アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト

2012/02/17

英国ロイヤル・バレエ団の名花アリーナ・コジョカルが自身で企画し、公私にわたるパートナーのヨハン・コボーと共に今が旬の精鋭バレエダンサーを集めた「アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト」のAプログラムを、五反田のゆうぽうとホールで観ました。アリーナの姿を観るのは2010年9月の「ジゼル」以来ですが、その前の年には「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」も観ていて、つまり私にとって彼女は今、最も心惹かれているバレリーナです。

ラリナ・ワルツ

まずは顔見せ、Aプロ参加のダンサーが次々に登場するゴージャスな一幕。チャイコフスキーのオペラ『エフゲニー・オネーギン』で用いられる柔らかいワルツに乗って、十分な高さのあるジャンプ、リフトからの大胆なフィッシュ、強烈な印象を与えるトゥール・ド・レンなどきびきびとしたダンスが繰り広げられます。

ゼンツァーノの花祭り

デンマークのオーギュスト・ブルノンヴィルが振り付け、1858年に初演された作品の中のパ・ド・ドゥ。田園の恋人たち風の男女が、まずは軽やかな足技を見せながら優美に踊り、続いてそれぞれのヴァリエーションも見応えのある足の技巧が中心。ヨハン・コボーは、あの年齢でしっかりとブリゼを決めていて立派です。そして、躍動的で楽しげなフィナーレへ。

眠れる森の美女 ローズ・アダージオ

事前に最も期待していた一幕。バレエダンサーにとって究極の一場面と言えるローズ・アダージオを、たとえば過去にはシルヴィ・ギエムで観ていて、その揺るぎない安定感に圧倒されるものを覚えた記憶がありますが、アリーナ・コジョカルのオーロラ姫はバラ色のチュチュで白い開襟シャツに黒のパンツ姿の男性4人を相手に、穏やかな気品を漂わせます。ポアントで立ち、男性のサポートを受けてアティテュードの姿勢で一回転して次の男性に受け渡される際の静止も完璧、そして手を振り下ろす仕種も優美にタメをきかせたもの。どきどきしながら見つめていましたが、完璧なローズ・アダージオでした。

チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ

チャイコフスキーが「白鳥の湖」のために作曲した楽曲のうち、マリウス・プティパが採用しなかった部分を用い、バランシンが独立した作品として振り付けたもの。「ゼンツァーノ」が若々しい男女の愛情を表現したものとすれば、こちらはノーブルな大人の男女の恋を唄う作品という感じです。すばらしくバネの効いた跳躍や、美しい回転が次々に繰り広げられ、最後はグランド・ピルエットとグラン・フェッテの応酬の後に、ちょっと忙しいフィッシュ・ダイヴの連続から女性がリフトされて下手へ消えて終わり。

レ・リュタン

事前にノーチェックだったこの演目が、この日の白眉となりました。イケメンのヴァイオリニストであるチャーリー・シエムのすばらしいスピードの演奏に乗って、スティーヴン・マックレーとセルゲイ・ポルーニンが見せる超絶技巧の応酬に、会場はほとんど騒然と言っていいほどの興奮を示しました。しかし、せっかくの大技の競演にも関わらず、アリーナの心を射止めたのはヴァイオリニスト、というオチ。お洒落でコミカルな味わいを持つこの作品の振付けは、他ならぬヨハン・コボーです。

1分37秒あたりから始まるダンスに注目。マックレーのフィギュアスケート並みの超高速回転(2分12秒〜)やポルーニンの三連続ジャンプ(2分45秒〜)には、目が点になります。そして特筆すべきは、二人の卓越したリズム感。もちろん、アリーナのコメディエンヌぶりも見逃せません。

エチュード

最後の演目は、タイトルのとおり、チェルニーの練習曲によってダンサーの練習風景が描かれる作品。東京バレエ団のメンバーによって最初にバーレッスンの様子が示され、やがてさまざまな幾何学的フォーメーションでの群舞へと展開する中にエトワールたちの妙技が差し挟まれるという構成です。エトワールたちの登場場面はたとえばジゼルを連想させるソロやパ・ド・ドゥであったりして、その中にグランド・スゴンドでのプロムナードが出てくるかと思えば、スティーヴン・マックレーが(男性なのに!)見事なグラン・フェッテを見せ、アリーナもめくるめくほどの速さでのシェネを披露したりと気が抜けません。ついには舞台上に出現した光の廊下の上を、東京バレエ団のメンバーたちが躍動感あふれるグラン・ジュテの連続で駆け抜け、豪勢なフィナーレへなだれ込んでいきました。

「エチュード」の前に休憩をはさんで、正味1時間45分の短いステージでしたが、極めて充実した内容で満足感いっぱい。アリーナ・コジョカル自身も素晴らしいダンスを見せてくれましたが、スティーブン・マックレーの技巧の数々を堪能できたのが、とりわけ収穫でした。そしてそのかわりにひとつ残念なのは、マックレーの向こうを張ったポルーニンが今年の1月で英国ロイヤル・バレエ団を退団し、踊ること自体をやめてしまう可能性があるということ。彼にもぜひ、何らかのかたちで再び日本のステージに立ってもらいたいものと切に願います。

キャスト

「ラリナ・ワルツ」 アリーナ・コジョカル
ローレン・カスバートソン / ロベルタ・マルケス
ヨハン・コボー / スティーヴン・マックレー
ワディム・ムンタギロフ / セルゲイ・ポルーニン
「ゼンツァーノの花祭り」 ロベルタ・マルケス / ヨハン・コボー
「眠れる森の美女」ローズ・アダージオ アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー / スティーヴン・マックレー
ワディム・ムンタギロフ / セルゲイ・ポルーニン
「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」 ローレン・カスバートソン / ワディム・ムンタギロフ
「レ・リュタン」 アリーナ・コジョカル
スティーヴン・マックレー / セルゲイ・ポルーニン
チャーリー・シエム(ヴァイオリン) / 高橋望(ピアノ)
「エチュード」 エトワール アリーナ・コジョカル / ヨハン・コボー
スティーヴン・マックレー / セルゲイ・ポルーニン
白の舞踊主(ソリスト) 高村順子 / 佐伯知香
    東京バレエ団