シルヴィ・ギエム・オン・ステージ 2011

2011/10/19

3月11日の東日本大震災を受けて、シルヴィ・ギエムの呼び掛けで4月6日にパリで開催されたチャリティ・ガラ「HOPE JAPAN」。引き続いて企画された今年のギエムの日本ツアーも、「HOPE JAPAN TOUR」と銘打ってチャリティ色を前面に出した企画となりました。

この日は一連のツアーの初日にあたり、ガラ・コンサートとしてバレエ以外の領域も含む多彩な演目が上演されました。そして、その目玉となるのは2005年に日本での上演を封印し、その後モーリス・ベジャールが亡くなった2009年に追悼公演において臨時に踊られた「ボレロ」。ギエム自身が「希望の力へのオマージュ」と呼ぶ、ベジャール振付の最高傑作です。

ジャーク

幕開けは、東京バレエ団の群舞による「ジャーク」。ピエール・アンリの電子音楽にベジャールが振り付けた「現代のためのミサ」の中の「ラ・ダンス」と呼ばれる場面で、「ジャーク」というタイトルはアンリが取り入れた1960年代のダンス・ミュージックの名前だそうです。全体に暗いブルーを基調とする照明、下手にスポットライトに照らされた差し渡し1mほどの銀盤、そしてダンサーたちは舞台の中央でアヴァンギャルドな音楽に乗って無機的ながら激しい群舞を繰り広げるのですが、時折交代しながら誰かが銀盤を覗き込んで固まっている構図が続きます。最後に舞台中央奥に群体のように集合したダンサーたちの姿が「ボレロ」のラストを連想させる、不思議な作品。

満ち足りた幽霊 / 子どもの言うには…

舞台上に静かに登場したのは、英国ロイヤル・バレエ団の名優アンソニー・ダウエル。彼の言葉をもって本公演の趣旨が語られた後に、ニネット・ド・ヴァロワ(同バレエ団の創設者)の2編の詩が美しい英語で朗読されました。「満ち足りた幽霊」では死者の立場から、「子どもの言うには...」では生者の立場から、彼岸と此岸の間に交わされる呼び掛けがしみじみと描写されます。

ルナ

ベジャール振付の「ヘリオガバルス」からの抜粋で、月を描くソロ。これまた暗いブルーの照明の中に、白いタンクトップに緩やかなボトムス、金髪を後ろで編んだギエムの姿が浮かび上がり、バッハによるチェンバロと弦の重奏からなる曲に沿ってしなやかなダンスが繰り広げられます。その動きはトウで立ってすらりと足を真上に上げるグランド・スゴンドも、床の上で最大限の柔軟性を示す開脚も、ギエムだけのもの。その動きの大きさにも関わらず静謐な月の光に照らされての内省的なダンスは、最後に小さく祈るようにギエムの姿が丸まって闇に消えていきました。

アルルの女 より

ビゼーの有名な曲にローラン・プティが振り付けた作品から、最後のパ・ド・ドゥに含まれるソロ。「ファランドール」を用いて、アルルの女に心を奪われたフレデリが狂おしく踊り、最後に舞台後方に身を投げるまでを描きます。マッシモ・ムッルの熱演でしたが、どうもプティの振付はいまいちよくわかりません。

火の道

和太鼓の林英哲と能管の藤舎名生のデュオに、日本舞踊の花柳壽輔が加わった舞台。上手に置かれた巨大な和太鼓の原初的な響きが会場に満ち、それに負けない能管の鋭い音色が驚くばかりの表現力で呼応します。ただ、舞踊家の装束が前半、長絹(?)の下に普通の袴というのはいただけなかったような気がします(後半は紋付袴姿になって落ち着きましたが……)。

ダンス組曲

舞台上で奏されるバッハの無伴奏チェロ組曲に乗って、マニュエル・ルグリが軽やかに踊る作品。チェロ奏者・遠藤真理さんの黒いドレスとルグリの赤いコスチュームとの対比も鮮やか。ジェローム・ロビンス振付。最初はゆったりとした優美な動きがひとしきり続き、ついで曲想の変化に合わせて楽しげなステップが踏まれて、鮮やかな回転技の連続へと移り変わっていきます。どんどんヒートアップしてゆくダンスの最後に美しい側転を見せたルグリと、華麗な演奏を聴かせてくれた遠藤真理さんに、大きな拍手が送られました。

日本歌曲

何もかもみな、物悲しいけれど美しい。

ボレロ

まさに圧巻!どの瞬間を切り出しても、ギエム。彼女のオーラは、オケの度重なるミスを帳消しにして余りある強靭さを発揮していました。テーブル上に美しいブリッジを決めたギエムが最後の激情を観客に投げつけ、オケの咆哮と共に全ダンサーがギエムを中心とする一点に収斂して舞台上が暗転した次の瞬間、会場が一気に爆発したような盛大な拍手が沸き上がり、一階席はもちろん全員がスタンディングオベーション、他のフロアでも立ち上がって拍手を送る観客の姿が数多く見られました。ギエムの「ボレロ」を、また観ることができてよかった……。

ロビーでは、チャリティの一環として「HOPE JAPAN」の絵柄をあしらったTシャツとバッグが売られていました。もちろん私も、男性用Tシャツをゲット。

キャスト

「現代のためのミサ」より“ジャーク” 東京バレエ団
「満ち足りた幽霊」「子どもの言うには…」 朗読=アンソニー・ダウエル
「ルナ」 シルヴィ・ギエム
「アルルの女」より マッシモ・ムッル
「火の道」 舞踊=花柳壽輔 / 横笛=藤舎名生 / 太鼓=林英哲
「ダンス組曲」より マニュエル・ルグリ / チェロ=遠藤真理
「十五夜お月さん」「五木の子守唄」
「シャボン玉」「赤とんぼ」「さくらさくら」
歌=藤村実穂子
「ボレロ」 シルヴィ・ギエム / 東京バレエ団
松下裕次 - 長瀬直義 - 宮本祐宜 - 梅澤紘貴