ドン・キホーテ(ミラノ・スカラ座バレエ団)

2007/06/09

4月に引き続いて、またまた「ドン・キホーテ」を、東京文化会館で観ました。前回は東京バレエ団でしたが、今日のドンキはミラノ・スカラ座バレエ団で、主演はタマラ・ロホ(英国ロイヤル・バレエ団)とホセ・カレーニョ(ABT)の超絶技巧コンビが客演しています。振付はルドルフ・ヌレエフ。「白鳥の湖」のヌレエフ版がやたらに男性中心の演出なので、「ドン・キホーテ」でもキトリはチョイ役に降格させられているかも?と内心怖れていましたが、さすがにそれは杞憂に過ぎなかったものの、メルセデスは(ナイフのステップを踊りはしたものの)「街の踊り子」に過ぎずストーリー上の位置づけが軽くなっていますし、ジプシーの野営地での女性の土俗的ダンスも踊られませんでした。

プロローグのエピソードは、例の床屋の一件ではなく、酔って?自室に担ぎ込まれたドン・キホーテが、日頃耽溺する騎士道物語を読み返すうちにドルシネアと幽霊たちの幻影を見て旅立ちを決意するというお話。ここからしてしっかりしたつくりのセットが使用されていて「さすがスカラ座」と思いましたが、第1幕の幕が開くと、村の広場はさらに奥行きのあるセットにカラフルな衣裳のダンサーたちの荒々しい熱気があふれていて舞台上が狭く感じるほど。そんな中に颯爽と登場したタマラ・ロホのキトリは、上野水香が演じるコケティッシュな女の子ではなく恋の駆引きを楽しむ主体的な女性という感じで、一種黒鳥オディール的な性格も垣間見えます。そのことは、まず最初のパ・ド・ドゥでホセ・カレーニョにサポートされてのピルエットでも明らかにされていて、まったく軸のぶれない安定感、そしてサポートの手が離れても慣性で?回転を続けるキトリは、まるで男性の支えなど必要としていないと自己主張しているかのよう。

第2幕のジプシーたちの野営地の場では、最初にキトリとバジルの月下の逢瀬が入ります。そこにわらわらと集まったジプシーたちは最初二人を襲おうとしますが、金目のものを持っていないと見ると、二人を追ってきたロレンツォとガマーシュに標的を変更。続く男性陣の勇壮なジプシーダンスがエネルギッシュで素晴らしく、鞭を振り回しながら回転したりコサックダンスのように大腿に厳しい動きを踊りきったジプシーの男性に拍手が集まりました。人形劇が子供たちによって演じられ、その舞台を壊したドン・キホーテが風車に叩き付けられて再び幽霊の姿に脅かされると、場面は緑の森の中へと転換。ドリアードたちは淡い緑の衣裳で、キューピッドはピンク、ドルシネアはブルー。それぞれのソロと端正な群舞がいずれも美しかったのですが、キューピッド(もちろん女性)が遠目には妙におじさん顔なのが気になる……。

第3幕、酒場でのエピソードをさらっと流して結婚式の場へ。ここではまず、黒と赤を基調とした衣裳(女性は裾がたっぷりとしたファルダ)での群舞が堂々と踊られました。ここまで、時折群舞の統一感がいまいちと感じる場面もありましたが、ここは完璧。そしていよいよグラン・パ・ド・ドゥは、主役二人が鮮やかな白い衣裳を着て登場。アダージョのあの大らかな音楽は、流れるような中音域の弦の下で金管の低音がよく響き、オケのこの日一番の聞かせどころでした。二人もここは幸福感全開の踊りで、特にポアントでの静止の長さは驚異的。そしてアダージョの最後にはタマラがサポートなしでそのままアラベスクへ立ち上がっていきました。続いて、男性のソロでは大らかな回転や跳躍で力強さを見せ、女性のソロはアバニコを使った細かいステップのアレではなく、こちらも優雅な回転系中心です。最後のコーダは、ホセ・カレーニョの渾身のトゥール・ド・レンに引き続いてタマラ・ロホの完璧なテクニックの1-1-3回転グラン・フェッテが延々と続き、場内大興奮。そのまま間をあけずにバジルの堂々の大回転に移って、最後に二人が舞台中央でポーズを決めると、怒号のような歓声と拍手が湧き上がりました。

ところで、カーテンコールではもちろん主役の二人が拍手を集めましたが、ジプシーの男性にも大きな拍手が送られました。そして、最後にドン・キホーテが舞台中央へ登場。第1幕でも鎧をがちゃがちゃ鳴らしながら踊っていましたし、第3幕ではガマーシュと剣を抜いての立回りを演じたし、ヘンな話ではありますが、こんなにドン・キホーテが目立つ「ドン・キホーテ」は初めてでした。

幕間にロビーに出てみると、スカラ座バレエ団のオフィシャルスポンサーでもあるというFREDDYのウェアやシューズ、バッグなどが売られていて、女性客たちが目をつりあげて商品に群がっていました。

また、帰り際には出口でミネラルウォーターFerrarelleが一人1瓶配られていました。帰宅してから飲んでみたのですが、微炭酸で柔らかい飲み口がおいしく、これはいけます。おすすめです。

キャスト

ドン・キホーテ フランチスコ・セデーニョ
サンチョ・パンサ ステファーノ・ベネディーニ
ロレンツォ マシュー・エンディコット
 
キトリ
ドルシネア
タマラ・ロホ(英国ロイヤル・バレエ団)
バジル ホセ・カレーニョ(アメリカン・バレエ・シアター)
 
ガマーシュ ヴィットリオ・ダマート
二人のキトリの友人 マリア・フランチェスカ・ガリターノ
ラーラ・モンタナーロ
街の踊り子 ベアトリーチェ・カルボーネ
エスパーダ アレッサンドロ・グリッロ
闘牛士たち クリスティアン・ファジェッティ
ジュゼッペ・コンテ
マッシモ・ガロン
ルイジ・サルッジャ
フランチェスコ・ヴェントゥリーリア
アンドレア・ボイ
ドリアードの女王 ジルダ・ジェラーティ
キューピッド ソフィー・サロート
3人のドリアード アントネッラ・アルバーノ
モニカ・ヴァリエッティ
ステファニア・バローネ
4人のドリアード ラファエラ・ベナーリア
アントネッラ・ルオンゴ
ルアーナ・サウッロ
コリンナ・ザンボン
ジプシーの王と女王 ダニーロ・タピレッティ
カロライン・ウェストコーム
ジプシー アントニーノ・ステラ
二人のジプシー娘 ラファエラ・ベナーリア
ルアーナ・サウッロ
花嫁の付き添い セレーナ・サルナターロ
執事とその妻 マウリツィオ・タメリーニ
アデリーヌ・スレティー
ファンダンゴのソリスト ベアトリーチェ・カルボーネ
ミック・ゼーニ
 
指揮 デヴィッド・ガーフォース
演奏 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団