籠釣瓶花街酔醒

2006/09/18

しばらくぶりの歌舞伎座は、幕見で播磨屋の「籠釣瓶花街酔醒」。昨年、勘三郎丈と玉三郎丈の組み合せで観た芝居ですが、こちらはどうでしょうか。なお、立花屋長兵衛で兄の幸四郎丈が友情出演(?)。

暗闇の中に幕が開き、次の瞬間全点灯で舞台上に吉原。勘三郎丈の襲名披露ではこの後豪勢に七越・九重・八ツ橋の三つの花魁道中が行き交って華やかなことこの上もなかったのですが、今回はシンプルに九重と八ツ橋のみで、人数も絞ってあります。そして、花道での八ツ橋の微笑ということになるのですが、さすがに幕見席からでは遠くて細かい表情が読み取れなかったものの、正面を向いてにいっと歯を見せていた様子。これは、そういう型なのかな。

ただ、八ツ橋の間夫・栄之丞の梅玉丈はなんだかあまりにも生真面目な武家らしさで、したがって八ツ橋が栄之丞のどこに惚れているのかよくわからない(感情移入できない)から、身請け話を黙っていたことを栄之丞に詰られて八ツ橋が身も世もなく窮地に陥るのが「なんで?」とつい思ってしまうし、縁切りの場で先程までの弱い女とは打って変わった愛想尽かしの厳しさも唐突に見えてしまいます。八ツ橋は佐野次郎左衛門とは商売づくの付き合いでしかなく、したがって愛想尽かしも実は本心から言っているのだとしたら、これはこれでわかるような気がしますが、そんな自分を八ツ橋はわちきはつくづくいやになりんしたと九重に向かって否定してみせるわけで、そうなると八ツ橋は佐野次郎左衛門に何がしかの真心をもっていたのでしょうか?うーん、よくわかりません。次にこの芝居を見るときの課題です。

吉右衛門丈の佐野次郎左衛門は、これはもう前半田舎商人の舞い上がり方が見事に描写されていて、そこから愛想尽かしをされて最初のうち事情が飲み込めずに動揺していたのが、花魁、そりゃあんまりそでなかろうぜでははっきりとした抗議。勘三郎丈のときは控え目なそでなかろうぜ?だったと思いますが、吉右衛門丈のはそでなかろうぜ!で、その後の夕も宿で寝もやらず、秋の夜長を待ちかねて身請け話を取り決めに来たのに、この期に及んで断るくらいならなぜ初手から言うてくれぬとの恨み言が際立ちます。そして大詰めの立花屋二階の場では、勘三郎丈は焦点の合わない目が狂気を孕んでいましたが、吉右衛門丈のは完全に計画的で、八ツ橋が見事な海老反りで死んでいくところで妖刀・籠釣瓶に魂を乗っ取られた感じ。明かりを持って来た下女も斬り捨て、刀に見入って籠釣瓶は斬れるなぁ……と見せる笑顔がこの上もなく不気味で、こうなると今はめったに上演されない「捕物」まで見たくなるのですが。

全体にはテンポがよく、比較的淡々と進んだ印象。どこがどうという訳ではないのですが、もうちょっとコクがあっても、いいかな。もっとも、幕見席では空調の音がうるさく、しばしば舞台への集中をそがれたこともこう感じた理由のひとつだと思います。それにしても、大詰めの直前、定式幕が引かれている間に三階席に入ってきた外国人観光客の団体さんがいましたが、びっくりしただろうと思います。なにしろ、幕が開いたと思ったら無惨にも女性が斬り殺される場面で、それに向かって観客が大拍手を送っているのですから。

配役

佐野次郎左衛門 中村吉右衛門
八ツ橋 中村福助
立花屋女房おきつ 中村東蔵
下男治六 中村歌昇
七越 市川高麗蔵
釣鐘権八 片岡芦燕
九重 中村芝雀
繁山栄之丞 中村梅玉
立花屋長兵衛 松本幸四郎

あらすじ

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