中国国宝展

2004/10/30

この週末は今年最後の沢登りに行くはずでしたが、今年の夏〜秋のお約束どおり週末になると降る雨のせいで、その計画はあえなくおじゃん。仕方なく、先日の「大兵馬俑展」に続いて今度は「中国国宝展」を上野の東京国立博物館へ観に行きました。この展覧会では、大まかに言って中国の「考古学上の新発見」コーナーと「仏教美術」コーナーのふたつがあって、それらがシームレスにつながっているため、あらかじめ展覧会のコンセプトを理解してから入場しないと心理的に迷子になってしまう恐れがあります。

最初は新石器時代後期の出土品から始まるのですが、並んでいるのは石器ではなくて玉の加工品。とりわけ、まるでリング状の蛍光灯のような石英製腕輪は乳白色の表面がすべすべになるほど磨かれており、金属製の道具がない時代にどうやってここまで仕上げたのか不思議。玉匙も同様に緩やかなカーブを描く凹み部の滑らかさが見事ですが、説明文に何事もないように「前3500年頃」と書いてあって仰天してしまいます。紀元前3500年となればシュメールの都市国家が成立したあたりだし、エジプトの古王国の成立よりも古いことになりますが、この高度な加工技術が今から5500年前のものとはとても信じられません。

展示は続いて商(殷)=紀元前16-15世紀の出土品に移り、ばかでかい銅製の鼎(てい:祭礼用の肉を煮る器)や鉞(えつ:大型の斧)やらが展示されています。4本の足をもつ方鼎は重さが86kgもあるでかいもので、確かに一度にたくさんの肉を煮ることができたでしょうが、こんなもので煮た肉は食べる気がしません。それは酒を蓄える壷である方尊と杓の組み合わせを見ても思うことなのですが、もっとも、今は緑青を吹いて汚いからそう思うので、当時は金色にぴかぴか輝いていたでしょうから印象が違うかもしれません。しかし、それにしても他の銅器にも共通するのが表面を覆う丸みを帯びた四角の渦巻模様で、この模様に覆われた古代中国の銅器に私は昔から禍々しい呪力を感じてしまい、どうも好きになれません。

時代は商から周、春秋・戦国と下り、前4世紀の木彫りに漆を塗った高杯である豆(とう)が並びますが、なかに本当に「豆」という字そのままの形をしているのがあって、漢字の持つ象形性がはっきりわかります。そしてやはり戦国時代の銅製の透彫香炉が素晴らしい出来映えで、台座は獣・鳥・人の透彫、細い柱の上に浮いているひしゃげた球形の炉は蛇が絡み合って網目状になった透彫、てっぺんには口に環をくわえた水鳥がついており、商の方鼎の鈍重さと対極にあるようなスマートさです。

秦代では、先日の「大兵馬俑展」で観たのと同様の文官俑や雑技俑のほか、口にドジョウのようなものを加えて長い首をもたげようとしている銅製の鶴の像の写実性に驚きます。そしてどーんと迫力ある姿で横たわっているのが前漢時代の金縷玉衣、つまり4000枚あまりの明るい色の玉片を金の針金でつなぎ合わせた衣裳で、一瞬パレンケの翡翠のマスクを連想しましたが、これは江蘇省の楚王陵から出土したもの。頭のてっぺんからつまさきまでを覆うつくりになっており、目のところなどには丸い玉片があてられていますが、全ての玉片がほとんど隙間なくぴっちりとつながっています。ほかにも玉製品が多々あって、おなじみ玉璧や玉佩、それに飲み物などを入れる円筒形の容器である玉巵(ぎょくし)があって、こちらはこれでお茶を飲んだらおいしいだろうな、と思わせられます。

続くコーナーは仏教美術。中国への仏教伝来は紀元前後で、したがって後漢がスタートラインになり、北宋までの仏教美術品の数々が展示されているのですが、このあたりから館内放送で閉館まであまり時間がないことが告げられるようになり、やむなく駆け足でひとわたり眺めるだけとなってしまいました。

それでも、北魏の石灰岩製の如来三尊立像は、高さ2mを超える重厚な光背の前にすずやかな三尊がすっくと立ち、光背表面には龍、化仏、華麗な飛天が隙間なく浮彫にされていて美しかったし、東魏時代の菩薩立像は穏やかな顔立ちと身にまとう装飾品、足下の大胆にデフォルメされた蓮が精緻な彫りの細かさによって写実的でありながら幻想的で、赤みを帯びた石の色とあいまってなんとも不思議な魅力がありました。そして、唐の大理石製天王立像がまた素晴らしく、頭部・左腕を失った姿ではありますが、見事な肉体の存在感やその身体を覆う武将の装飾的な鎧と華麗な玉帯、ぐっと踏みしめた大地との組み合わせなど、地中海世界の大理石像と十分に対抗できる力強さがあります。

前半を普通に観て1時間、館内アナウンスに急かされて後半駆け足で観て30分。そんなにたっているという実感がなくあっという間の、しかしなかなか充実した1時間半でした。

ところで、最後の方に10-11世紀のとてもきれいな観音菩薩坐像があって、右足を台座に片膝たて、その上に右腕を乗せて寛いだ様子。優美にしなった指などが妙にセクシーでつい見とれていたら、通りかかったヤンキーっぽい女の子がこの坐像に一瞥をくれて一言「態度でかい。」(!)。うーん、凄い感性というか、世も末というか、あまりと言えばあまりな論評(?)に呆れてしまいました。しかしこの子、けっこう大物になるかもしれません。