インカ帝国のルーツ 黄金の都 シカン

2009/09/27

上野の国立科学博物館で開催されている特別展「インカ帝国のルーツ 黄金の都 シカン」を観てきました。もともとこの手の展示には目がない方で、とりわけインカ文明には関心大の私としては見逃してはいけない展示会ですが、折良くWeb仲間のえみ丸さんから「1日ブログ記者」の募集をしている旨のお知らせをいただきました。これは、あらかじめこの展示会の公式サイトに申し込んで審査を受け、それにパスすると観覧料金がただになり、関連グッズももらえる上に、写真撮影も許可されるというものです。条件は、後日展示会の紹介記事を自分のブログにアップすることだけ。私のサイトはブログではないのですが、それでも申し込んでみたら二日ほどでOKの返事が届きました。そんなわけで、カメラを腰にいそいそと上野へ向かったわけです。

国立科学博物館の入口は、ちょっと閑散。朝10時前だからでしょうか?係のお兄さんが一所懸命呼び込みをしていました。

窓口のところで待っていた別の係の人から渡されたのが、こちらの記者証。これは首から下げるものですが、「取材 / 撮影」と大書された腕章も同時に渡されます。ほかに、シカンシャーペンとシカンメモ帳、シカンクリアホルダー。ペルー料理の割引券もありましたが、適用対象となるお店は以前行ったことがある「ミラフローレス」(ただし恵比寿店のみ)でした。

シカン文化というのは、9世紀から14世紀にかけて現在のペルー北海岸地方に栄えた工房文化で、金属(とりわけ黄金と青銅)器と黒色土器に特徴があり、その卓越した技術は後にシカンを滅ぼしたチムーに、さらにはチムーを打倒したインカに継承されていったとされています。シカン文化は、特に西暦950年から1100年頃にかけての中期シカンと呼ばれる時代に繁栄し、現在のバタングランデ村近くの地域に日干レンガ製の巨大なピラミッド型神殿群を建造したものの、その後忘れられた存在となっていたのですが、1978年から現南イリノイ大学の島田泉教授が長期にわたる調査と発掘を行い、多数の遺物を発見するとともに、シカン文化の全体像を復元することに成功しました。ちなみに「シカン」とはペルー北海岸の古い言葉で「月の神殿」を意味し、島田教授による命名だそうです。

こちらが、会場全体の見取り図。構成はいたってシンプルで、プロローグに続いて

  1. シカンを掘る! 考古学者の挑戦
  2. シカン文化の世界 インカ帝国の源流

の二部構成。そしてエピローグの後に3Dシアターがあるというものです。

入ってすぐのところに、考古学者の商売道具が発掘作業の様子を伝える写真とともに展示されています。

そしてその奥には、中央にロロ神殿の模型が鎮座しています。島田教授による発掘作業は、このロロ神殿周辺の墓を中心に行われました。

ロロ神殿の模型。透明なプラスチックの段々はもともとの大きさを示しているようですが、日干レンガでつくられたピラミッドは1000年の時の経過の中で風化し、高さを失っています。それでも、会場のモニターに映し出された映像で見るロロ神殿は、いまだに極めて大きく、かつての偉容をかなりの程度とどめています。

こちらはロロ神殿東の墓の内部を模式化したもの。一番下にいる二人の人物は生贄で、その上の層に被葬者がなぜかでんぐりがえった状態で、ただし首は切り離されて通常の向きに直されて埋葬されています。その上にも副葬品、そして最上部にも生贄。他の墓からも生贄の骨が多数出土しており、シカン文化では、貴人の葬儀に際しては生贄が捧げられたようです。

こちらが、今回の展示の目玉のひとつである大仮面。下半分の赤い部分が概ね顔にあたるところで、吊り上がった目(アーモンド・アイ)が特徴的。この目の形に、三星堆文化の平頂貼金銅人頭像を連想しました。黄金の輝きはまばゆいばかりで、見ているお客との対比で大きさがわかりますが、非常に立派です。

会場内には随所にモニターが設置され、だいたい2分くらいの長さの映像で、シカン文化の宗教や交易、技術、生活などが解説されます。そうした映像には島田教授が積極的に出演しており、また現地での発掘の様子がふんだんに盛り込まれているのですが、こうした映像の撮影と蓄積、編集には、この展示会を国立科学博物館と共に主催しているTBSが貢献しているのでしょう。

さらに奥に進むと、向こうに何やら日干レンガを積んだような壁が見えてきました。この中が、後で出てくる3Dシアターになっています。

その壁の手間にあるのが、この大きなトゥミ(儀式用ナイフ)です。これも立派。今でもペルーのお土産といえば、トゥミのペンダントなどがありますが、ここにその原型があったわけです。

mouseover

その後、各種の土器や織物が展示されたコーナーがあって、特に黒色土器の製造技術を復元する様子の映像と土器造りに使用される型の展示はなかなかに興味深かったのですが、こちらの豪華な輿もまた、一見の価値あり。非常に細かい装飾が背面に施されていて、シカンの人々の工芸技術とセンスの高さが窺えます。

最後にエピローグの映像でミイラの語りを聞いてちょっとしんみりしてから、3Dメガネを受け取って3Dシアターへ。一連の発掘作業のあらましの映像や神殿の墓室のCGを、リアルな立体感をもって見ることができました。

全体を通して、シカン文化の全体像を包括的に示すことに成功した非常によくできた展示だと感じましたし、大仮面や大きなトゥミなどのポイントとなる出土品も見応えがありました。しかしそれ以上に、島田教授が1978年から30年もの期間(それは研究者としての人生のほとんど全てだと思うのですが)をこの文化の解明に捧げてきたという事実がもつ重みが、これらの展示物の価値をさらに高めているように感じます。つまりこの展示会では、シカン文化が残した輝かしい工芸品の数々とともに、ひとりの考古学者の生涯をかけた発掘の軌跡が展示されているのであり、そのことにこそ、この展示会の価値があると思えました。

なお、図録はあまりにも分厚く立派なために購入を控えてしまったのですが、このページの一番上の右に掲げた緑の表紙の「オフィシャル・ガイドブック」が手軽かつ平易(子供にも読みやすく配慮されています)ながら秀逸。古代アンデス文明の変遷とそれぞれの文化の特徴を手際良くまとめていて、とても参考になりました。Good jobです。

会場を出たのが11時40分くらい。国立科学博物館では毎週末と祝日に「ディスカバリートーク」といって研究者の先生が小人数を対象に自分の研究テーマのお話をしてくれるというイベントを行っているのですが、なんともうまい具合にこの日正午からの演題が「アンデスにおける最近の調査」。お話は人類学の篠田謙一先生(ex.『日本人になった祖先たち』の著者)で、約30分にわたり、主にインカ道周辺の遺跡から出てくる人骨の調査を通じてインカのルーツを探る研究を進めている様子をスライドショーで解説して下さいました。超ラッキー。

篠田先生の語り口は研究者らしい真面目さとユーモアとを併せもち、使用しているコンピュータはMacBook Air。いっぺんにファンになってしまいました。