塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Asia

2010/05/14

渋谷C.C.Lemonホールで、2年ぶりのAsiaライブ。最初に来日がアナウンスされたときは懐メロ大会になるのかなとあまり期待していなかったのですが、何しろJohn Wettonが来るのであればお布施と言われようが腐れ縁と言われようがとりあえずチケットは購入することにしている私。そのうち、ツアーの前に新作が発表されるという情報が伝わり、さらに来日直前には、新作から5曲も演奏されるということをAmazonのレビューで知って、こりゃいかんと気合を入れ直し、その新作『Omega』を購入して一夜漬けで耳を通してから、この日の会場に向かいました。

ステージ上はいつもの通り、上手からRoland中心にキーボード8台が組み上げられたGeoff Downesのブース、手前にベースペダルなどのJohn Wettonの立ち位置、ツーバスと銅鑼が目立つCarl Palmerのドラムセット。そして下手のギターのSteve Howeの位置には、ボーカルマイクがありません。死神博士は、今回は歌わないのか……。

定刻を5分ほど過ぎて会場が暗くなるとともに、壮大なオルガンの入ったクラシック曲(サン=サーンス交響曲第3番ハ短調op.78「オルガン付き」)が鳴り響いて、やがてメンバー4人が姿を現すと会場は大歓声に包まれました。ただし、客層の高年齢化を反映してか(?)、立ち上がったのは中央の後方列の一団のみ。私も当然すわって観戦です。

1曲目は、いきなり新作から「I Believe」。いかにもAsiaなダイナミックなアレンジとポジティヴさを貫こうとする歌詞とが共に魅力的な曲で、Johnの声もよく出ていて気持ち良く聴けます(新曲なのにキーを下げていたけど)。オカズを入れるたびに前のめりにテンポが速くなるCarlのドラミングも相変わらず。Steveがソロを弾き始めるとそれだけで会場が盛り上がりました。そして私の目は、Johnのベースに釘付け。あれはもしかして、King CrimsonやU.K.で使用していたピックガードなしのホワイトのPrecision Bassでは!あの銘機を久々に持ち出したことに、Johnの並々ならぬ意欲を感じたのは私だけでしょうか。ただし音は分離がイマイチで、ドラムとギターはよく聞こえているものの、キーボードとベースは音のかたまりになってしまっているのが残念ではあります。続く「Only Time Will Tell」でJohnが効果的なベースペダル演奏を聴かせた後に、Johnの「今夜は『Omega』から5曲演奏する」という事前情報通りのMCがあって、新譜3曲目の「Holy War」。ピアノのアルペジオのイントロからすぐにアップテンポになり、中間部でCarlのドラムソロ状態になる曲ですが、CDで聴かれるよりもはるかに突き抜けたCarlの高速ドラミングに会場はヒートアップし、曲が終わったときには感動した聴衆からの拍手の嵐がなかなかやみませんでした。この時点で、今日のライブがかなり質の高いものになるであろうことを予感。

以下、『Asia』『Alpha』、それに再結成後の『Phoenix』『Omega』からの曲を織り交ぜて次々にタイトな演奏が続き、Johnの声も最後まで調子を落とさず、またSteveが時折原曲にはない攻撃的なラインのソロを仕掛けてくるのも聴かせどころ(esp.「Sole Survivor」)で、彼らが絶好調である様子がひしひしと伝わってきました。「Don't Cry」はピアノとボーカル&ベースペダルのみのヴァージョン(ええ曲や……)、Steveのアコースティックソロは円熟の「Mood for a Day」と「Intersection Blues」(「Clap」を変奏したような曲)、さらに「The Smile Has Left Your Eyes」も前半をピアノとボーカルのみで演奏しましたが、これらを除けば原曲のアレンジに忠実なダイナミックな演奏。大好きな「Open Your Eyes」では青いエレクトリック・シタールによるビョンビョンといった音も出てきたし、難曲「Time Again」は原曲以上の高速にもかかわらず完璧に弾ききった凄い演奏で、鳥肌ものでした。「The Heat Goes On」は例によってCarlのドラムソロ入りで、相変わらずエモーショナルかつユーモラスなソロに会場大喜び。そして何よりも、過去の楽曲と新作からの曲とがまったく違和感なく並んでいて、彼らが現役バンドとして自信をもってステージに立っていることがうれしく感じられました。この日披露された新曲5曲はいずれもステージ映えする素晴らしい出来でしたが、他にも美しいピアノと7拍子リフが特徴的な「Listen Children」や、印象的なシンセリフとタイトなリズムが素晴らしい「Light the Way」なども聴いてみたかったところ。つまり、新作『Omega』はそれだけ好曲揃いだということで、20数年の時を経て再結成されたAsiaがこうした作品をリリースできたことは、奇跡のようです。

総立ちとなってのアンコールは、意外にもSteveが関わっていない『Astra』からの「Go」。Steveは淡々と原曲のラインをこなしていましたが、後半ハードなパワーコードのリフに戻るところでエフェクター操作をミスし、ギターが悲鳴を上げるような素っ頓狂な音に!それでも最後は「Go」から間髪入れずの彼らの究極兵器「Heat of the Moment」で締めくくられました。

再結成後の過去2回のライブでは過去の栄光にすがるような選曲が目につき、しかもそれが必ずしもいい結果につながっていなかったのですが、今回はSteveのソロコーナーを除けば他のバンドの曲を演奏することはなく、またJohnのアコースティックギタープレイもなくてひたすらタイトにAsiaソングを演奏しきった、充実したライブでした。唯一ノスタルジックと言えば、「Never Again」の後で飛び出した「キミタチサイコダヨ」のMCくらいですが、これはもうお約束。それも含めて、この日C.C.Lemonホールに集まった聴衆はAsiaのパフォーマンスに大満足だったことでしょう。そのことは、曲間で興奮しきった聴衆からの拍手がいつまでも鳴り止まなかったことに如実に示されていますし、私自身もその場に居合わせたことを幸福であったと振り返りながら、この記事を書き終えたところです。

ミュージシャン

John Wetton vocals, bass
Geoff Downes keyboards, vocals
Steve Howe guitar
Carl Palmer drums

セットリスト

*=『Omega』収録曲 / **=『Phoenix』収録曲

  1. I Believe *
  2. Only Time Will Tell
  3. Holy War *
  4. Never Again **
  5. Through My Veins *
  6. Don't Cry
  7. Steve Howe Solo
  8. The Smile Has Left Your Eyes
  9. Open Your Eyes
  10. Finger on the Trigger *
  11. Time Again
  12. An Extraordinary Life **
  13. End of the World *
  14. The Heat Goes On
  15. Sole Survivor
    -
  16. Go
  17. Heat of the Moment