第11回世界バレエフェスティバル

2006/08/05

第11回世界バレエフェスティバルのAプロを、東京文化会館大ホールで観ました。15時開演、終演は19時40分。3年に一度のバレエフェスティバルもこれで初回から30年たつことになるわけで、会場には「30th ANNIVERSARY」と題して歴代の出演者たちの顔写真のディスプレイが置かれてありました。もしかするとガラの日ならそれらしいイベントもあるのかもしれませんが、今日のところはこれ以外に30周年らしい特別な仕掛けはなし。

演目は以下の通り。

演目 ダンサー 振付
「ラ・ファヴォリータ」 ルシンダ・ダン
マシュー・ローレンス
ペタル・ミラー=アッシュモール
「7月3日 新しい日、新しい人生」 ニコラ・ル・リッシュ ジェレミー・ベランガール
「白雪姫」 タマラ・ロホ
イナキ・ウルレザーガ
リカルド・クエ
「椿姫」第3幕のパ・ド・ドゥ ジョエル・ブーローニュ
アレクサンドル・リアブコ
ジョン・ノイマイヤー
「ロミオとジュリエット」バルコニーのパ・ド・ドゥ ポリーナ・セミオノワ
フリーデマン・フォーゲル
ジョン・クランコ
「エスメラルダ」 レティシア・オリヴェイラ
ズデネク・コンヴァリーナ
マリウス・プティパ
「オネーギン」第1幕のパ・ド・ドゥ アリーナ・コジョカル
フィリップ・バランキエヴィッチ
ジョン・クランコ
「ジュエルズ」ダイヤモンド アニエス・ルテステュ
ジョゼ・マルティネス
ジョージ・バランシン
「白鳥の湖」黒鳥のパ・ド・ドゥ イリーナ・ドヴォロヴェンコ
ホセ・カレーニョ
マリウス・パティパ
「扉は必ず……」 オレリー・デュポン
マリュエル・ルグリ
イリ・キリアン
「眠れる森の美女」 マイヤ・マッカテリ
デヴィッド・マッカテリ
マリウス・パティパ
「コンティニュウム」 ルシンダ・ダン
マシュー・ローレンス
クリストファー・ウィールドン
「ライモンダ」 ガリーナ・ステパネンコ
アンドレイ・メルクリーエフ
マリウス・パティパ / ユーリー・グリゴローヴィッチ
「春の声」 アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー
フレデリック・アシュトン
「カルメン」 アレッサンドラ・フェリ
ロバート・テューズリー
ローラン・プティ
「TWO」 シルヴィ・ギエム ラッセル・マリファント
「ベジャールさんとの出会い」 ジル・ロマン モーリス・ベジャール
「マノン」沼地のパ・ド・ドゥ ディアナ・ヴィシニョーワ
ウラジーミル・マラーホフ
ケネス・マクミラン
「ドン・キホーテ」 ヴィエングセイ・ヴァルデス
ロメル・フロメタ
マリウス・プティパ

アレクサンドル・ソトニコフさんの指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏のいつものテーマで幕を開けて、最初の演目「ラ・ファヴォリータ」は丁寧できれいなダンス。特に、二人でシンクロして流れるように動くところがアイスダンスのように滑らかでした。ルシンダ・ダンはオーストラリア・バレエ団のエキゾチックな顔立ちのダンサーで、その踊りを観るのは今回が初めてだと思いますが、流麗でとてもいいなと思いました。

そして、この日最初に観客の度肝を抜いたのが、「白雪姫」のタマラ・ロホとイナキ・ウルレザーガ。タマラ・ロホのダブルやトリプルを大胆に混ぜたグラン・フェッテは永遠に続くかと思うほど長くて、いつまでも止まらない高速回転に観客も「えーっ、まだ続くのか!」とどよめきと拍手が湧き起こったほど(結局48回まわったらしい)。ウルレザーガも負けじと高さのあるトゥール・ザン・レールをこれでもかと連続させて歓声を集めました。

「椿姫」はショパンの「バラード第1番」(演奏:高岸浩子)をバックに踊られるのですが、演奏にはとてもいいところもあれば若干ミスもあり、そちらが気になってしまいました。かたや、「ロミオとジュリエット」のポリーナ・セミオノワは、すらっとした手足の動きがため息が出るほど綺麗で引き込まれます。また、「オネーギン」のアリーナ・コジョカルも、回転によってひらめくネグリジェ(?)が夢見がちな少女の純真さとあぶなっかしさを示していて見惚れてしまいます。

時間が押し気味だったせいかえらくテンポの速い「白鳥」コーダに驚いた後、後半の最初はイリ・キリアンの「扉は必ず……」。これはよかった!不気味な持続音とハープシコードの曲をバックに、例によって男女二人がさまざまなポーズをゆっくりと休みなく続けていき、そこに重力のマジックが働くという作品なのですが、この作品では男女二人に(たぶん)夫婦という役割が与えられています。フラゴナールの絵にヒントを得たというだけあって衣裳もそれっぽいし、後ろには寝室の壁と扉、カーテン、そしてベッドや椅子がある日常的なシチュエーションで、それだけにそこで繰り広げられる二人の動きは静かな狂気といった感じがします。それとも、キリアンの目には通常の夫婦の営みがこのように映るのでしょうか?太極拳のような動きの中で絡み合ったり、花束を投げ合ったり、しかし最後には座ってりんごを分け合ったり。

ヨハン・シュトラウスの曲に乗ってアリーナ・コジョカルが紙吹雪をまき散らしながら明るく楽しく踊った「春の声」に続いて、「カルメン」の静かな間奏曲に乗って踊るアレッサンドラ・フェリが超すてき。ローラン・プティの振付も綺麗。オペラグラスでじっくり拝見しました。40代になってもこれだけ妖精の雰囲気を保っていられる人は、他にいないのでは?

シルヴィ・ギエムの「TWO」は、近年彼女が好んでとりあげているラッセル・マリファントの作品。真上から落ちる照明がギエムの四方を壁のように囲み、その中心の薄暗いところに立つギエムが、ドラムのビートがきいた厳しいリズムに乗って演武のように踊ると、光の壁を時折かすめる手や足先が白く輝きます。ダンサーの(それも、あの美しいギエムの)顔をあえて暗闇に隠した、照明と音楽とダンスのコラボレーション。それでも、ギエムだからこその説得力が会場を支配していた感じ。

「ベジャールさんとの出会い」は、「まぁこういうのもありかな。ジル・ロマンが踊っているのだからつべこべ言うのはやめよう」みたいな微妙(?)な、しかし暖かい拍手。彼も相当なベテランですが、初めて観たときからまったく雰囲気が変わりません。これに対してディアナ・ヴィシニョーワとともに「マノン」を熱演し終えた後カーテンコールに出てきたウラジーミル・マラーホフの、あまりにも疲れきった表情に驚きました。歳のせいか、体調不良なのか、しかし踊っているときには一切そうした様子を見せなかったのがさすが。

そして、トリをつとめた「ドン・キホーテ」のヴィエングセイ・ヴァルデスとロメル・フロメタのキューバ国立コンビのテクニックも凄いものでした。一瞬のうちに軽々と片手リフトでパートナーを持ち上げそのまま舞台袖まで歩いてみせるフロメタにも驚きましたが、それ以上に目を見張ったのがヴァルデスの驚異的なバランス!ポワントでの静止時間はABTのDVDでパロマ・ヘレーラが見せたものよりも長かったし、極めつけはポワントで静止したままゆっくりとアティテュードからアラベスクへ持ち込んで静止を続けた場面。あり得ない!そしてアダージョの最後には、フロメタがヴァルデスを空中に投げ上げてからフィッシュ。

今回は全体にとても充実したプログラムで4時間半もの長さが苦にならず、次回のフェスティバルが楽しみだと思わせてくれました。アレッサンドラ・フェリやジル・ロマンのようなベテランの姿を観ることもできたし、初めてその踊りを観てファンになったダンサーも何人か。そしてその3年後には、また新しいスターダンサーがこのイベントに参加するのでしょうし、今日出演したうちの何人かは一層の名声を獲得していて、そして何人かは引退しているのかもしれません。