アンカー展

2007/12/29

Bunkamura ザ・ミュージアムで、「アンカー展」。

アルベール・アンカー(1831-1910)はスイスの国民的画家なのだそうですが、率直に言って全然知りませんでした。実はこの日はムンクを見に行こうかなと思っていたのですが、雨模様の中、わざわざ上野まで足を伸ばすのが億劫になり、それでもなんとなく絵を見たいという気分は残っていたので、手近なBunkamuraに向かったというわけ。そういう不純な動機で見た「アンカー展」でしたが、予想以上にいい絵でした。

アンカーは故郷のインス村の、主として子供の絵で名声を博しており、確かに今回の展示でも子供たちがいたるところで賑やかに遊んだり学んだり食べたり眠ったりしていて、ある絵では木の幹にへばりついているリスを帽子でつかまえようとしているかと思えば、別の絵でははだしで遠足に出かけたりもしています。しかし、私が魅了されたのは老人がその孫たちを暖かいまなざしで見つめているいくつかの絵で、とりわけ《おじいさんとおばあさんの家》(1892年)の前ではじっと立ち止まってしまいました。

他の絵は概ね色彩が明るすぎてちょっと平板な印象すら受けるのですが、この絵は暗い部屋の中に暖炉の炎と後方のランプの二つの光源を置いて、とても奥行きがあります。そして暖炉の炎にうっとりと見とれる孫娘たちと、そのうちの一人を膝に抱いて微笑む老人の姿には、いずれ遠からず訪れるであろう迎えの日を予感しつつ、それゆえに今ここにいる孫たちに慈しみを与えようとする穏やかな諦念のようなものが感じられます。

静物画もいくつか展示されていましたが、そこではアンカーの卓越した写実技術を見ることができました。特に、ガラスや磁器などの硬質の描写は傑出しています。また、油彩以外に水彩画や木炭画なども並べられていましたが、幼くして亡くなった自分の子供の姿を描く鉛筆画《死の床につくエミール・アンカー》は、眠るかのように横たわっている幼な子の顔を陰影も細かく書き込み、衣服や調度はラフなデッサンのようにシンプルな描線で表されていて、その対比によってこの絵を見る者は画家の視線を共有することになります。この絵もまた、足を止めて見入ってしまった作品。

「アンカー展」は来年1月20日まで。寒い冬の日、心だけでも暖めたくなったらBunkamuraへ足を運んでみるとよいでしょう。

例によって「ドゥ マゴ パリ」で出している「アンカー展記念メニュー」は、「仔牛バラ肉のクリーム煮 バターライス添え」。草を与えず牛乳だけで飼育された淡白な味わいの仔牛肉を、寒い季節にぴったりのクリーム煮に仕上げたのだそうです。もちろん、こちらもおいしくいただきました。