盆山 / 雷電

2014/08/21

国立能楽堂の企画公演で、狂言「盆山」と能「雷電」。

最初に観世流シテ方の清水寛二師とジャーナリスト木村俊介氏の対談。全体を通すとあまりまとまりのない対談でしたが、能が型付は決まっていても同じことを再現しようとはしないという説明に納得しました。もともと学生になって狂言をやりたくて狂言研究会に入ろうとした清水師が隣の能楽研究会から「ウチに来ても狂言はできるから」と言われてラーメン屋に連れて行かれたために足抜けできなくなって今日に至る……という話には大笑い。

盆山

盆山というのは、今では石付き盆栽と呼ばれる、石(岩)の凹みに粘土質の土を入れて木々や苔を植え付けたもののことで、イエズス会の宣教師が残した日葡辞書の中にも出てくる言葉だそうです。ただし、そのように生きた木々を植えた盆山であれば和泉流「盆山」のように水遣り可能な中庭に置かれるはずですが、この日の大蔵流では盆山は座敷(屋内)に保管されていました。これは、ここでいう盆山が現在では水石と呼ばれ山などの自然の景観に見立てられる石=盆石のことだからであろう、という解説がプログラム中になされていました。

さて、肝心の狂言の方は15分の狂言ですが、大らかに楽しい曲でした。流行の盆山を分けてくれない亭主(茂山茂師)のもとへ忍び込む男(茂山良暢師)は、裏から垣根の縄を鋸でずかずかずかりと切り、めりめりとめくりますが、その音があまりに大きいので人に聞かれないようにと思わず自分の耳を塞いでしゃがみこんでしまいます。さらに匍匐前進して男の屋敷の敷地内に侵入すると、さらさらと扉を開けて屋敷の内へ。ここまでの擬態語とマイムの面白さが、まずもって見所の笑いを誘います。ところが、広い座敷の中で盆山を物色しているうちに、男の気配に気づいた亭主が大音声をあげながら刀を手にやってきたために、男は慌てて盆山の陰に隠れました。うずくまって頭を扇で隠しても尻隠さず状態の男を見つけた亭主は、相手を「よう見れば良暢じゃ」と見てとってニヤリ。なぶってやろうといたずら顔に変わります。人かと思えば犬だった、犬なら鳴けと求める亭主に対し、男は頭を隠したまま「鳴かずばなるまい」と観念して「びょう、びょう」と鳴いてみせました。これで喜んだ亭主はもそっとなぶってやろうと「犬かと思えば猿だった」。またしても「鳴かずばなるまい」と男は身体を猿っぽくかきながら「きゃあ、きゃあ」と鳴き声を上げました。すっかり喜んだ亭主が次に選んだのは、なんと鯛。鯛ならヒレを立てているはず、と言われてさっと扇を背中に立てた男に、亭主はさらに鯛なら鳴けと無理難題を押しつけました。さすがに「鯛が鳴いたは聞いたことがない」と困惑した男でしたが、意地悪く覗き込んだ亭主に鳴かないなら(人だろうから)刀で斬ると脅されて腹をくくったか、すっくと立ち上がって「たい!たいたいたい!」。この開き直りに亭主が「たいとは?」と呆然としたところで男は呵々大笑すると許されられいと逃げ、これを亭主がやるまいぞと追い込みました。

雷電

こちらは2010年に観ていますが、そのときは金剛流。一方この日は、観世流。

まずはワキ・法性坊僧正(則久英志師)とワキツレ・従僧が入場し、先に一人舞台に入ったワキの正先での名ノリとなりますが、則久英志師がこんなに美声とは知りませんでした。伸びやかで朗々とした声は耳に快いものでしたが、これまでワキツレとしては何度も観ていながら、ワキとしての登場を観るのは初めてだったからでしょう。やがて登場した前シテ・菅丞相(観世銕之丞師)の亡霊は、以前観たときはざんばらな黒髪の下に凄まじい表情の「怪士あやかし」面でしたが、観世流では常の演出は稚児姿。ただしこの日は冒頭の対談の中でも予告されていたように若い貴族姿=薄い金色の光沢を持つ狩衣と薄青色の指貫で、きれいに梳いた黒髪の下の面は白く小さく高貴な風情の「十六」面でした。ところが、ありがたやから始まるシテの謡は声が嗄れている上にひっくり返り気味で、銕之丞師の不調を窺わせます。ワキに招じ入れられて坊の内に入り正中に下居しても肩で息をしているように見えますし、そのせいかどうか、地謡陣も妙に息が合っていないように感じます。

ところが、シテが我この世にての望みは叶はず、死しての後梵天帝釈の憐れみを蒙り、鳴る雷となつて内裏に乱れ入りと物騒な話になるところから声色が変わって俄然銕之丞師の本領発揮となってきます。我に憂かりし雲客を蹴殺すべしと恐ろしい言葉を叩き付けるところでは下居していたシテがぐっと伸び上がってそこにはいない政敵たちに今にも飛びかからんばかり。師であるワキも自分の味方にはならないと悟ったときにはその時丞相、俄に変はり鬼の如くすっくと立ち上がると柘榴天神の型になって巌をも砕けよと力のこもった足拍子を踏みましたが、巨漢の銕之丞師の足拍子の振動は見所をも揺るがす程でした。ワキの祈りの中に舞台上を厳しい速度で回転したシテは一気に幕前へ駆け下がり中入となりましたが、さすが銕之丞師、一連の激しい動きには菅丞相の憤怒が見事に現されていて、最初の頃の謡の不調を吹き飛ばす程に素晴らしい迫力でした。

後場では、地謡が不思議や虚空に黒雲おほひ〜と長く伸ばす中、黒い被り布を被いた後シテ・雷神は、稲妻の閃きや震動の描写の中に三ノ松で被り布を捨て、欄干に足を掛けてあたりを睥睨しました。その姿は、鮮やかな赤頭から金色の稲妻を垂らし、黒地に金の鎖や車の紋の法被、朱と金の魚鱗紋の半切。そして面は金色に神々しくも禍々しい「獅子口」面。そして、舞台上に一畳台で設えられた紫宸殿と清涼殿を、ワキと共に戦いながらぐるぐる回りましたが、その飛び降りる音はまさに雷鳴のように轟きます。しかし僧正の祈りを破ることはできず、数珠を揉みながら迫るワキに追われたシテは、一ノ松に下がって舞台に背を向けいったん座り込んでからこれまでなれや許し給へと正中に平伏しますが、帝から天神の贈官を下されて悦びつつ橋掛リに進み、遂に黒雲にうち乗つて虚空に上がり三ノ松で左袖を掲げた型で留拍子。こうして、終わってみれば銕之丞師の持ち味を活かした気迫の舞台となり、地謡陣も囃子方も後場は力強く一体感を出して、夏の夜のスペクタクルという感じになりました。

配役

狂言(大蔵流)「盆山」 シテ・男 茂山良暢
アド・亭主 茂山茂
 
能(観世流)「雷電」 前シテ・菅丞相
後シテ・雷神
観世銕之丞
ワキ・法性坊僧正 則久英志
ワキツレ・従僧 舘田善博
ワキツレ・従僧 野口能弘
アイ・法性坊の従者 茂山童司
主後見 清水寛二
地頭 西村高夫
一噌隆之
小鼓 森澤勇司
大鼓 河村眞之介
太鼓 徳田宗久

あらすじ

盆山

見事な盆山をたくさん持つ某に、いくら頼んでもひとつもくれないので、男はこっそり盗みに入る。垣根を破って侵入し、盆山を物色しているところを見つかった男は、盆山の陰に隠れる。盗人が顔見知りだと気づいた主人は、なぶってやろうと「猿だ、犬だ」と言い、男はそのつど鳴きまねをする。ついには鯛だと言われた男は「たい・たい・たい」と鳴きながら退散する。

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