塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

火焼余洪 / 秋江 / 西遊記 無底洞の巻(北京京劇院)

2008/09/27

久しぶりの京劇。今回の北京京劇院の公演の見どころの一つは、初の日本人京劇俳優である石山雄太が孫悟空を演じる点にあります。彼は子供の頃から京劇に憧れ続け、高校卒業とともに中国に渡って京劇俳優養成所で修行を重ね、外国人で初めてプロの京劇俳優になったという経歴の持ち主。いわば凱旋公演ということになるわけです。

火焼余洪

鉄弓縁」「扈家荘」などと同様、敵将を圧倒する刀馬旦の打が見せ場となる武戯。主役の丁桂玲は敵将・余洪との一騎打ちで風格のある立ち回りを見せ、さらに一人舞台でスピーディーな槍のトワリングを見せてくれましたが、余洪役の于帥も、重装備での倒扎虎(バック転)に加え、竹林を焼け出され(髭まで短くなっていて笑えます)軽装になってからは花瞼には意外な体術の冴えを見せてくれて、迫力のある舞台となりました。

秋江

これまでに何度か見ている文戯ですが、何度見ても見飽きない楽しい芝居。プログラムには陳妙常役は「張雲」となっていましたが、舞台の上に現れた女優さんはプログラムの写真とは異なるので休憩時間にスタッフの方に聞いたらやはり配役に変更があったとのこと。その侯美は狐目がちょっと色っぽくてかわいく十九歳の娘の一途さと恥じらいがよく出ていましたし、船頭の梅慶羊とのコンビネーションもばっちりで小舟の揺れ、川面を進む様子などが二人の仕種だけで見事に再現されていました。

西遊記 無底洞の巻

休憩をはさんで、いよいよ「西遊記 無底洞の巻」。神仙になるべく修行を重ねているもののいつになったら報われる日がくるのかと嘆く主人公の金鼻玉鼠精に、三蔵法師をつかまえて結婚してしまえばその徳で願いはかないますよとささやくのは先ほど陳妙常を演じていた侯美。「白蛇伝」の小青のような役どころでしょうか。この演目では他にもさまざまな役柄のキャラが立っていて、猪八戒は例によって無責任男だし(その彼が後で連続側転を見せると会場から「おー!」と歓声が上がりました。ただしその歓声は、「凄い側転だ!」ではなく「あいつ、一応回れるんだ」に近いものでした)、玉鼠精の部下の男鼠精の黒大仙・黄大仙は数珠で首フラフープをやるし(さすがに「双下山」のように投げ上げはしません)。キャラ的に薄いのはむしろ沙悟浄と三蔵法師の二人です。

この演目では実は孫悟空も脇役で、主役は金鼻玉鼠精。三蔵法師に結婚を迫る場面で貴方も早く気付いて欲しい 夫婦になったら恩情は永久にと歌い上げた唱は素晴らしい声で、あまりにも強い声だったためにPAの音が割れてしまったほど(前にも書いていますが、京劇公演の際にはもっと生の声を活かす音作りをしてもらいたいものです)。しかし三蔵法師からあっさり断られると、逆ギレして焼き殺してしまえとなるのですが、孫悟空の機転で天宮の将兵が押し寄せてきてここから最後まで長い立ち回りとなり、乱戦の中で玉鼠精は非常に長く多彩な打出手を繰り広げて喝采を浴びました。こんなに長い打出手はたぶん見たことがありませんし、手にした槍と両足とで同時に三本打ち返す技も初めて見たように思います。凄い集中力!ただし、合間に出てきた猪八戒がお腹とお尻で打出手をして見せたときは、これは受ける側だけではなく投げ手の技でもあるのだなと思いました。最後は玉鼠精が捕らえられて大団円。

……えっ、孫悟空の見せ場が少ないんですけど?一度降りた幕が上がって、スポットライトの中に立つ石川雄太が日本語で挨拶し、北京京劇院のメンバーを舞台上に呼んで客席に手を振りましたが、せめて如意棒を残像ができるくらいぶんぶん振り回して欲しかった。それでも、夢をかなえて名門北京京劇院の舞台に立った彼に対して客席から送られた拍手は温かく、そして長くやみませんでした。

配役

火焼余洪 劉金定 丁桂玲
余洪 于帥
秋江 陳妙常 侯美
船頭 梅慶羊
西遊記
無底洞の巻
金鼻玉鼠精 張淑景
孫悟空 石山雄太
三蔵法師 王玉璽
沙悟浄 李揚
猪八戒 景宝琪
猫神 李丹

あらすじ

火焼余洪

余洪は妖術を使う強者、名乗りをあげる劉金定を最初は女とみくびるが、その強さに舌を巻き、竹林に逃げ込む。劉金定は迷わず竹林に火を放つ。

秋江

→〔こちら

西遊記 無底洞の巻

陥空山無底洞にすむねずみの化身・金鼻玉鼠精は、修行を重ねて立派な神仙になりたいと思っている。徳の高い僧である三蔵法師と結婚すればその願いがかなうと聞き、天竺への旅の途中通りかかった三蔵法師を捕らえて無底洞に連れて行く。師匠奪還を目指して孫悟空は天上界に協力を頼み、天の兵士とねずみたちとの大立ち回りが繰り広げられる。