塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

三人吉三

2007/06/28

今日は有給休暇をとって、芝居を二本。まずはBunkamuraシアターコクーンで、コクーン歌舞伎「三人吉三」です。ご存知河竹黙阿弥の名作「三人吉三巴白浪」は玉三郎丈のお嬢吉三、仁左衛門丈のお坊吉三、團十郎丈の和尚吉三という豪華配役で歌舞伎座で観たことがありますが、串田和美と中村勘三郎丈が組むコクーン歌舞伎は、もちろん一筋縄では行かない趣向が散りばめられているはずです。

シアターコクーンのロビーは、歌舞伎公演らしく茶・お団子・人形焼き、それに扇子など和物が売られていて夏の芝居小屋の風情。平日の昼とあって女性客が大半ですが、涼しげな着物姿もちらほら見られました。場内は一階席の前半分が桟敷席となっていて、舞台上は本水を使った丸池(大川を模したもの)の上に八つ橋が掛かっています。自分の席は二階席の左端で、舞台全体を見渡すには悪くない場所でした。

場内が暗くなり、ギターのノイズが響くとなぜか可愛い白犬(本物)がトコトコと上手から下手へ抜けて、場内から歓声。すぐに伝吉が登場しましたが、犬(こちらは人形)に吠え立てられて難渋するうちに盗み出した宝刀・庚申丸を川に落としてしまいます。このエピソードをイントロとして、客席後方から含み綿・肉襦袢で着膨れた姿の勘三郎丈の高利貸し太郎右衛門と亀蔵丈の研師・与九兵衛が現れ、桟敷席をはさんで左右の通路での掛け合い。これが、「庚申丸」からなぜか亀蔵丈の若大将シリーズ一人芝居になったり英語の喧嘩になったり。勘三郎丈は続いて、礼金を受け取ったときに客席に向かって「申告いたします」=襲名の御祝儀収入に申告漏れがあり追徴された事件を使った自虐ネタです。その太郎右衛門から庚申丸購入の百両を借りる武士・軍蔵は橋之助丈ですが、これも付け歯で出っ歯にしキャラクターも思い切り下品にしていて、とても橋之助丈には見えません。これに対して「柳原辺りの場」での勘太郎丈と七之助丈の絡みは比較的古典的なテイストで、特に七之助丈の充実振りは特筆ものです。もちろん勘太郎丈も負けてはおらず、主人に届けるはずの百両を失って呆然自失の態でふらふらと桟敷席のど真ん中(通路ではなく)を客をかき分けるように進んだものの舞台を目の前にして座り込んだものだから、そのすぐ前の席の観客が固まってしまっていました。そしていよいよ、七之助丈演じるおとせを川に突き落として百両をせしめる赤振袖のお嬢吉三の福助丈、「待ってました!」の掛け声を受けて「月も朧に白魚の……」と橋の上での七五調の名台詞を華麗に聴かせて拍手喝采を浴び、三人吉三の義兄弟の契りとなります。この序幕、回り舞台の機構も存分に活かしつつ、砕けるところは現代演劇のテンポで、聴かせるところは黙阿弥調でと芝居にメリハリがきいて見事です。

これに対して二幕目になると、ぐっとテンポが落ち着いて正調歌舞伎風となります。十三郎とおとせの因果が土左衛門伝吉の語りから明らかになる「割下水伝吉内の場」、その伝吉がお坊吉三に斬り殺される「本所お竹蔵裏の場」の暗い場を経て、登場人物にも全ての因縁が明らかになる「巣鴨吉祥院の場」は、畜生道に墜ちたおとせと十三郎が兄の和尚吉三の手にかかる裏の墓地に回らずに、吉祥院の中だけでたっぷりと見せ切りました。ただしこの選択は、コクーン歌舞伎の客層に対してはかなり厳しい要求だったようです。その分、弟妹を討たなければならない因果応報に勘三郎丈が涙ながらの「悪いことはできねぇなあ」でぐっとくる段取りですが、それでも勘太郎丈と七之助丈にとっての大きな見せ場をとり上げた形になって惜しいと思いました。

大詰「本郷火の見櫓の場」は、降りしきる雪の中で梯子の途中からのとんぼも交えた派手な立回りの中、三人吉三が勢揃いするともはや捕り方との闘いではなく降りしきる雪との体力勝負になっていきます。大音量のギターとリズムをバックに落ちかかる雪の量もハンパではなく、舞台上を駆け回る福助丈や橋之助丈の姿がかき消されるほど。ほとんど固まりになって上から落ちてくるため、桟敷席にも容赦ない風圧と雪が吹き付けてきていますが、お客の方はもちろん大喜び。最後は、互いに刺し違えて折り重なった三人の上に、とどめの雪が落ちて埋め隠され、暗転してエンドとなりました。

実はこの日は千秋楽。福助丈が夜鷹たちと箒をもって舞台上の雪をかき分けたり、二階席に勘三郎丈が現れるサプライズがあったりと盛りだくさんのカーテンコールの後に、舞台上から主演陣の挨拶があり、そして演出の串田和美と音楽の椎名林檎も客席から舞台に上がりました。ここで正直に言うと、特に大詰めのロック全開の演出には疑問符がつくし、それ以上にラストシーンにかぶさる椎名林檎のボーカル曲は、本筋と関係ないタイアップソングを流して余韻をぶち壊しにする和製映画みたいで、はっきりミスマッチだと思います。ついでに言えば歌舞伎役者が芝居の後でおどけて見せるのも好きではない(ましてやこの演目で!)のですが、それは楽日だからということで無理矢理納得することにしました。

いったん家に帰って、続いて三軒茶屋へ向かいます。次は野田秀樹です。

配役

和尚吉三 中村勘三郎
金貸し鷺の首の太郎右衛門
お嬢吉三 中村福助
お坊吉三 中村橋之助
海老名軍蔵
十三郎 中村勘太郎
おとせ 中村七之助
研師与九兵衛 片岡亀蔵
土左衛門伝吉 笹野高史

あらすじ

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