四季三葉草 / 暫 / 紅葉狩 / 伊勢音頭 / 白石噺 / 勧進帳 / 魚屋宗五郎

2004/05/09

今年の歌舞伎界最大のイベント、市川海老蔵襲名披露。5月の歌舞伎座は幕見席ではなく、昼夜通しでしっかり予約をとって臨みました。歌舞伎座はとても華やいだ雰囲気で、緞帳には巨大な海老の姿、売店で売っているのは海老せんべい。

昼の部は、清元の軽やかな言祝ぎの舞踊「四季三葉草」に続いて、歌舞伎十八番、荒事中の荒事「暫」。主役の鎌倉権五郎はもちろん海老蔵丈。ちょうど1年前に父の團十郎丈が手本を示しているから勉強十分でしょう。その期待にたがわず、花道のツラネも三津五郎丈や時蔵丈、そしてウケの重鎮・富十郎丈とのかけあいも見事にはまり、見た目も声質もスケールの大きな海老蔵丈は、まさに鎌倉権五郎のイメージそのままです。

紅葉狩

菊五郎丈の更級姫が最初のうちはちょっと不気味でしたが、舞の中で見せる二枚扇の妙技はさすがで、さらに戸隠山の鬼女の本性を表すと一気に舞台上を支配してしまいます。梅玉丈の維茂も気品と武勇とがいい塩梅でよかったし、亀蔵丈の腰元・岩橋も不気味に面白く、従者二人の舞も楽しかったのですが、何と言っても菊之助丈の山神が、白と緑の鮮やかな衣に賑やかな神楽踊りで目が覚めるようでした。

伊勢音頭恋寝刃

油屋 / 奥庭の一幕二場。芝翫丈の仲居万野の憎々しさが絶品で、團十郎丈の貢同様、見ているこちらもだんだん腹が立ってきます。それだけに貢が半ば偶然に妖刀・青江下坂で万野を傷つけてしまい、そこから憑かれたように人斬りを重ねる場面では、もっと凄みというか開き直りのようなものを見せてこちらの溜飲を下げてほしいと思いました。純だが道化のお鹿は久しぶりの田之助丈、やっぱりいい味。膝は相変わらず具合が悪そうなのが気がかりです。侠気ある料理人、喜助が海老蔵丈ですが、もうちょっと軽い方がよかったかも。

碁太平記白石噺

夜の部は、「碁太平記白石噺」の新吉原揚屋の場から。時蔵丈の宮城野の花魁言葉と菊之助丈の信夫の奥州弁のやりとりが絶妙で、特に菊之助丈は、先程の山神と通じる緑の着物姿で田舎娘を生き生きと演じていました。

口上

菊五郎丈が「私もAB型のエビ様」、左團次丈が「これからも(国を問わず)御婦人方とおつきあいを」とやって大ウケでしたが、成田屋の襲名披露と言えばなんと言っても「にらみ」。静まり返った場内、左手に高く三方、右手は胸の前に印を結び、右足を前へ出して気合もろともにらみを見せる海老蔵丈に、次の瞬間満場の拍手が雷鳴のように轟きました。

勧進帳

これもまた成田屋の最重要課目で、しかもこの演目で團十郎丈と海老蔵丈が競演するのは152年振りなのだそうですが、これは私が見る限りかなり厳しいものでした。富樫左衛門を演じた海老蔵丈は台詞回しにも所作にも非の打ち所はないのですが、一番の見所である團十郎丈の弁慶との山伏問答は、海老蔵丈が演技を大きくすればするほど團十郎丈にはね返される感じで、結局富樫が弁慶に圧倒されたという構図になってしまいました。さすが團十郎丈の貫禄というところなのでしょうが、父が息子を舞台上で圧倒するという場面に遭遇して、歌舞伎役者の世界の厳しさを目の当たりに見せつけられた感じです。

……と思っていたら、なんと翌日から團十郎丈が体調不良のため休演。昼の部は梅玉丈が、夜の部は三津五郎丈が代わりを務めることになりました。「急性前骨髄球性白血病」ということで、7月まで続く襲名披露興行は全休ということになるのだそうです。

魚屋宗五郎

三津五郎丈の宗五郎が、酒が入るにつれて目がすわり人格が変わっていくプロセスが強烈に面白く、三津五郎丈の達者な芸を存分に堪能しました。しかしお話自体はずいぶんご都合主義で、宗五郎の妹お蔦を手討ちにした殿様が、酔いが覚めた宗五郎に詫びて以後の生活保障を約束すると宗五郎は胸の支えがとれて感謝するというのだからひどい話です。そのリアリティのない殿様役が海老蔵丈で、せっかくの襲名披露になにもこういう役をもってこなくてもという気がしたのですが……。

配役

四季三葉草 中村梅玉
三番叟 尾上松緑
千歳 中村芝雀
 
鎌倉権五郎 市川海老蔵
加茂義綱 中村芝翫
那須妹照葉 中村時蔵
鹿島震斎 坂東三津五郎
茶後見 市川段四郎
局常盤木 中村東蔵
成田五郎 市川左團次
清原武衡 中村富十郎
桂の前 中村芝雀
 
紅葉狩 更科姫実は戸隠山の鬼女 尾上菊五郎
山神 尾上菊之助
平維茂 中村梅玉
 
伊勢音頭 福岡貢 市川團十郎
料理人喜助 市川海老蔵
お紺 中村魁春
お鹿 澤村田之助
仲居万野 中村芝翫
 
白石噺 宮城野 中村時蔵
信夫 尾上菊之助
大黒屋惣六 中村富十郎
 
勧進帳 富樫左衛門 市川海老蔵
源義経 尾上菊五郎
武蔵坊弁慶 市川團十郎
 
魚屋宗五郎 魚屋宗五郎 坂東三津五郎
磯部主計之助 市川海老蔵
小奴三吉 尾上松緑
召使おなぎ 尾上菊之助
女房おはま 中村芝雀
浦戸十左衛門 坂東彦三郎

あらすじ

暫 → [こちら

紅葉狩 → [こちら

伊勢音頭

福岡貢は伊勢の御師。主筋にあたる今田万次郎の探す名刀青江下坂の折紙の行方を尋ねて奔走している。古市の遊廓油屋の座敷で、恋人お紺に折紙を手に入れるための偽りの愛想づかしをされて、お紺の本心を知らない貢は逆上。手にした妖刀で、次々に人を殺してしまう。

白石噺

新吉原の大黒屋の遊女宮城野。廓の主人惣六に助けられた娘は、子供の時別れた妹信夫だった。父の敵を討つために奥州から江戸へ出てきた妹の話を聞き、宮城野も敵討ちの決意を固める。そんな姉妹を、惣六は曽我兄弟の敵討の噺になぞらえて時節を待つよう諭し、二人の年季証文を渡してやる。

勧進帳 → [こちら

魚屋宗五郎

魚屋宗五郎は、磯部主計之助の屋敷に妾奉公に出た妹のお蔦が不義の罪で殺されて悲しみにくれている。ところが、同僚のおなぎの話から、不義は濡れ衣と判明。怒りに燃える宗五郎は、酒に酔った勢いで磯部の屋敷に暴れ込む。正気に戻った宗五郎は手討ちになるのではないかと怯えるが、主計之助は非を悔いて宗五郎に詫び、弔いの金を渡す。