唐辛子なあいつはダンプカー!(竹中直人の匙かげん)

2004/12/24

下北沢の本多劇場は長年、いつかは行ってみたい劇場のひとつでした。ここに竹中直人の芝居がかかり、木村佳乃が共演するというので検索してみたところ、ほとんどの日程が埋まっているのになぜかクリスマス・イブの24日だけは席が空いていたのでチケットをゲット。竹中直人は、「竹中直人の会」と称して10年間にわたり岩松了の書き下ろし作品を上演してきたのですが、今回は「竹中直人の匙かげん」と改めて、脚本もケラリーノ・サンドロヴィッチ / 松尾スズキ / 宮沢章夫の合作ということになっています(構成:宮沢章夫 / 演出・構成:竹中直人)。この芝居、実のところ事前にWebでサーチしてみると芳しくない評判(というより酷評)ばかりだったので不安におののきながら足を運んでいたのですが、終わってみれば自分としては楽しめる部分もあって、満足感はそれなりにありました。

当日、風邪をひいて絶不調の中、下北沢の駅で降りて道をぐるっと回ると本多劇場の階段。中に入ると壁面にはあまたの芸能関係者から竹中直人や木村佳乃に贈られた花がきつい香りをまき散らしながら飾られていて、一種異様な雰囲気です。劇場内は中規模のキャパシティで、私の席は入口から舞台に平行に走る通路のすぐ上の右端。

開演5分前になんとも意味不明の脱力系アナウンスがあって、やがて暗くなると舞台下手から漫画家・丸尾コンチョーメイ(大堀こういち)が現れて、一応これが狂言回しということになっています。イントロにあたる戦国時代に登場したサガラ彦一(竹中直人)が、助けた唐辛子(竹中直人の腹話術がヘタウマ)のおかげで得られた妹・さがら空絵(木村佳乃)と生き別れになり、時代を超えた、マッドドクター系の怪しいオーナー・ガマカツ棟三郎(緋田康人)が経営するクラブや、大津波で全ての記憶が滅び去ったさらに13年後の世界ですれ違いを演じるというストーリーが漫画の中のお話で、これに対してイントロ直後といちばん最後に出てくる「クイズそっちの方がスゲェー!」が、漫画家自身もゲストとして参加しているリアルの世界。そして最後のクイズショーが終わった後に、スタジオに寂しく残された落ち目のタレント司会者・ショスタコビッチ三郎太(竹中直人)と、クイズ回答者としてやってきていたエッセイスト・逆手川常子(木村佳乃)の間に、兄妹としての記憶の断片がかすかに甦るところで終わります。

……というのが大筋のストーリーなのですが、大半は登場人物の断片的な絡みと生バンド(MEN'S 5)の演奏・登場人物による歌の繰り返しで、これを芝居と言っていいのかどうかすこぶる疑問。登場人物の造形は竹中直人を除くと分裂症気味で彫りが粗い感じだし、妖怪ぬらすまし(井口昇)やミネラル香津代(石川真希)の存在が意味不明。ケラリーノ・サンドロヴィッチのコメントによれば、竹中直人は今回、とにかくデタラメなことをしたかったのだそうですが、結果としては竹中直人の個人技だけが突出する舞台となった感じです。非常に間の悪いやりとりが多いのは、脚本の手入れがまずいのか出演者のアドリブのための余白だったのか、いずれにせよエスキースの段階のまま本公演に突入してしまったのではないかと思える部分も少なくなく、正直居心地の悪さを感じました。

しかし、そんな中でもはっとさせられたのは、たとえば全ての記憶があいまいになってしまった世界でのエピソード。少年の姿をした木村佳乃を前にして、恐らく教師であったろうという記憶をよすがに生きている竹中直人が授業らしきものを始めるのですが、とあるお話を進めていくうちに自分の存在の頼りなさに打ちのめされて、「これは……授業なんだろうか」とくずおれる場面。全編を通じて一番感動させられた箇所でした。

かたや、最後にクイズショーの後で竹中直人と木村佳乃がふと見つめ合うシリアスな場面。しんみり引き込まれていたら、ふと落ちていたマイクを拾った逆手川常子が突如「あ〜掻いて掻いて、背中を掻いて」と憑依しかけて、ショスタコビッチ三郎太がマイクをとりあげ「大変なことになるところだった!」と慌てるのが大ウケ。このショスタコビッチ三郎太の「そっちの方がスゲェー!!」や、途中で出てくるナン男などは、10年程前にTV放送されていたバラエティ番組「恋のバカンス」でのネタ(本家は「ショスタコビッチ一郎太」)なので、それを知っていて観るのとそうでないのとでは、笑いの深さが違ったかもしれません。

バニーガール・今からくる世を演じた佐藤康恵は、凄いプロポーションの良さでびっくり。すらっと背が高くて手足がほっそりと長く、キュートな顔はあくまで小さく、しかしバストのふくらみは十二分に魅惑的で、男性客の視線は釘付け(どこに?)。そして、なんと言っても木村佳乃さん♩美人だとは思っていたけれど、実際に見てこんなにきれいな人だとは、想像以上でした。最初に登場する戦国時代の娘(「ズにいさ〜ん!」「ズいもうと〜」という竹中直人とのやりとりが爆笑)、クイズショーのゲスト回答者、クラブに雇われたショーガール、記憶を失った時代で飼い猫を探す少年(相撲の張り手をくらって「いて〜っ!」と叫ぶのが面白かわいそう)と4つの役柄を演じたのですが、そのどれをとっても彼女の清純さがオーラのように輝いていて、最後の全員での歌の場面での素の明るい笑顔にも惚れ直してしまいました。それに、この濃いメンバーたちの中に彼女のような「○○○○に鶴」系がいなかったとしたら、2時間がかりのただの混沌で終わっていたと思います。なお、自分的にはMEN'S 5のタイトな演奏も評価高し。クイズショーのテーマ曲の「スゲェー!スゲェー!!そっちの方がスゲェー!!」というフレーズは耳について離れないでしょうし、木村佳乃が微妙にこぶしをきかせる「ウマナミナノネー」も彼女のまじめな歌いぶりと思わせぶりな歌詞のギャップが強烈。そして随所に登場する聞き慣れたフレーズ(オペラ座の怪人や、Keith Emersonの「Rondo」っぽいオルガン、Ritchie Blackmoreの「Highway Star」なギターソロ、Freddy Mercuryのピアノなど)に思わずニヤリ。

カーテンコール時に、今日はクリスマスイブだからということで抽選でプレゼント。私の3列程前中央寄りに坐っていた男性が当選し、舞台上に上がってプレゼントをもらって、出演者全員と握手を交わしていました。芝居の印象がそれなりによかったのは、もしかすると最後にこのフレンドリーなイベントがあったからかな?

キャスト

サガラ彦一 竹中直人
さがら空絵 木村佳乃
今からくる世 佐藤康恵
ガマカツ棟三郎 緋田康人
島悦次郎 大堀こういち
妖怪ぬらすまし 井口昇
よもすが要 矢沢孝治
はりさけ富永 坂田聡
ミネラル香津代 石川真希
 
ジ・アリューシャンズ MEN'S 5