Keith Emerson Band featuring Marc Bonilla

2008/10/15

2005年以来3年振りのKeith Emersonのライブを、渋谷C.C.Lemonホールで。今回の来日は、『Keith Emerson Band featuring Marc Bonilla』のリリースを受けてのもの。Roger Watersに引き抜かれてしまったDave Kilminsterの後釜としてKeithのバンドに加わったMarc Bonillaが、ギター、ヴォーカルはもとより、作曲やプロデュースにも貢献して出来上がったこのアルバムは、「The House Of Ocean Born Mary」というタイトルの組曲を構成する短い曲ばかり15曲とヒナステラの「エスタシア組曲」からの翻案ほかからなり、突出した曲はないものの、アルバム全体を通じてかなり力の入った演奏が聴けます。来日メンバーは、KeithとMarcの双頭に、ニューアルバムに一部参加しているベースのTravis Davisと、新たにバンドをサポートするドラマーのTony Pia。

開演前、場内には「録音・録画禁止」をうたうプラカードがあがっていて、さらに日英両国語で同趣旨のアナウンスがあり、ミュージシャン側がかなりナーバスになっていることを窺わせました。やがて定刻通りに場内が暗くなって、まず登場したのはKeith Emerson……ではなくて、なぜか女性邦楽家。舞台中央に正座して、「よぉー、おぉー」と掛け声を掛けつつ小鼓を打っているうちに新譜のイントロがフェードインしてきます。うーん、この趣向は完全にハズした感じ。場内が一気にひいてしまったのが感じられました。ともあれバンドが登場して、OASYSのチャーチオルガンでの「1st Presence」から本物の演奏に引き継ぎました。Keithの機材は前回とほぼ同じで、Moogのモジュラーシステム、オルガン、OASYS、Triton。Tritonの上に台があって、リボンコントローラーとアンテナのようなものが乗っていましたが、この「アンテナ」はテルミンでした。また、演奏が始まってみると各楽器の分離とバランスがよく、特にバスドラとスネアがまっすぐに聴衆に向かって響いてくるのがたいへんGood。オルガン中心の緊迫感あふれるインスト曲「Last Horizon」からMoogのSample & Holdフレーズでおなじみ「Karn Evil #9 1st Impression -Part2」へ。この曲ではMarc Bonillaのヴォーカルとギターが堪能できます。やや野太い彼のヴォーカルはGreg Lakeの深みのある声とは異なりますが、バックのタイトなリズムセクションに乗って十分に存在感があります。それ以上にMarcのレフティギターは、フィンガーボード上を指が自由自在に動き回り、見ていて小気味いいくらいです。

以下、2005年のライブでも演奏されたEmerson, Lake & Palmer時代の曲と新譜からの曲が織り交ぜられて演奏され、特に「Bitches Crystal」のスリリングなリズムには驚嘆しましたし、「Lucky Man」前半のエレクトロでモダンなアレンジもよかったのですが、この曲の後半でのMoogの重低音が強烈で、C.C.Lemonホール全体がびりびりと震動している感じ。さらにKeithはモジュラーのつまみをあれこれいじって奇怪なサウンドを大音量で流し、ついにはタルカスの咆哮のようになってきました。こうなるともう生理的な限界を超えて、聴いているのが苦痛にさえなってくるほど。さらに「Barbarian」あたりからKeithはさかんに「音量をアップしろ」と要求するようになって、徐々に音の洪水状態になっていきます。こうなると、リスナーは他の聴衆のリアクションもさっぱりわからず自分ひとりでステージから押し寄せる音圧と対峙しなければならないので、かなりつらい立場に追い込まれます。目の前のバンドを声援でサポートしたいのに、出したくても声が出せない状態です。また、サティ風の美しい(しかしテンションコードがきつい)ピアノ曲「Prelude To Hope」からゆったりした3拍子の「A Place To Hide」を経て「From The Beginning」へと続くセットリストの中核部が聴衆の共感を集められず、なんとも盛り上がりが乏しい時間が続きました。私の両脇のお客なんか、二人とも腕組みして聴いているし……。

この後ドラマーがバスドラ四つ打ちで聴衆に手拍子を要求し、少々呂律の回らないオルガンフレーズから「Hoedown」。曲の途中で飛び出すKeithのハーモニカソロには少々痛々しいものを感じましたが、ギターの速弾きソロがなんとか会場を盛り上げてくれて、さらに20数分にわたる「Tarkus」ではテルミンの演奏あり、リボンコントローラーとギターの井戸端会議あり、ドラムソロありの盛りだくさん(ただし「Epitaph」はなし)で、やっと場内が沸いたところで本編終了。

総立ちで手拍子をとる聴衆の前にバンドが戻ってきて、アンコールはおなじみ「Fanfare For The Common Man」。途中でMarcがOASYSのディスプレイをぱたんと倒すと、KeithがOASYSのリア側に回ってこれも十八番の「逆さロンド」、さらに「America」から「Fanfare」に戻ります。この展開には客席も大喜びで踊りまくり、最後は「Nutrocker」に一部「金平糖の踊り」のフレーズをはさみこんで、大歓声のうちに演奏を終了しました。

バンドの演奏自体は、決して悪くありませんでした。さすがにGreg Lakeのあの唯一無二のヴォーカルや、リズムが悪かろうがなんだろうが有無を言わさぬ説得力のあるCarl Palmerのドラミングの魅力にはかなわないにしても、上述の通りMarcのギターもヴォーカルも標準をはるかに超えるレベルでしたし、複雑なリズムアレンジをもつ「Piano Concerto No.1」やヒナステラの「Malambo」で一糸乱れぬドラミングを聴かせたTony Pia、存在感のある6弦ベースサウンドでボトムを支えつつ「Lucky Man」ではコーラスを、「A Place To Hide」ではベースペダルを、「From The Beginning」ではメロディアスなベースソロを聴かせてくれたつるつる頭のTravis Davisとも、なかなかの凄腕です。また、肝心のKeithは初日ということもあってかときに指がもつれ気味ではらはらする場面もありましたが、年齢を感じさせないアグレッシブなオルガングリッサンドや強力な左手は健在で、ファンを喜ばせました。にもかかわらず、何とも居心地の悪い時間が続いたおとなしいライブになってしまったのは何故なのでしょうか?いくら冒頭の小鼓演奏がハズしたとはいえ、バンド、聴衆のいずれからも、何かひとつのきっかけに点火(Ignition)できればがらりと違う雰囲気にできたはずなのですが、本編最後の「Tarkus」に至るまでその機会を逃し続けた、不思議に満たされないライブでした。ライブでのケミストリーは、ミュージシャン同士だけではなく、バンドと聴衆、あるいは聴衆と聴衆の間にも働かなければよいライブにはならないということなのでしょう。

ミュージシャン

Keith Emerson Keyboards / Harmonica / Theremin
Marc Bonilla Guitar / Vocals
Travis Davis Bass / Vocals
Tony Pia Drumls

セットリスト

  1. 小鼓独奏 / Ignition / 1st Presence / Last Horizon
  2. Karn Evil #9 1st Impression -Part2
  3. Piano Concerto No.1 3rd Movement : Toccata con fuoco
  4. Bitches Crystal
  5. Malambo
  6. Touch And Go
  7. Lucky Man
  8. Miles Away / Crusaders Cross / Fugue
  9. Barbarian
  10. Prelude To Hope
  11. A Place To Hide
  12. From The Beginning
  13. Hoedown
  14. Tarkus
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  15. Fanfare For The Common Man(including "Rondo / America")
  16. Nutrocker(including "金平糖の踊り")