猿若江戸の初櫓 / 俊寛 / 一條大蔵譚

2005/03/12

中村勘九郎改め勘三郎襲名披露公演の最初の月。しかし、不粋な客のせいで台無しになってしまった、残念な昼の部でした。

猿若江戸の初櫓

中に入ると襲名披露らしい華やいだ雰囲気が漂っているのは、定式幕がいつもの黒・柿・萌葱ではなく、黒・白・柿の中村屋の幕になっているからでしょうか。その雰囲気のままに、最初の「猿若江戸の初櫓」は勘太郎丈の猿若が明るく賑々しく猿若舞を踊りながら、初代中村勘三郎の江戸下りと中村座(猿若座)創設縁起を見せてくれて、場内がほっとなごみます。

俊寛

幸四郎丈による正攻法の役作りと、段四郎丈の瀬尾、梅玉丈の丹左衛門ががっぷり組んだ感じで好印象でした。そしてクライマックス、船を見送る俊寛を襲う一瞬の狂乱の後に、取り残された俊寛が岩の上で呆然とする肝心要の場面で、あろうことか携帯電話の呼び出し音が場内に響き渡り……。役者と客席が共同作業で作り上げてきた1時間あまりの緊張が、最後の瞬間に不注意な客のせいで無に帰してしまったのが、悔やんでも悔やみきれません。

口上

気を取り直して「口上」は、舞台上に居並んだ役者達のコメントがそれぞれにユーモラス。幸四郎丈の朗々と先代との所縁を語る口上も立派でしたが、その後に笑えるエピソードが次々に披露されたのは勘三郎丈の人柄のなせるわざなのでしょうか。左團次丈は、勘三郎丈と前後に並んで舞台上に正座しているときに放屁してしまい、こっそり「ノリちゃん、ごめんね」(勘三郎丈の本名は「波野哲明」)と言って勘三郎丈が笑いをこらえるのに必死になってしまった話、玉三郎丈はかつて勘九郎丈が「自分は勘三郎を継がない」と言っていたのに襲名することになったと聞かされて「数が六つも減っちゃうじゃないの」と意地悪を言ったらぐっと詰まって、「でも同じ三郎になるからいいでしょう?」と言い訳された話。そして仁左衛門丈は、ぬけぬけと「勘三郎襲名を一番喜んでいるのは私」と言ったものだから隣の玉三郎丈にギヌロと睨まれて後はしどろもどろ。

しかし、このとき私が坐っている三階席の両端に、中村屋の法被を着て立つ怪しい男達の姿が気になりました。何だ、コイツらは?と不審に思いましたが、その謎はすぐに解けました。木戸御免の特権を持つ「大向うさん」、「中村屋!」「十八代目!」などと掛け声を掛ける専門職です。それにしても、はっきり言って超ウザい。もちろん歌舞伎に掛け声はなくてはならないものだし、タイミングよく決まればこれほど場面を盛り上げるものもないのですが、私の近くに立っているこの大向こうさんは、タイミングこそ申し分ないものの、いかんせん声質・抑揚に洗練がなくただ声を張り上げているだけで、野暮の骨頂。よほど「へたくそ!ヤメろ!」と声を掛けようかと思ったほどです。

一條大蔵譚

このウザい大向うさんは、続く「一條大蔵譚」でも蛮声を張り上げてこちらの神経を逆撫でしてくれました。肝心の舞台の方は、勘三郎丈の作り阿呆ぶりがなんとも楽しく、ちょっと冗長には感じたものの仁左衛門丈・玉三郎丈コンビが吉岡鬼次郎・お京夫婦を演じるごちそうもあり、ぶっかえりの鮮やかさも美しかったのですが……。

終演後出口に立っていた歌舞伎座の職員に聞いてみたら、やはり今月の公演は大向うさんの数が多いとのこと。まぁ襲名披露公演というのは大向うさんたち(組織化されている人もいる)にとっても晴れ舞台なのでしょうが、せめて一般観客の耳障りにならないようにやってもらいたいものです。

配役

猿若江戸の初櫓 猿若 中村勘太郎
奉行板倉勝重 中村扇雀
福富屋女房ふく 市川高麗蔵
福富屋万兵衛 坂東弥十郎
出雲の阿国 中村福助
 
俊寛 俊寛僧都 松本幸四郎
丹波少将成経 片岡秀太郎
海女千鳥 中村魁春
平判官康頼 中村東蔵
瀬尾太郎兼康 市川段四郎
丹左衛門尉基康 中村梅玉
 
一條大蔵譚 一條大蔵卿 中村勘三郎
吉岡鬼次郎 片岡仁左衛門
お京 坂東玉三郎
鳴瀬 小山三
八剣勘解由 中村源左衛門
常盤御前 中村雀右衛門

あらすじ

猿若江戸の初櫓

江戸時代の初め。京から江戸に、出雲の阿国とともに道化役の猿若がやってくる。奉行の板倉四郎左衛門に気に入られた猿若は、日本橋中橋に猿若座の櫓をあげることを許され、喜んで阿国と共に猿若舞を舞う。

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