田村能里子展「風河燦々三三自在」

2008/09/27

仕事の関係で飯田橋に行くことがよくあるのですが、飯田橋と水道橋の中間にあるホテルメトロポリタンエドモントの通路に赤を基調とするエキゾチックな絵が掛かっているのが、ずっと気になっていました。

上の写真には通路の照明が写り込んでしまっているため実物の魅力の半分も伝わらないし、実はこの絵のすぐ横に色調がまったくアンバランスな緑のポトスが置かれていてホテル側のセンスを疑ってしまうのですが、この印象的な絵《星河悠々》の作者である画家・壁画家の田村能里子氏が京都嵐山の天龍寺塔頭宝厳院の再建本堂の襖絵を描き、奉納を前に展覧会を行うというので、日本橋高島屋に行ってみました。

これが、期待通り素晴らしいものでした。

田村能里子氏の絵には、アジア、それも若い頃に暮らしたインドや留学で訪れた中国シルクロードの市井に暮らす女性たちを中心とするエキゾチックなモチーフ、そのモチーフを具象化するざらっと乾いた独特のマチエール(絵肌)とタムラレッドと呼ばれる赤、日本画にも通じる繊細な線描、流れ・かすれる不可思議なタッチといった特徴があります。一年半の制作期間をかけて完成した今回の襖絵は、その用途からしてマチエールの立体感は抑制されて滑らかなものになっていますが、タムラレッドはここでも活かされ、澄み切ったブルーや黄色に塗られた麻キャンパスの上に赤い沙漠となって地平線まで波打ちながら広がっています。その上に描かれた三十三人の男女は、観世音菩薩が世を救済しようと三十三身に身を変えるという謂れに基づき、いずれも北インドの乾いた風景の中に白い衣を着てさまざまなポーズをとっていますが、その衣の独特のタッチはローラーによるものであることを、会場で流されていた映像で知ることができました。

会場には、これまでの絵画作品のいくつかも展示され、厚塗りの絵肌からは匂い立つようなアジアの熱気が感じられましたが、今回の襖絵の素材として用いられた、木炭などで描かれたさまざまな人物の素描もまた魅力的で、シンプルかつリアルなその表現の中に示された画家の卓越した観察眼と描写力に圧倒されます。

あいにく図録は売り切れでしたが、頼めば送料無料で後日送ってくれるとのことだったので、迷わず申し込みました。とはいえ、再び見るならやはり本物を、宝厳院に納められた状態で見てみたいものです。赤い沙漠に穏やかに佇む三十三人の老若男女の菩薩が、京都嵐山の和風寺院の中で、どのような表情をして迎えてくれるのか、興味は尽きません。