蛇よ!

2005/03/13

青山スパイラルホールで、松尾スズキ作・演出、大竹しのぶ×松尾スズキの「蛇よ!」を観ました。この芝居(?)は一風変わった構成で、舞台劇と映画が交互に上演され、双方を同じ俳優が演じるもので、サイレント全盛時(大正時代)に流行した「連鎖劇」というスタイルなのだそうです。演目は、下記の通り。

1.「初めてのSM」 2.映画「出しっぱなしの女」#1
3.「突起物の女」 4.映画「出しっぱなしの女」#2
5.「これからの人」 6.映画「出しっぱなしの女」#3
7.「刺したね」  

比較的小さなホールの奥に舞台、客席には後方に鉄パイプでスタンドが組んであって椅子はパイプ椅子。開場時刻になって中に入ると、一緒にいた観劇仲間うっちゃまん女史が袖を引いて「平井堅がいた!」と喜んでいます。目敏いなぁと感心しながら中央の通路を後方へ進むと、私も通路脇の席に坐っている帽子を目深にかぶった女の子の姿に目が止まりました。自分たちの席についてからうっちゃまん女史に「あの娘、鈴木杏だと思う」と言うと、うっちゃまん女史も「私もそう思った」と言うから、たぶん間違いないでしょう。大竹しのぶと鈴木杏は「奇跡の人」で共演した仲なのに、ちゃんと(?)一般席で観るんですね。

暗転して最初の芝居「初めてのSM」、これがのっけから抱腹絶倒でした。母親が経営している会社のお金を横領したピアノ調律師(松尾スズキ)が湿地帯に囲まれた田舎のラブホテルで、最後に残った4万円でSM嬢を呼ぶのですが、沼を渡ってやってきたSM嬢(大竹しのぶ)はゴム製のオーバーオールを泥だらけにした42歳のおばさん(娘の代打で、さらに孫もいることが後でわかります)で、最初はチェンジしてくれよ!と怒髪天だった男も、北関東風のきついなまりでコウモリを手なずけたりちりめんじゃこの行商をしたり(SもMも、Lもあります)、いつの間にか黒いドレス姿に変身して備え付けのカラオケでご当地ソングの練習をしたり(これが凄い美声!)と天衣無縫系の女の独特のペースにすっかり巻き込まれてしまいます。

「突起物の女」は、心療内科の医師と、彼を訪ねてきたド派手な舞台女優の患者のコント。最初は女優が、無駄な時間を使わせたと医師に思われたくないという強迫観念にかられながら正統な病人を演じようとしていて、しかし仕事でも演技がうまくいかないとアンケートに『金返せ!』って書かれるんですと泣くところが虚実の境目がなくなって妙におかしかったのですが、女優の頭の巨大なヘアピースの下から角が、さらにその下から中学生の下半身が逆さに突き立って出たところから、このシュールなシチュエーションが女優自身の病ではなく、医師の妄想の産物であることがわかってきます。ここから医師の回想に入り、ゲイであることを告白する転校生(大竹しのぶ)を地獄の穴にはめ込んだまま置き去りにした若かりし頃の医師の過去が明かされます。そして診察室で再会した医師と女優。助けて下さいと泣き崩れる女優を優しく受け止め、一緒にゴミ箱を覗き込むラストがかなり泣かせます。

「これからの人」は、アイデアが秀逸。なにしろ、松尾スズキも大竹しのぶも卵子を目指す精子の役。ぴっちりした白い衣裳を着て、頭の上には精子のしっぽが伸びていて、松尾スズキの方は生まれる前から既に世を拗ねたような精子、大竹しのぶは受胎レースに勝って無事に生まれでたら歌手になってディナーショーをやりたいと夢を語る(!)子供っぽい精子です。結局偶然のいたずらで松尾スズキの方が受胎してしまうのですが、彼の前で大竹しのぶが演じるのが突如声色が変わって元スターの風格漂う歌手で、舞台上から客席を見下してみせた後、突如客席に降りてきて「あなたどこから?」。女性客の「中野です」の回答にしばらく詰まってから、「いいわね、ブドウがたくさんとれて」とやって松尾スズキに「どんな中野だよ!」と突っ込まれ、大爆笑。そしてこんなディナーショーをやってみたかったんですぅと唐突に元の少女系キャラに戻るところが、まさに変幻自在。

最後の「刺したね」は、20年間ひきこもりをしていた男が、やっと外に出たその日に偶然出会った女に何の脈絡もなく刺されてしまうという、ちょっとかわいそうな話。そして、これらの間に入るモノクロ映画「出しっぱなしの女」も、相当にヘンです。水道局の男・ヤマザキ(松尾スズキ)は、蛇口から水を出しっぱなしにして水道料金を払おうとしない姐御風の女(大竹しのぶ)のもとへ、決死の覚悟で料金回収に向かいます。彼を見送る天真爛漫な彼女(やはり大竹しのぶ)、道の途中で出会う老婆(これも大竹しのぶ)、老婆が渡してくれた眼鏡によって存在が明らかになる守護霊たちの異様な風体もさることながら、ワケのわからないタイミングで「つづく」とやられてずっこける摩訶不思議なノリが、それだけで笑わせます。

松尾スズキの言によれば、全体を通して“何かになりたかった人”“何かになれなかった人”が描かれているのですが、そこに医師と患者の関係の反転、男を刺した女の不幸といった構図のゆらぎが重なり、さらに大竹しのぶのありとあらゆる人格(職業意識の希薄な中年SM嬢 / 落ち着きを失った舞台女優 / ゲイを爽やかに告白する男子中学生 / 夢見る純真無垢な精子 / 怒りと恐れに震えるOL / 蛇口の締め方を知らない姐御)を瞬時に演じ分ける演技術のおかげで、シュールさとリアリティ、おかしさと切なさを一度に味わうことができます。それにしても、大竹しのぶのコメディセンスの素晴らしさに、完全にノックアウト。かつてNODA・MAPで観た存在感溢れる女優ぶりも素晴らしかったのですが、この日の大竹しのぶにはまた違った魅力を感じて、なんだか嬉しく感じました。そして、最後に舞台上で挨拶する大竹しのぶは、はにかんだように松尾スズキと互いにお辞儀をして、客席にも小さく手を振って下手へ消えていくのが、とてもかわいかったのです。

キャスト

大竹しのぶ
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松尾スズキ