We Will Rock You

2005/05/28

Queenの曲を初めて聴いたのは、「Killer Queen」がチャートを賑わせていたときですから、中学から高校に上がる頃でしょう。その後私はQueenを聴き込むことなく、ごく自然に(?)プログレ路線を邁進することになるのですが、20代の後半になってから、人の影響あってQueenをデビューアルバムから『The Works』まで聴き込むことになりました。特に『Live Killers』は収録曲も演奏も素晴らしい(音質はともかく)と今でも思うし、わけてもFreddie Mercuryの強靭でクリアなヴォーカルスタイルはまさしくOne and Onlyです。

さて、演歌の殿堂(!)新宿コマ劇場でミュージカル「We Will Rock You」を観ました。題名から推して知るべし、推さなくても知るべし、当然これはQueenの曲をちりばめたもので、あの「マンマ・ミーア!」のQueen版と言ったらいいのでしょうか?Freddie Mercuryが亡くなったのが1991年。それから10数年の時を経てBrian MayとRoger Taylorがかかわったミュージカルということだから(舞台メンバーはオーストラリアから来ているが)それなりのものになるのだろうと思っていたのですが、ちょっとこれは……。

ストーリーは、いたって単純です。

完璧なまでに“ひとつ”になった世界。子供たちは、同じ映画を観て、同じファッションに染まり、同じ思考回路を持つ。まるで無菌室のような、安全で、ハッピーな世界。

ロックは死に絶え、楽器の演奏が禁じられたこの管理社会=ガ・ガ・ワールドに現れた主人公の若者(その名前が「ガリレオ・フィガロ」!)は、頭の中に過去のロックミュージックの断片が浮かんできて、そうした自分にとまどう。おお、Rushの『2112』の世界になんとなく似ているぞ。ただしシリンクスの司祭たちの代わりに出てくるのは、グローバルソフト社のCEO、肝っ玉母さん風のキラー・クイーンと、その腹心の秘密警察カショーギ署長。ガリレオは、同じく画一化された世界になじめない少女スカラムーシュ(……。)とともに伝説の地リヴィング・ロックに隠されたギターを探す旅に出るというもの。

ガ・ガ・ワールドのテーマ曲のようにマスゲームで歌われるのが、前半「Radio Ga Ga」、後半「One Vision」(どちらもRogerのパートで歌ってしまった)。脱走した主人公の二人をかくまうパンク / ヒッピーファッションのレジスタンス達はボヘミアンと呼ばれ、その一人一人の名前がオジー・オズボーン(でも女性)だとかブリトニー・スピアーズ(でも野郎)だったりする上に、台詞のあちこちに古今のロック / ポップスの曲名や歌詞の一部がはさみこまれていて、かなり楽屋オチに近いテイストが漂います。

主人公によって、あるいはコーラスで歌われる曲は、「I Want To Break Free」「Killer Queen」「Under Pressure」「Seven Seas Of Rhye」「Don't Stop Me Now」「Hammer To Fall」などなど。キラー・クイーンのパワフルなヴォーカルは印象的でしたし、主人公二人が音域をうまく分けてFreddieの曲を再現していたのもよくて、特に「Who Wants To Live Forever」には泣かされました(個人的には「Save Me」か「Is This The World We Created」あたりも選曲してもらいたかったのですが)。バンドの編成はギター2、ベース、ドラム、キーボード3、パーカッション。「Now I'm Here」でドラムがリズムを見失いかけていたのを除けば、概ねタイトな演奏でよろしい。もっとも全ての曲がオリジナル通りではなく、「Radio Ga Ga」などは一部歌詞が変更されていましたし、「Bohemian Rhapsody」の中間の歌詞に至ってはさすがに劇中では処理が困難だったらしく、そこは意味不明のたわごとだみたいな切り捨て方をされていました。かたやこれは一本とられた!と思ったのは「Bicycle Race」。登場人物ポップのバーからリヴィング・ロックへ向かうのに歩きでは無理だ、すると途端に背後の洗脳済みボヘミアンたちがBicycle, bicycle.と冒頭のフレーズだけコーラスを合わせて、観ているこちらは一瞬あっけにとられ、次の瞬間爆笑。爆笑と言えばFreddie以外のQueenのメンバーが処刑されるときのエピソード、毛深いBrianが最後にギターソロを弾くことを認められて3日半長く生き延びたという説明が大ウケ。彼の得意技である、エコーを使った一人ギターオーケストレーションのソロを知っているファンは、確かにBrianなら3日半ギターソロを弾き続けるのも可能かもしれない、と思いながら笑ったのです。

最後はお約束通り、楽器がなくても歌える歌「We Will Rock You」で会場がひとつになって伝説のギターが蘇り、なぜか洗脳されたはずのボヘミアンたちや敵のキラー・クイーン、カショーギ署長も一緒に踊って大団円。「We Are The Champions」で合唱になって、さらに「Bohemian Rhapsody」ではあの本家Queenもライブでは実演不能だったオペラパートのフルコーラスをしっかり再現!これは本日のハイライトと言えそうです。最後の最後に「I Was Born To Love You」が歌われましたが、これは日本向けのサービスでしょう。

で、楽しかったか?と聞かれれば素直に「楽しかった!」と答えます。隣に座った見知らぬ女の子が凄くノリのいい人で、セリフに大笑いしたり歌を歌ったり奇声を発したり、それが周囲に伝染してみんなノリノリになっていったのもよかったかな。しかし、これがFreddieが残した楽曲たちへの正当な扱いかと言えば、ちょっと待ってくれよといいたくなるのも事実。いや、FreddieとJorge Donnの二人の夭逝の天才へのオマージュを見事に視覚化したベジャールの仕事と比べるのは所詮無理な話なのでしょうから、シンプルにQueenの曲を楽しむためのショウと最初から割り切ってきっちりスイッチを切り替えておけば、これはこれでよき3時間になることと思います。