2人目のキーボードプレイヤーであるSebastianの出番があまりありません。Simonが右手でソロをとるときにもバッキングを左手で弾いていましたが、少しはSebastianに仕事を分けてあげればいいのに、と心配になるくらい。バンドに最後に加入した彼は、どうやらコーラスとキーボードに「厚みをつける」ことがミッションであるようです。贅沢というか、気の毒というか……。
Mega Moon
『Himlabacken Vol.1』収録。PetterのMCはBring the moon down here just for you, Japanese fans.とかなんとか。ミラーボールが輝き、少々コミカルな響きのピアノのアルペジオからSimonのボーカルに続きますが、コード進行がなんだか不思議な雰囲気。途中でリズムも曲調も変わるとQueenを思わせるコラージュのようなシアトリカルなコーラスからストレートな6/8拍子のロックナンバーに展開して、夢から覚めたように冒頭のピアノとファルセットでのコーラスワークに回帰します。
Yasgur's Farm
『Blomljud』収録。MCでウッドストックへの言及がありましたが、Yasgur's Farmとは1969年のウッドストック・フェスティバルの会場のこと。歌詞の中にウッドストックを明示する単語は出てきませんが、その時代のヒッピー文化の高揚と、もしかすると挫折とを歌っているようにも聞こえます。60年代風の激しいオルガンの背後でベースが唸り、やがて短いギターソロが曲調を変化させると7拍子での音域広く表情豊かなボーカルの掛け合いからコーラスパートへ。その後の長いギターソロとレスリーのかかったオルガンソロもこれでもかと言うくらい7拍子で押しまくります。途中からボーカル2人ともジャケットを脱いでTシャツ姿になりましたが、SimonのTシャツはMoon Safari柄。
A Kid Called Panic
『Lover's End』収録。これが最後の曲だとアナウンスされて「えー?」「No!!」の声。まだ1時間しかたっていないのに何で?舞台奥から客席を照らす強い照明。逆光の中、ギターの奏でる3拍子と7/8拍子のイントロにテクニカルなシンセが重なりプログレッシブ。3拍子に戻ってメロディアスなボーカルに聴く者の心も浮き立ってきますが、歌詞はハッピーというわけではなさそう。アコースティック12弦の3拍子系カッティングの上にシンセソロが乗った後に4拍子に戻って手拍子が始まりましたが、実は《8/8+7/8+8/8+8/8》だったり《8/8+11/8+8/8+8/8》だったりするのですぐについていけなくなりました。アップテンポなシンセソロから気合のこもったコーラスパートを経てドラマティックなリズム隊とピアノ、ギターソロ、そしてSimonのしみじみボーカルに続いてメインテーマのコーラスがギターソロを絡めて終曲へ。楽器のソロではなくコーラスに対して拍手が湧くという経験はこのライブが初めてですが、それくらい感動的なコーラスワークでした。

ここでバンドはいったん袖に下がりました。ずいぶん早い本編の終了だなとは思いましたが、あっという間に戻ってきたバンドが、ここから本編と同じ長さのアンコールを繰り出すとまでは予想していませんでした。

Dance Across the Ocean
『A Doorway To Summer』(2005年)収録。パラッパッパッパパラッパッパというコーラスから入る5拍子の曲。オールドスタイルの親しみやすいシンセソロからアコースティックギターとピアノの間奏を経てこれもコーラス中心の曲展開。ついでSimonはMinimoog風の音色でばりばりシンセソロを弾いてみせた後、ピアノのコードワークからさらに派手なシンセフレーズをギターとのユニゾンで決めて存在感抜群。この後、暗く沈潜するピアノが鳴る中でPetterは青字に黄十字の小さなスウェーデン国旗をマイクスタンドに掲げました。一方、ついにこの曲ではSebastianはタンバリンのみの演奏になってしまい、ブレイクで「1,2,3!」と声を掛けたのが唯一の見せ場になってしまいました。かわいそうなSebastian……。
Lover's End, Pt. III: Skellefteå Serenade
『Lover's End, Pt. III: Skellefteå Serenade』(2012年)。冒頭のrobin☆がiPodで聴かせてくれた曲が、この曲です。ゆったりしたマーチ風の7/8拍子から入り、朗々たるボーカルを力強いコーラスが支えた後にリズムはゆったりした7/4拍子に変わり、テクニカルでありながら美しいギターソロを経由して力のこもったオルガンが主導する7/8拍子からピアノの広音域でのアルペジオによる4/4でやっと手拍子が湧き起こりました。しかし、この後にファルセットによるコーラスが続くのですが、ここはかなり苦しそう。何とかここをこなして間奏のスピーディーかつ複雑なリズムパートに続く気持ち良さそうなシンセの高速ソロ(前半7/8+8/8→後半8/8+8/8)のときに、2人のギタリストが真正面から近づき、Petterが隙を突くようにPontusにキス!うわーとのけぞるPontus!それでもめげずにギターソロを決めた後、ぐっと曲調を落ち着かせてギターのアルペジオの上でSimonが朗々と歌った後、But you know that I love you.と言うキメのフレーズをPetter→Pontus→キーボード2人へと回すコーラスワークが見られました。この後にも美しいギターソロが聴かれた後、最後はキーボード2人とPontusのコーラスが地謡の地取のように低く遥かに流れてドラマティックな終曲へ。着席の会場だったら、間違いなくここでスタンディングオベーションになっていたことでしょう。
Constant Bloom
『Blomljud』収録の曲。全員でのウイーン少年合唱団風(←たとえが古い……)アカペラで、ベースのJohanが歌うのはこの日この曲が唯一の機会でした(ドラムのTobiasは「Yasgur's Farm」ではマイクをセットしてコーラスに加わっていました)。
Methuselah's Children
『Blomljud』収録。タイトルは、ハインラインのSF『メトセラの子ら』です。ピアノとギターの静かな絡みからカウントが入って艶やかなシンセソロ。ゆったりした6/8拍子を基調としつつ、ところどころに5/8拍子を交えながらリードボーカルの掛け合いや分厚いコーラス(ちょっと息切れ気味)。一転、妖しい低音連打のピアノにリズムが緊迫して不安定な高音コーラスから伸びやかなギターソロ、リズムを変えてシンセサイザーのアルペジオリフからシンセソロ。またまたリズムを変えてコーラス中心の曲展開へ。最後はPontusの雄大なギターソロを経て、全楽器が長く引っ張った後にピアノの短くリリカルなフレーズで曲を締めくくりました。

ステージを去る前に、前列の聴衆に手を伸ばしてフレンドリーにタッチするバンドメンバーたち。そればかりか、袖に引っ込んでしばらくたったところでメンバーがステージ上に戻ってきたので「?」と思っていたら、自分たちで楽器を片付け始めたのには驚きました。こういう光景を見るのは初めてですが、アマチュア時代から繰り返してきた彼らの習慣でもあるのでしょう。

グッズ売り場は会場の外に設けられており、終演時にPetterが「See you outside!」と叫んでいたことからすると、メンバーがここでファンと交流してくれるということになっているのでしょう。しかし、雨の中いつ出てくるかわからないメンバーを待つ気にまではなれず、Simonが着ていたのと同じ柄のTシャツを購入できたことに満足して、O-WESTを後にしました。

Moon Safariのライブ、素晴らしい体験でした。売り物のコーラスはライブでは案外不安定で、随所に疑問符のつく音程が聞かれたのですが、元の楽曲の良さで押し切った感じです。ことに、3拍子・5拍子・7拍子を巧みに組み合わせた複雑な構成でありながら、2人のリードボーカルの特性(Petterはポップ、Simonはロック)と三声・四声のコーラスの厚みを活かしたキャッチーなメロディラインのおかげでどの曲も親しみやすく、もし彼らが(演奏中にビールを飲まずに?)完璧なコーラスを聞かせ、スタジオ盤でのシンセサイザーの音色の再現にもこだわってくれていたら、鉄壁のライブとなったことでしょう。また、コーラスワークにばかり耳がいきがちですが、これだけリズムの複雑な楽曲を破綻なくまとめ上げるリズム隊の力量も素晴らしいものでした。高音域も多用しつつ暖かみのある音色で歌うJohanのベース、流れるようなスティックワークで手数が多いながらも曲に疾走感を与えるTobiasのドラム。一方、ソロ楽器であるSimonのシンセサイザーとPontusのギターは全体に技巧をひけらかす場面は多くありませんでしたが、「Lover's End, Pt. III: Skellefteå Serenade」ではそのテクニックが十分なものであることを示していました。

実は10月21日と22日の2Daysでセットリストを変えて演奏するということだったので購入時に少し迷ったものの、彼らのライブのクオリティがわからなかったのでこの日のみチケットをとることにしたのですが、この出来なら両日足を運んでもよかったと思いました。次回、もっと大きな会場でのライブを期待したいものです。

ミュージシャン

Simon Åkesson lead vocals, keyboards
Tobias Lundgren drums, backing vocals
Petter Sandström lead vocals, acoustic guitar
Johan Westerlund bass
Pontus Åkesson guitars, backing vocals
Sebastian Åkesson keyboards, percussion, backing vocals

セットリスト

  1. Too Young to Say Goodbye
  2. Heartland
  3. Moonwalk
  4. Mega Moon
  5. Yasgur's Farm
  6. A Kid Called Panic
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  7. Dance Across the Ocean
  8. Lover's End, Pt. III: Skellefteå Serenade
  9. Constant Bloom
  10. Methuselah's Children