マラーホフの贈り物

2006/02/25

「し、しまったあっっっ!!」と、上野・東京文化会館の前で(心の中で)叫ぶ私。今日は先週日曜日に引き続いてマラーホフのバレエ=小品やハイライトを集めた『マラーホフの贈り物』Aプロなのですが、先週が上野で今日も同じ会場だとばかり思い込んでいたのに、開演時刻である15時の10分前に会場に着いてみたら妙に人が少ない感じ。あわててチケットを見ると、そこにははっきりと「ゆうぽうと簡易保険ホール」の文字……。

教訓:出かける前にチケットをよく見ましょう。

ただちに京浜東北と山手線を乗り継いで五反田に向かいましたが、当然開演に間に合うはずもなく最初の2演目=「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」と「菩提樹の夢」を見逃してしまい、「椿姫」からの鑑賞となりました。

「椿姫」。ルシア・ラカッラの凛とした美しさはいつも通りですが、より情感をこめた踊りになっていました。シリル・ピエールとの日本人には真似のできないプロポーションの組み合せには、いい意味でも悪い意味でも溜め息が出るばかり。「ファラオの娘」のパ・ド・ドゥは、アダージョではこんなもんかなぁという振付でしたが、ヴァリエーションに入るや二人とも素晴らしい身体能力を発揮し、見事に盛り上げてくれました。明るい照明、いかにもな衣裳がエジプト風。しかし、こういうハイライトを観るときは、やはり先に全幕観るなり解説を読むなりして、それがどういうシチュエーションなのか把握しておきたいところです。会場に駆け込んで間もなく席についたので、プログラムを読む暇もほとんどなかったのがちょっと残念。

休憩が入って一息ついてから、「白鳥」の第2幕。ここでは東京バレエ団がこれでもか!というくらい大勢のコール・ドを繰り出して、ずいぶん豪勢な、動きのある第2幕でした。そんな中で踊られた第2幕最大のポイント=オデットと王子のアダージョは、かつてマラーホフとヴィヴィアナ・デュランテの組み合せで観た息を飲むような美しさまでは感じられなかったのですが、とても端正な踊りでした。4羽の白鳥も、抜群のチームワークで拍手を集めました。ただ、どういうわけか今日の舞台は足音がよく響きます。女性のコツコツいう音はある程度仕方ないにしても、男性の緩やかな旋回時にもきゅるきゅる音がしてしまうのはなんだか興醒めで残念。

再び休憩の後、若手注目株のポリーナ・セミオノワの「黒鳥」。きれいだ……。今度は全幕で観よう。正体を現したときの「ほ〜ほほほ」なんて、彼女はどんな表情をするんでしょう。なお、セミオノワのダブル連続のグラン・フェッテに続く男性の(本来は)グランド・ピルエットは、マネージュに差し替えられていました。続くモダンの「ライト・レイン」は、この日一番気に入った演目。打楽器のパターンの上にヴァイオリンが中近東風のゆったりした旋律を奏で、スモークが焚かれたステージにはオレンジと白の薄い照明が無数の円形を回転させていて、その中心でルシア・ラカッラとシリル・ピエールが柔軟性を極致まで活かした神秘的なポーズをつないでいきます。淡々としているようでドラマティック。「ドン・キホーテ」は端正なキトリと元気な足技を見せるバジル。そしてマラーホフのソロ「ヴォヤージュ」は、モーツァルトのピアノ協奏曲に乗って白いゆったりとした上下を身にまとったマラーホフが、マイムにも似たモダンの身体言語で弧愁に満ちた印象的なダンスを踊りました。こうしてみると、古典作品での王子然とした役柄の彼ももちろん素晴らしいですが、生身のダンサーとしてのマラーホフの魅力は、こうしたモダン作品により表れてくるような気がします。ともあれ、彼ももう決して若いと言える歳ではありません(1968年生まれ)から、彼の来日の機会はこれからも大事にしたいものです。

最後は全員が次々に舞台に駆け込んでテクニックを披露する「フィナーレ」。もちろんここで最も喝采を浴びたのはマラーホフ本人で、その高く美しいグラン・ジュテに会場は歓声に包まれました。美しさ、優雅さ、気品と、それらを支える身体能力の高いレベルでの結合は、他の舞台芸術にはなかなか見られないものだし、だからバレエを観るのは楽しいのです。

キャスト

「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」 ジュリー・ケント
ウラジーミル・マラーホフ
「菩提樹の夢」アダージョ ポリーナ・セミオノワ
アルテム・シュピレフスキー
「椿姫」 ルシア・ラカッラ
シリル・ピエール
「ファラオの娘」 マリーヤ・アレクサンドロワ
セルゲイ・フィーリン
「白鳥の湖」第2幕 オデット姫 ジュリー・ケント
ジークフリート王子 ウラジーミル・マラーホフ
ロットバルト 高岸直樹
四羽の白鳥 高村順子 / 門西雅美 / 小出領子 / 長谷川智佳子
三羽の白鳥 大島由賀子 / 奈良春夏 / 田中結子
「白鳥の湖」黒鳥のパ・ド・ドゥ ポリーナ・セミオノワ
アルテム・シュピレフスキー
「ライト・レイン」 ルシア・ラカッラ
シリル・ピエール
「ドン・キホーテ」グラン・パ・ド・ドゥ マリーヤ・アレクサンドロワ
セルゲイ・フィーリン
「ヴォヤージュ」 ウラジーミル・マラーホフ
「フィナーレ」 全員