塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Jeff Beck

2014/04/08

2010年以来のJeff Beck来日。今年70歳になるJeff Beckですが、まだまだ元気いっぱいで、今春にもニューアルバムを発表予定であることがアナウンスされていました。本来ならば、そのニューアルバムのプロモーションツアーとしての来日だったのでしょうが、今回のツアーにそのリリースが間に合わず、仕方なく(?)『YOSOGAI』と題したまさに予想外のミニアルバムを先行リリースした状態での来日となりました。

この日の会場は、TOKYO DOME CITY HALL。それほど大きなハコではありません(3,000席程)が、これくらいの方がじっくり聴けてむしろGOODです。

今回のツアーメンバーは、ベースは前回と同じくRhonda Smith、ドラムはジャズ系のドラマーであるJonathan Joseph、そしてセカンドギターにスイス人ギタリストNicolas Meier。会場で購入したパンフレットには女性ヴァイオリニストのLizzie Ballもバンドメンバーとして写真つきで掲載されていたのですが、今回の来日にはなぜか帯同されていませんでした。

ステージ上には、舞台奥の上手寄りにドラムセット、下手寄りにベーシストの立ち位置、少し前の上手側にセカンドギタリストの立ち位置があって、下手の客席寄りにJeff Beckのエフェクター群がセットされていました。やがてBGMが消えると共に会場内が暗くなり、拍手が湧き上がる中バンドメンバーが登場して、おもむろに重低音が鳴り響きました。

Loaded
重たいリズムから入るこの新曲は、『YOSOGAI』の冒頭に収録されている曲です。ひとしきりリズムパターンが続いた後にハードなディストーションのコード弾きと共にサングラス・ノースリーブ姿のJeffが登場。手にしているのは白いFender Telecasterで、一瞬金属質の効果音的なフレーズをはさんでから、彼ならでは鋭いトーンのソロが続きます。このダークでハードな新曲から入ったということは、このライブを懐メロ大会にする意思はないというJeff Beckの宣言だったのでしょう。
Nine
Fender Stratocasterに持ち替えて、ギター2台のユニゾンによるリズミカルなリフから入ったアクティブなこの曲も新曲です。中間部でのJeffのロングトーン主体のソロの背後では、Nicolasがギターを使ってパッド系の全音符でのバッキング。彼のギターは、サイドギターというだけでなくキーボードの代わりの役目も担っているようでした。そしてJonathanのドラミングは、気持ちいいくらいにロック。
Little Wing
Nicolasのアコースティックギターの演奏から静かに入ったこの曲は、Jimi Hendrixのカバーです。Jeffは過去のツアーでもこの曲をステージ上で取り上げていて、そのときはボーカル入りのためJeffのギターはバッキング中心だったのですが、ここでは珍しく泣きのギターを前面に出したインストゥルメンタル曲にアレンジされていました。なお、最初の2曲ではスポットライトはJeffにのみ当てられていたのですが、この曲からようやくバンドメンバーにも照明が当たるようになりました。
You Know You Know
ゆったりした3-3-2/4-4/4-4のリズムを持つ摩訶不思議な雰囲気のリフで組み立てられたとても印象的な新曲。途中からリフをNicolasとRhondaに委ねてJeffが高音部で自由に弾きまくり、Jonathanのドラム演奏もフリーな音数の多いものになりました。Jeffのギターソロが一段落すると、今度はRhondaが前に出てきてオートワウ系のエフェクトの効いた奇怪なベースソロ。さらに冒頭のリズムパターンの繰り返しの中で「4-4/4-4」の部分を使ったドラムソロが展開し、最後はアイコンタクトでキメの一音。ライブならではの自在なアレンジでしたが、ニューアルバムに収められるであろうスタジオバージョンではどのような仕上がりになっているのか、今から楽しみになってきました。
Hammerhead
曲間のチューニング中に客席から「Je〜ff!!」と呼び掛けられて叫び返したお茶目なJeff。そしてイントロのNicolasによるアルペジオを聴きながら客席に手拍子を促したJeffのギターがJonathanの3連符リズム(シンバルのパターンがシンコペートしていて2拍子系にも聞こえる複雑なもの)に乗って唸りを上げ始めると、それは2010年の作品『Emotion & Commotion』に収められていた「Hammerhead」の、実に堂々たる演奏でした。
Angels (Footsteps)
Nicolasによるストリングス音、そしてハイハットのデリケートな12拍子系リズムが入ってRhondaのフレットレスジャズベースが歌うようなベースを絡めると、そこにJeffがボトルネックでのスライド奏法を乗せてきます。最後は例によって、ボトルネックを22F以上の位置に当てて鳥の囀りのような超高音の演奏をじっくり聴かせてくれました。
Stratus
舞台上がライティングで真っ赤に染まりスネアロールがクレッシェンドしてきて、一瞬のブレイクの後、スクエアなリズムとうねるようなベースに乗ってBilly Cobhamの「Stratus」。NicolasのバッキングはRhodes系の音色で原曲の雰囲気を出し、エンディング近くのドラム全開の場面でのJonathanの奮闘ぶりも尋常ではありません。Jeffのライブではもう欠かせなくなったナンバーで、私も何度か聴いていますが、この日の演奏はこれまで聴いたどの「Stratus」よりも尖ったものだったように思います。
Yemin
まずNicolasがアコースティックギターをフラメンコ風に演奏。その音色が琴に似ているなと思ったら、弾いているフレーズは「さくらさくら」。途中から気付いた聴衆から歓声が上がったところで音階と音色が変わり、その演奏は中東風なテイストのものに。ドラムによる穏やかなリズムが入って、Jeffのギターからもこれまた中東っぽいフレーズが繰り出されました。背後ではRhondaがエレクトリックアップライトを弓で弾いたり指で弾いたり。このエスニックな雰囲気はこれまでのJeffの作品の中ではほとんど聴かれなかったもので、今回のバンドメンバーであり来るべき最新作のレコーディングメンバーでもあるNicolasが持ち込んだマテリアルであるようです。
Where Were You
Nicolasによるパッド系全音符とJonathanのシンバルロールをバックに、Jeffのギターが高音で歌う名曲。いつ聴いても、Jeffのアーミングによる完璧な音程コントロールには圧倒されます。
The Pump
Jonathanの4カウントから、原曲よりもテンポの速い「The Pump」。Jeffのギターに細かいミスが目立ちましたが、攻撃的な即興演奏でのソロを空中分解させることなく弾ききりました。
Goodbye Pork Pie Hat / Brush with the Blues
Jeffのブルージーなソロによる「Goodbye Pork Pie Hat」のさわりから、一転して「Brush with the Blues」。ブラシは使っていませんが、ジャジーな雰囲気のこの曲(『Who Else!』収録)もすっかり定番曲となりました。それにしても、ギターを自由自在に歌わせるJeffの技巧にはまったく衰えが感じられず、むしろ凄みが増したような気さえしてきます。最後は全楽器がかき鳴らされた後に、Jeffが左手をネック上で急速にスライドさせてキュイキュイッ!といった音を出してキメへ。会場はこの日一番の盛り上がりとなりました。
You Never Know
ド派手なスラッピングベースのイントロにJeffが驚いたような素振りを見せて、懐かしい『There and Back』収録のこの曲へ。しかし単にアルバムの録音をなぞるだけの演奏ではなく、Jeffはオクターバーをかけたギターで奇怪な迫力をこの曲に付け加えていました。さらにブレイクの後のソロはワウも駆使した強烈なもので、1980年に生まれた曲に2014年になって全く新しい生命が宿ったのを感じました。
Danny Boy
オレンジとグリーンの照明の中で演奏された、エヴァーグリーンなアイルランド民謡のこの曲は、『YOSOGAI』にもImelda Mayのボーカルをフィーチュアしたライブ演奏が収められています。もしヴァイオリニスト兼ヴォーカリストのLizzie Ballがステージ上にいたら、この日の演奏でも歌ものとして披露されたのかもしれませんが、この日はギターインスト曲としての演奏でした。
Blue Wind / Led Boots
ダーティーなギターのフレーズから始まった名曲「Blue Wind」、ようやくスタンダード曲が披露された安堵感が会場に漂いましたが、ステージ上の演奏はどこまでもアグレッシブでした。そしてひとしきりこの曲が演奏された後に突如リズムが変わって、これまた強烈な個性を持つ「Led Boots」へ。リズムを見失う危険性を無視して好き勝手に弾きまくるJeffに脱帽。
Corpus Christi Carol
Nicolasのパッド系バッキングの上にJeffのギターがしみじみと響き渡る「Corpus Christi Carol」。ハーモニクスの高音がアーミングによってビブラートをかけられてさらに高く高く飛翔する場面は、鳥肌ものです。聴衆も、中世イングランドの古歌に通じる悲しみに満ちたこの曲に、しんみりと聴き入っていました。
Big Block
一転してダークなギターのフレーズから、『Guitar Shop』収録のミドルテンポなこの曲。ステージ上は白色光に包まれ、疲れを知らないJeffのギターが自在なフレーズと音色を紡ぎ出していきます。もう、いったいどうやってあの音を出しているのか?まったく不明。

ここでこの日初めてJeffの「Thank you so much!」というMCが入りました。すかさず客席から「ブギ!」と声が掛かると、これに応じてJeffは即興のブギを短く弾いてみせてくれて、客席は大喜び。そして本編最後の曲は、The Beatlesの次の曲でした。

A Day in the Life
このJeffのギターフレーズにRhondaのベースが幅広い音域を活用して粘っこくまとわりつく、一風変わった演奏。最後はJeffのギターの余韻が限界までアームダウンされていって、小さくコードで締められて終了。

本編の演奏を終えたJeffはギターをステージ上に置き、メンバー紹介をしてから引き揚げていきました。

Rollin' and Tumblin'
聴衆の熱心な手拍子に応えて再びステージ上に現れたJeffはサングラスを外しており、おもむろに流暢なカントリーミュージックをソロで弾いてみせて総立ちのアリーナの喝采を浴びた後、レトロなスネアパターンをバックに「Rollin' and Tumblin'」にかかりました。前半はボーカルのフレーズもJeffがギターで弾いていましたが、途中からRhondaとJonathanが「ウォーウォーウウォー」とスキャット参加。
Cause We've Ended as Lovers
タイトル通り、強い悲しみをギターのフレーズに乗せた曲。今こうして聴いてみると、悲痛、回想、後悔、やり場のない憤り、諦め、そして静かな悲しみへと感情の起伏を見事に歌い上げていることが理解されます。
Why Give It Away
いよいよ最後は『YOSOGAI』にも収録された「Why Give It Away」。シンプルなリフの繰り返しの上にRhondaの強力なボーカルとJonathanのコーラスが入り、Rhondaは達者なラップまで披露してくれました。

以上ですべての演奏が終了し、Jeffは再びギターをステージ中央に置くと、メンバーと肩を組んで客席に挨拶しました。客席からはJeffにプレゼントが手渡され、これを受け取って喜色満面のJeffは、やがて下手袖へと消えていきました。

2010年の来日時のJeff Beckは65歳で、そのときの演奏を見た私はどんなに少なく見積もっても70歳までは現役でのステージをつとめられそうと書いたのですが、この日の現役感満載の演奏を見る限り、「70歳」を「75歳」に修正しないわけにはいかないようです。それくらい素晴らしい演奏でした。

ミュージシャン

Jeff Beck guitar
Jonathan Joseph drums, vocals
Rhonda Smith bass, vocals
Nicolas Meier guitar

セットリスト

  1. Loaded
  2. Nine
  3. Little Wing
  4. You Know You Know
  5. Hammerhead
  6. Angels (Footsteps)
  7. Stratus
  8. Yemin
  9. Where Were You
  10. The Pump
  11. Goodbye Pork Pie Hat / Brush with the Blues
  12. You Never Know
  13. Danny Boy
  14. Blue Wind / Led Boots
  15. Corpus Christi Carol
  16. Big Block
  17. A Day in the Life
    -
  18. Rollin' and Tumblin'
  19. Cause We've Ended as Lovers
  20. Why Give It Away