恋飛脚大和往来

2005/06/18

今月の歌舞伎座は、夜の部の「盟三五大切」通し狂言が吉右衛門丈、仁左衛門丈、時蔵丈の顔合わせ、四世鶴屋南北生誕二百五十年ということで目玉になっているのですが、都合で昼の部の「恋飛脚大和往来 封印切 / 新口村」を幕見席で観ました。江戸役者の染五郎丈が上方和事狂言を代表する色男・忠兵衛の役に挑む点が話題です。

「封印切」は以前鴈治郎丈の忠兵衛、富十郎丈の八右衛門で観たことがありますが、今日の染五郎丈は鴈治郎型ではなく仁左衛門型となります。以下は請け売りですが、型によって階段の向きやセリフの配分などが違うほか、ことに封印を切るところが鴈治郎型では突き飛ばされたはずみに金包みの封が切れ、もはやこれまでと残りも切っていくのに対し、仁左衛門型では怒りに任せて自分で封を切ってしまい、一瞬動揺するものの、ままよと残りも切っていきます。最後の死出の旅立ちも、鴈治郎型では先に行かせた梅川のもとへ忠兵衛が一人花道を引いていきますが、今日は二人手をとりあって消えていきます。

染五郎丈は近松物「女殺油地獄」の与兵衛でも上方を舞台とした世話物の主人公を演じているし、もともとこうした破滅型のぼんぼん系は得意としていますが、この「封印切」では上方和事独特のおかしみや色っぽさ、つまりは役者自身の雰囲気で男女の恋模様を見せていくことになりますから、染五郎丈としてもそれなりの覚悟をもって臨んだことでしょう。冒頭の井筒屋門口から裏手の切戸口まで、これという筋の運びもないままにじゃらじゃらと雰囲気で見せるところも本来上方ネイティブの気配のようなものがなければ浮いてしまってあほらしくなってくるところですが、客席も染五郎丈の意欲を感じ取っていた様子。

そして仁左衛門丈の八右衛門が、嫌なヤツだが悪役というのとも違う面白い役柄で、ここから客席をぐいぐい引っ張るのがさすが。忠兵衛が怒り心頭で飛び出してきてからの掛け合いは最初漫才のごとくで客席もにやにやしながら聞いていましたが、八右衛門が徐々に忠兵衛を追いつめ、忠兵衛の声が上ずり早口となって進退窮まっていく展開の緊迫感に固唾を飲みます。そしてとうとう、封印を切ってしまった忠兵衛が立ち上がって覚悟の小判をぶちまけると、よもやの結末に八右衛門ともども圧倒されます。

その仁左衛門丈は続く「新口村」では忠兵衛の父・孫右衛門を演じます。本来仁左衛門型の「新口村」では忠兵衛 / 孫右衛門を早替わりで演じるのだそうですが、今日は大罪を犯した息子を思う老父に専念。幕切れ前、御所街道を落ちていく二人は雪の竹林の向こうに、折り返しのスロープを去っていきます。ここでの真横からのライティングが、効果的かつ歌舞伎座としては斬新。そして二人を見送る孫右衛門がよろけて木に突き当たると枝の上に積もっていた雪が落ち、崩れるように座り込んで顔を覆う幕切れに、もらい泣き。

……それにしても!前にも書いたことがあるかもしれませんが、芝居の最中(それも肝心の見どころ)にビニール袋をがさごそさせる観客のマナーの悪さはなんとかならないものか。だいたい、歌舞伎座内や周辺のお店で音源(ビニール袋)に物を入れて売っているのだからお話になりません。本当に、松竹さん、これはなんとかして下さい!

配役

封印切 亀屋忠兵衛 市川染五郎
傾城梅川 中村孝太郎
槌屋治右衛門 中村東蔵
井筒屋おえん 片岡秀太郎
丹波屋八右衛門 片岡仁左衛門
 
新口村 父親孫右衛門 片岡仁左衛門
忠兵衛 市川染五郎
忠三郎女房 中村歌江
梅川 中村孝太郎

あらすじ

封印切

大坂新町の槌屋抱えの遊女梅川は、飛脚問屋の忠兵衛と言い交わす仲だが、飛脚仲間の丹波屋八右衛門が横槍を入れ、梅川を身請けすると言い出す。自分への悪口雑言を繰り返す八右衛門に思わずカッとした忠兵衛は、預かり金三百両に手を付けてしまい、梅川の身請けを成立させる。

新口村

公金横領の大罪を犯した忠兵衛は、梅川との心中を決意し、生まれ故郷の新口村にやって来る。梅川が、身を隠す忠兵衛とその父孫右衛門の間を取り持ち、父子の対面がかなったのもつかの間、追われる二人は降りしきる雪の中に消えて行く。