新●月

2006/04/08

robin☆さんと、その友人のN氏と3人で、「新●月」のライブに参戦(←robin☆さんは、ライブを聴くことを「参戦」という)してきました。

「新●月」というのは、1970年代の終わりに彗星のように現れて、短くも忘れ難い光芒を残して消えた和製プログレバンドです。robin☆さんとN氏はなんとリアルタイムで彼らのライブも観ていたのだそうですが、私は当時はその存在すら知りませんでした。ところが、その後クライミングをするようになって、フリークライミング界の大御所・北山真氏が実は元ミュージシャン、しかもプログレだったらしいと聞き、一度はその音を聴いてみたいものと思っていたところ、2年前にそのライブ音源が正規CD化されて購入(下の写真)。ジェネシスを思わせるシンフォニックなキーボードと艶やかで伸びのあるギター、高度なテクニックで手数多く迫るリズムセクションといった、私のツボにはまる要素が満載された演奏にノックアウトされました。もっとも、ヴォーカルだけは私の好みに合わなかった(というか、はっきり言えば下手)のですが、そのヴォーカルが上記の北山真氏なのだから世の中ままなりません。そして、その彼らが27年振りに復活ライブを行うというので、robin☆さんにチケットをとってもらっていたのです。

ちなみに「新●月」の「●」は別に伏字ではなく、新月だから黒い丸。これがもし「満月」というバンド名だったら「満○月」となるのでしょう。

会場の原宿クエストホールでrobin☆さんらと約束の時刻に落ち合い、早速中に入ってみると、舞台上には山ほどの楽器が並んでいて、これだけで興奮してしまいます(下図参照)。

上手側にはYAMAHAのCP-80、そのすぐ左に白いメロトロンとオルガンがあってそれぞれの上にシンセ。その奥にもメロトロンとFender Rhodes、シンセ。下手側ドラムセットの後ろにもキーボードスタンドがあって、上はProphet-5。トリプルキーボードで、見えているだけで10台、しかも演奏中のプレイヤーの動きからすると、少なくともあと2台はあった模様。ドラムセットも豪華で、ツーバスの上にレモのロートタムがぐるりと8発。シンバルはスネアの真上の位置にライドがあって、その左右にこれでもかという枚数のクラッシュやスプラッシュ。ハイハットも左足と右手側リモートとの2セット。ベースはFender Precisionが2本で、ブルーの1本はフレットレス。ギターはゴールドトップのアーム付きLesPaulで、アクティブ仕様らしきスイッチがついていました。ほかにリザーブのギターが1本、ヴォーカルが使うスリムボディのアコースティックギター1本。後でrobin☆さんはメロトロンの完璧なメンテ状態に驚嘆していましたが、確かにチューニングはまったく申し分なく、しかも単なる懐メロとしてではなく、そこにその音の必然性がある使われ方をしていました。ギターの伸びやかな音も、ドラムの気合の入ったタム回しも、FenderなのにAlembicみたいな音(?)のベースも、いずれもよかった。しかし、スタッフによるチェック時にベースアンプからの生音が聞こえるほど小さな会場のキャパは、数えてみると300程度で、チケットも5,500円とお安め。こんなに豪勢に楽器を使って、興行として収支は成り立っているのか?といらぬ心配をしてしまいました。

定刻を少し回ったところで客電が落ちると、舞台奥中央からメンバーが登場し、それぞれの場所へ。そしてジャンパーにマフラー、ベレー帽姿の北山真氏がゆっくり現れて、あのぼそぼそとした声で「こんばんは、新月です」とMCを入れて始まった1曲目は「白唇」でした。背後のスクリーンに雪が舞う情景が映し出され、のっけから新月ワールド全開。オープニングはCDのライブと同様に「鬼」かな?とも思っていたのですが、実は名曲とされる「鬼」よりもこの曲の方が私は好きだったりします。続いて「雨上がりの昼下がり」。最初のヴォーカルの出だし、バスドラのパターンに合わせてヴォーカルがノックを叩くような仕種。コーラスがかかったギターのアルペジオやコンプレッサーで伸びるロングトーンが最高です。3曲目は初めて聴く曲(「知る人ぞ知る」だと解説がありました)でしたが、ベースが高いポジションでコードを鳴らしていたのが印象的。その後、なぜか下手からちゃぶだいがドラムセットの前に運び込まれて、北山真氏も関わっていた劇団インカ帝国のメンバーによる寸劇「タケシ」が演じられましたが、う〜む、これはいったい何だったんだろう?ともあれ、一応この寸劇から4曲目の「不意の旅立ち」につながりました。

5曲目の「島へ帰ろう」の後に、北山真氏がCP80に向かい、リズムセクションとゲストキーボード2名がいったん引っ込んで北山氏のソロ作から「日本武道館」。北山氏は、ピアノもうまくないなぁ。その北山氏が引っ込んで、ベースの鈴木氏が一種宗教家っぽい語り口でひとしきりMCを入れてから、インストの「生と死」。ここで鈴木氏はドライバーでベースの弦を叩いていたようで、その金属的な響きと即興的な演奏が新●月としては異色の曲でした。そして、リーダーの花本氏がCP80に座って、ここから「殺意への船出パート1」と「殺意への船出パート2」のメドレー。といってもこのふたつの曲の間には花本氏がCP80からオルガンへと移動するまでの居心地の悪い「間」があったのですが、せっかく3人もキーボードがいるのだから工夫のしようがあったのでは?とはいえ、「殺意への船出パート2」の演奏は実に素晴らしいものでした。高らかに鳴るオルガンから、ギターのアルペジオ、そして繊細なヴォーカルパートに続いて緊迫感溢れるシンバルの刻みから細かいスネアワークで7拍子のリズムイン。もう最高!それにしても、ここでのヴォーカルのコスチュームには驚きました。箱みたいなのをかぶって、全身くしゃくしゃのアルミホイル(のような衣裳)で覆われ、最後には箱の中にぶらさがった電飾が光る仕掛け。Peter Gabrielでもそこまではやらないぞ!という感じですが、ここでのヴォーカルワークは深みのある低音から澄んだファルセットまで変幻自在で文句なく、コスチュームの異様さも気にならないほど聞き惚れてしまいました。強いて言えば中間部のドラムソロパートが少しあっさりしていましたが、そのかわりエンディングの複雑なリズムパターンのキメをばっちり決めてくれて大満足です。

今度はギターの津田氏のMCの後に、これも大好きな「赤い目の鏡」。スクリーンに回転する赤いウサギのオルゴール。そしてカウントが入ってギターのアルペジオから叙情的なシンセのフレーズ、高音を聴かせる津田氏のヴォーカル。この曲で聴かれるロングトーンのギターのメロディの美しさには、本当に心を揺さぶられます。そしてこのメロディがギターからシンセに引き継がれ、幻想的な主人公の旅の場面の後にリズムがドン・ドドンと響くところではゲストキーボードの小久保氏が中近東風の薄い太鼓を大きなバチで鳴らしていたのが効果的でした。この曲の後に、ゴーンと鐘が鳴って、いよいよ本編ラストの「鬼」。ヴォーカルの北山氏はもちろん白装束で、マイクに向かってしずしずと歩み寄るときに強い風が被り物を激しくはためかせます。途中のインストパートでいったん棺桶に入り能面をつけて再登場するなど、シアトリカルな要素を満載した演出で本編を終了しました。

アンコールは2曲。ロックテイスト溢れる「科学の夜」に続いて、ラストの本当に美しい叙情的な「せめて今宵は」では会場の左右の壁に電飾による星がまたたきます。歌詞の最後の時計のリズムはさざなみのようにひとつずつ消えゆくを受けてコーダ部分でスネアのリムショットが時を刻むのを聴きながら、27年間という時の重みを思い、不覚にも涙が出そうになってしまいました。

2時間あまりのステージが終了し、会場を出た我々は表参道へ向かう途中の店に入り、今聴いたばかりの新●月の感想からプログレ談義に花が咲いて時のたつのを忘れたのでした。

ミュージシャン

北山真 Vocals / Guitar
花本彰 Keyboards
津田治彦 Guitar / Vocals
鈴木清生 Bass
高橋直哉 Drums
小久保隆 Keyboards / Percussions / Vocals
清水一登 Keyboards / Saxophone / Clarinet / Vocals

セットリスト

  1. 白唇
  2. 雨上がりの昼下がり
  3. 砂金の渦
  4. 不意の旅立ち(寸劇「タケシ」付き)
  5. 島へ帰ろう
  6. 日本武道館
  7. 生と死
  8. 殺意への船出パート1 / 殺意への船出パート2
  9. 赤い目の鏡

  10. -
  11. 科学の夜
  12. せめて今宵は