キャッツ(劇団四季)

2008/04/05

劇団四季のミュージカル「キャッツ」を、五反田のキャッツ・シアターで観ました。このキャッツ・シアターでのロングラン公演は2004年11月11日から既に3年以上も続いており、日本初演の1983年11月11日からでは25年目にあたるという、劇団四季を代表するミュージカルです。

キャッツ・シアターまでは、五反田駅から歩いて10分ほど。開場時刻の少し前に着いてみると、既に大勢のファンがドアが開くのを待っていました。建物は黒と黄色が基調、大きな「CATS」のロゴ、地面には猫マークの自動車進入禁止表示。それ以外はシンプルな外観です。

ところが、ロビーから階段を上がって劇場の中に入ると印象は一変します。円形の劇場の270度くらいが客席になっていて、中央の回転部分は座席もろとも反転している状態。そこにはこれでもかというくらいのゴミ(もちろん大道具)が壁のように積み上げられていますが、全て猫視線なので実際の大きさの3倍くらいに作られていて、しかもいい具合に古びた感じが出してあります。やがて、ごく自然に猫たちが数匹ステージに上がって、場内が暗くなると「オーバーチュア」。闇に光る猫の眼、舞台の回転、印象的な音楽、そして上昇するUFOのようなライトに照らされて一匹の猫が気高く立ち上がり、いよいよ本編がスタートします。

このミュージカルは、T.S.エリオットの「Old Possum's Book of Practical Cats」にアンドリュー・ロイド=ウェバーが曲をつけたもの。よってもともと一貫したストーリーはないのですが、このミュージカルでは、以下のような解説が付されています。

満月が青白く輝く夜、街の片隅のゴミ捨て場。たくさんのジェリクルキャッツが、年意一度開かれる“ジェリクル舞踏会”に参加するため集まってきます。

人間に飼い馴らされることを拒否して、逆境に負けずしたたかに生き抜き、自らの人生を謳歌する強靭な思想と無限の個性、行動力を持つ猫。それがジェリクルキャッツ。

そして今宵は、長老猫が最も純粋なジェリクルキャッツを選ぶ特別な舞踏会。再生を許され、新しいジェリクルの命を得るのは誰か。夜を徹して歌い踊る猫たち。

そして夜明けが近づき、ナイフで切ってしまえそうな静寂に向かって、天上に上り、新しい人生を生きることを許されるただ一匹の猫の名前が宣言されます。

その猫とは……。

以下、次々にジェリクルたちのナンバーが披露されます。おばさん猫のジェニエニドッツはネズミやゴキブリを調教して賑やかなタップを見せ、Mick Jaggerを模したとされる(しかしどちらかと言えば布袋寅泰似の)つっぱり猫のラム・タム・タガーは尻尾のマイクでロックスターを気取り(これが実にかっこいい!)、恰幅のいい紳士猫バストファージョーンズのスノッブや小泥棒マンゴジェリーとランペルティーザのデュエットも軽快。しかし、その合間に老いた娼婦猫グリザベラと真の悪役マキャヴィティの存在が影を落とし、そしてアクト1の最後はグリザベラが歌う「メモリー」。ここで恥を忍んで白状しますが、この名曲「メモリー」が「キャッツ」からの曲だったとは、このときまで知りませんでした。

アクト2は長老猫オールドデュトロノミーの「幸福の姿」で始まり、これも老いた劇場猫ガスがジェリーロラムに付き添われて昔を懐かしみますが、かつての栄光の再現を求める客席からの拍手に応えて劇中劇「海賊猫最後の戦い」の主役グロールタイガーに変身すると、舞台後方から海賊船のセットが降りてきて雰囲気が一変し、毛並みのよいシャム猫グリドルボーンと絡み、シャム軍との勇壮な大立ち回りとなります。鉄道猫スキンブルシャンクスのナンバーでは、猫たちが手にしたさまざまなゴミがまとまってひとつの巨大な機関車が出現するのが面白く、グリザベラを威嚇する目つきの怖いディミータと相棒のボンバルリーナの歌う「犯罪王マキャヴィティ」がスタイリッシュ。また、マジック猫ミストフェリーズがグラン・テカールやグランド・ピルエット、さらにグラン・ジュテ・アン・トゥールナンといったバレエ技を炸裂させて喝采を浴びます。そしてアクト1ではジェリクルたちに受け入れられなかったグリザベラが、妖精猫シラバブと共に再び歌う「メモリー」がこのミュージカル最大の聴かせどころ。この歌の力でジェリクルたちに受容されたグリザベラがオールドデュトロノミーに導かれてステージ奥の巨大なタイヤに乗ると、そのタイヤはスモークを吐きながら前進しつつ数メートルも宙に浮き上がり、そこへ天井からスモークのゴンドラが降りてきて、グリザベラは昇天=救済の時を迎えます。

なんといっても専用劇場ならではの、究極の作り込みが施されたセットや舞台装置がまずは楽しく、上述した通り猫視線でのサイズのゴミが舞台上ばかりか劇場の壁面や二階席前縁を埋め尽くしており、スタッフのこだわりを感じます。カラフルな照明やエンディングの昇天シーンの大胆な舞台機構もゴージャスです。そしてこの舞台上を縦横に駆け回るジェリクルたちの動きはスピーディーで、前足(?)を前方に伸ばした猫ポーズで滑りながら前進する場面が随所に見られます。客席も舞台とスロープでつながれて一体化しており、そこをジェリクルたちは頻繁に降りて来て、客の間を猫ムーヴで歩き回りました。観客自身が、猫視線になって舞台を共有している感覚です。これは一階席だけではなく、ジェリクルたちは二階席にも出没して、そこから階段や滑り台やポールを使ってあっという間に舞台上に戻って来られる仕掛けになっています。

そして個性的なジェリクルたちの描き分けは、メイク、振付、歌が一体となって、それぞれの性格を即座に読み取ることができます。特にアクト2では、グリザベラの救済のきっかけを作るシラバブの役割が大きく、この役を演じる南めぐみさんがかわいいな(日本人体型だけど)と思っていたら、エンディングでジェリクルたちが客席に分け入って客と握手をしてくれて、我々の席に来てくれたのがそのシラバブでした。ジェリクルたちが舞台から降りた後、何度かのコールの後につっぱり猫のラム・タム・タガーが一人登場。客席も心得たもので、彼がたてがみを模した立ち襟でリズムをとるのに合わせて手拍子をスピードアップ。最後にびしっとポーズを決めて、終演となりました。

なお、これは伝統芸能仕様の耳になっているからかもしれませんが、ひとつ残念に思ったのは、演者の生声がほとんど聴けないこと。全てPAを通した音響になっていて、舞台に向かって左端に近い位置の座席で観ていると、演者の位置と声が聞こえてくる方向が一致せず、最初のうちはとまどうことがありました。また逆に、どうやって声を拾っているのだろうという興味も湧いてきます。演者が舞台を縦横に動き回るのですから、クリアに音を拾うためにはワイヤレスマイクを使用しているのかとも思うが、あれだけの激しい動きや一部衣裳替えもある中で24匹分のワイヤレスマイクをトラブルなく運用できるものなのでしょうか?機会があれば、PAの専門家に聞いてみたいところです。

キャスト

グリザベラ 早水小夜子
ジェリーロラム
グリドルボーン
木村花代
ジェニエニドッツ 磯津ひろみ
ランペルティーザ 大口朋子
ディミータ レベッカ・バレット
ボンバルリーナ 高倉恵美
シラバブ 南めぐみ
オールドデュトロノミー 石井健三
バストファージョーンズ
ガス=グロールタイガー
渋谷智也
ラム・タム・タガー 福井晶一
ミストフェリーズ 金子信弛
マンゴジェリー 武藤寛
スキンブルシャンクス 石井雅登