塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

第5回日経日本画大賞展

2012/05/29

上野の森美術館(上野)で「第5回日経日本画大賞展」。隔年で開催されていたこの展覧会も、第4回を2008年に開催してからしばらく間が開いてしまっていましたが、久しぶりに結集された「日本画」の数々は、それぞれに独自のオーラを放って、実に見応えがありました。

大賞は、口から金の気を吐く髑髏の左右に人の足を持つ蝶と狼を墨絵で配したアバンギャルドな襖絵作品である鴻池朋子《シラ — 谷の者 野の者》と、南洋的な原色のうねりが強烈な躍動感を示す濱田樹里《流・転・生 I》。どちらも実物を見ると巨大な作品で、その大きさだけでも画家が全身全霊をこめて描いたものであることが窺われます。他にも「大作」と呼ぶべき作品が目白押しで、作風もバラエティに富んでおり、日本画の伝統的な技法・素材・主題を超えた自由な発想がそれぞれの作品に結実しているさまは、当初から「日本画」の地平を拡張しようとし続けてきた「日経日本画大賞」の面目躍如という感じです。

とは言うものの、個人的に好ましいと思えた作品は、どちらかといえば静謐な作風のものばかり。会場に入ってすぐの廊下状のスペースに長大な姿を横たえる佐々木真士《Life — ベナレスの沐浴場》の穏やかな描線と黄色基調の色遣いや、白い描画で雨の休日の室内にぼんやりと座る女性を描く武部雅子《雨滴》の透明感、斜めに流れるトリコロールが見つめているうちに川面に画面の彼方の朱色の水門を映し出す感覚の不思議さを味わえる伴戸玲伊子《Holy Water》、そして、鳥と人物とが向かい合い、そのいずれが主人でいずれが客であるのかと考え込まされる森美樹《訪問者》の前で、多くの時間を過ごしました。

▲鴻池朋子《シラ — 谷の者 野の者》
▲濱田樹里《流・転・生 I》
▲佐々木真士《Life — ベナレスの沐浴場》
  • ▲武部雅子《雨滴》
  • ▲伴戸玲伊子《Holy Water》
  • ▲森美樹《訪問者》