Era + David Cross / 佐藤芳明

2004/08/19

Eraというのは壷井彰久氏(Violin)と鬼怒無月氏(Guitar)のデュオなのですが、その存在は知る人は知る、知らない人は知らないわけで、申し訳ありませんが私は後者に属していました。しかし、POSEIDONからのお知らせメールで突如David Crossのライブがアナウンスされ、このEraのライブにもゲスト出演するとのこと。残念なことにDavid Crossのソロライブには仕事の都合で行くことができず、したがって翌日のEraのライブを(会場が会社に比較的近く、開始時刻も遅かったので)観に行くことにしました。

私が中学生のとき以来のKing Crimsonのファンであることは、このホームページで随所に明かしている公然の秘密ですが、とりわけ『太陽と戦慄』『暗黒の世界』期のCrimsonが最高です。特にライブで演奏される「Exiles」でのJohn Wettonのベースラインとヴォーカルは感涙もので、この1曲でその後の30年間の音楽的嗜好が決定づけられてしまったくらい。そして、David Crossはこの時期のKing Crimsonのヴァイオリニストで、陰陽の起伏が際立つKing Crimsonの楽曲の中でもとりわけ叙情的なメロディラインを供給し、ライブではメロトロンやエレクトリックピアノも弾きこなす繊細な才人という感じでした。ただ、それだけにKing Crimsonの楽曲が極限までの緊張を強いるインプロヴィゼーションに傾斜しつつ、徐々にメタリックな要素を強めていくにつれて、彼の音楽性やヴァイオリンという楽器の限界がステージ上での彼の位置を失わせていったようです。

King Crimson後のDavid Crossの活動は久しく聞いていなかったのですが、いつだったか下北沢のバーRevolverでfruuppさんに彼のソロ作品に収録された「Exiles」(ヴォーカルはゲストでJohn Wetton)を聴かせてもらって「へー、ずっと頑張っているんだ」と認識を改めたのもつかの間、時は流れて私にとってのDavid Crossの存在は再びライブ盤『The Night Watch』の中へと回帰しはじめていたところへの今回のライブの通知だったのですから、仰天したのなんの。

当日、19時に仕事を切り上げてそそくさと会社を出、会場の新宿PIT INNへ。こじんまりした地下会場には、開場時刻の19時半の時点では30人弱の聴衆がアルコール片手に今後のライブ予定を知らせるチラシ類に見入っていましたが、開演時刻にはその数は50名くらいまで増えていたようです。10分遅れで左横の控え室からステージに上がったEraの二人から、今日は二人に加えて後半はアコーディオンの佐藤芳明氏を加えたセッションであること、また3曲デュオで演奏した後にDavid Crossが登場して2曲インプロヴィゼーションを演奏することが告げられて、ようやく演奏開始。ギターはアコースティック、ヴァイオリンは赤いエレクトリック5弦で、最初の曲は6/8のポリリズムっぽいリフレインを基調に、ヴァイオリンが激しいフィンガリングとボウイングのソロで度肝を抜く曲。おー、なかなかいいじゃないですか。この後のMCでヴァイオリンの壷井氏が「今日は盛り沢山なゲストで……」

鬼怒「(二人しかいなんだから)盛り沢山ってことはないだろ?」
壷井「だってゲストがメンバーと同じ数いますからね」
聴衆「……」

次の曲は叙情的なイントロから途中でヴァイオリンが忙しく足元を操作しているなと思ったらデジタルリヴァーブ(?)で低音の緩やかなリフのループを作り、その上にギターと高音のヴァイオリンが重なるという仕掛け。3曲目もアルペジオとピチカートにエコーをきかせたスペーシーなイントロからヴァイオリンが長周期のエコーを利用した一人多重。その後に弓の毛が切れるほどの激しいヴァイオリンソロから、ギターがミュート気味のピッキングハーモニクスを効かせたエスニックな音階のソロ、と聴き所盛り沢山の曲です。

さて、いよいよお目当てのDavid Cross登場!と思ったら、彼は開演前から会場横の控え室を出たり入ったりうろうろしていた白人その人でした。黒いすらっとしたズボンに黒いシャツ、黒い野球帽で髪はさっぱりと短く、なんだかケビン・コスナーみたいな風貌は写真で見慣れた30年前の顔とはずいぶん印象が違います。それでも壷井氏は「本物(のDavid Cross)だ……」。手にしているのはZETAの黒い5弦で、ネックの低音側にはフレットが打たれています。手元でチューニングを整えたり足元のエフェクトボードを操作しながら「チョット待ッテ下サイ」などと意外に達者な日本語を使い、準備が整ったところで演奏開始。ギターのリフの上に2本のヴァイオリンが交互に緩やかなソロをとる曲で、これというはっきりしたメロディを聴かせるわけではなく、エコーやワウなどのエフェクターを駆使して多彩な音色の面白さを聴かせてくれました。

続いてアコーディオンの佐藤氏が入り、4人での即興となるのですが、決してMCがうまいとはいえない(というか、MCをやる気がない)Eraのメンバーのせいで間の悪い空気が漂うと、すかさずDavid Crossは野球帽のつばを後ろに回してみせて、そんな小さな仕種だけで場をなごませてくれました。彼がこんなユーモアセンスを持ち合わせた人物だとは知らなかったのですが、それにしても、もし30年前に今の彼が手にしている楽器があれば、King Crimsonのあの破壊的なパワーとテクニックのリズムセクション(John Wetton / Bill Bruford)とも互角にわたりあえていたかもしれないのに、と私はひそかに涙を拭いました(嘘)。それはともかく、謙虚な4人がお互いに「どうぞお先に」「どうぞ」「ドーゾ」と譲り合いをしたあげく、おもむろに始まった曲はイントロがKing Crimsonの「Exiles」イントロの低音リフを思い起こさせるような雰囲気、その後にアブストラクトでノイジーなインプロヴィゼーション。

2曲が終わった後に、David Crossは鬼怒氏からマイクを受け取って「どうもありがとう。日本でプレイするのは今回が初めてでしたが、今日は皆さんの前で素晴らしいミュージシャンと共に素晴らしいインプロヴィゼーションを演奏できてとても嬉しかった」という趣旨の、とても聴き取りやすい英語での挨拶をしてくれました。

ここで休憩。David Crossはいったん控え室に姿を消していましたが、しばらくしてヴァイオリンケースを抱えて出てくると会場後方で穏やかな笑みを浮かべつつ関係者と談笑していました。Mr.Cross、私はこの30年間ずっと、あなたとあなたのKing Crimsonでのプレイのファンだったんです、今日は我々のために演奏してくれてありがとう、という言葉をかけて握手を求めようと思いましたが、この会場には他にKing Crimsonファンはいないのかサイン攻めにあうこともなく静かに演奏の余韻を楽しんでいる彼の姿に何となく近寄ることをためらっているうちに、いつの間にか彼は会場を後にしていて、取り残された私は大切な瞬間を逃してしまったようでひどくがっかりしてしまいました。

この後の第二部はヴァイオリン、ギター、アコーディオンの3人による演奏で、Eraの曲やボスニアのトラッド(「Grana Od Bora」)が23時頃まで披露され、いずれも素晴らしい演奏でしたが、もはや詳述は不要でしょう。

ミュージシャン

壷井彰久 Violin
鬼怒無月 Guitar
guest - 佐藤芳明 Acordion
guest - David Cross Violin

セットリスト

  1. TONO
  2. Dizzy Blank
  3. New Era Has Come
  4. Improvisation1
  5. Improvisation2
    -
  6. I Was A Teenage Warewolf
  7. Chute!
  8. Grana Od Bora
  9. Under The Red Ground
  10. Haf
    -
  11. Bob