ジゼル(東京バレエ団)

2004/04/24

ロマンティック・バレエの代表作「ジゼル」は、これまでビデオでしか見たことがなかったので、マラーホフが東京文化会館で「ジゼル」を踊ることを知り早速チケットをゲット。パートナーは、キーロフ・バレエのプリマ、ディアナ・ヴィシニョーワです。この二人の組み合わせは昨年の「第10回世界バレエフェスティバル」での「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」でも観ていますが、このときはヴィシニョーワの素晴らしい存在感が印象に残っています(というか、マラーホフが不調だったのですが……)。

第1幕は舞台下手にジゼルの家、後方遠景には薄青く立派な中世ヨーロッパ風のお城。ヴィシニョーワのジゼルはとても花があって、素朴な村娘らしからぬ立居振舞いや母親の気遣いようはもしかすると貴種流離簟が背景にあるのだろうかとも思えますが、それはともかく、マラーホフのアルブレヒトが登場してからの演技はかなり練られたもので目が離せませんでした。そのアルブレヒトは、ダンサーの解釈によって嫌みなプレイボーイだったり愚かなお坊ちゃんだったりしますが、マラーホフの場合は身分を超えた純愛を捧げる青年貴族という解釈で一貫しており、それがはっきり伝わる演技でした。ワシリーエフによる改訂振付でのペザント・ダンス(パ・ド・ユイット)は、今一つ息が合わない場面も見られましたが、最後に男女ペア4組が左奥から右手前へ対角線上に並び、しかも左奥は高く、右手前へ近づくほど低くポーズを作るのが様式的な美しさ。そして、アルブレヒトの正体が明らかになりジゼルが発狂する場面。表情、足の運びの緊迫感など見ていて怖いくらいで、アルブレヒトが逃げ出さないのが不思議なほどです。

第2幕、深夜の怪しい雰囲気の森の中にジゼルの墓参りにやってきたヒラリオン(木村和夫)を迎えたのは鬼火!ここは洋の東西を問わない表現のようです。そして舞台奥をすうっと横切って上手から現れたミルタ、優美に踊った後に正面を向いたままパ・ド・ブレで下手へ引くところであろうことか大道具に思い切りぶつかってよろけてしまいました!おかしい、というより気の毒……。アクシデントといえば、この後の場面でも舞台裏から大道具が倒れるような音が響いてきたりしてダンサーたちは集中力を維持するのが大変だったと思いますが、コール・ドがアラベスクのポーズで左右に交差する場面は見事に息が合っていて、音楽付きとは言えこれだけの人数がアイコンタクトもなしに最小限の動きのタイミングとポーズを揃えるのはたいへんな努力の成果だと感じました。そしてスモークの中から墓の上にすっと現れたジゼル。右足を衣装に隠したアティテュードの姿勢で右回りに激しく回転し、これだけでもうこの世の者ではないことがはっきりわかります。リフトでは上空に弧を描くように足を上げて浮遊感を強調したり、かと思うと男性的なジャンプも見せたりしてこの幕でもよくも悪くも存在感があります(もちろん、第2幕のジゼルは肉体的な実質を感じさせてはいけないのですが……)。ただ、片膝ついたアルブレヒトに身体を預けてポアントでアラベスクする場面で2度ほどはっきり逡巡したのは、見ていてはらはらしました。そしてマラーホフはパ・ド・ドゥのヴァリエーションでは完璧に回転しながら倒れ込み、そしてミルタの命ずるままに前方で足を打ち合わせ(ブリゼ)ながら対角線上を前進する素晴らしいスピードにはブラボーの声が上がりました。

最後は、二度と会えない世界へ行ってしまったジゼルを忍んでアルブレヒトが白百合を舞台上に取り落としていき、くずおれながら手を差し伸べて幕。その幕が降りきる直前まで静寂、直後に湧き上がる大拍手。もちろん私も、精一杯の拍手を送りました。

キャスト

ジゼル ディアナ・ヴィシニョーワ(キーロフ・バレエ)
アルブレヒト ウラジーミル・マラーホフ
ヒラリオン 木村和夫
バチルド姫 井脇幸江
クールラント公爵 後藤晴雄
アルブレヒトの従者 森田雅順
ジゼルの母 橘静子
ペザントの踊り 高村順子 - 中島周
武田明子 - 大嶋正樹
小出領子 - 古川和則
長谷川智佳子 - 後藤和雄
ジゼルの友人 奈良春夏 / 大島由賀子 / 福井ゆい / 西村真由美 / 乾友子 / 高木綾
ミルタ 遠藤千春
ドゥ・ウィリ 福井ゆい / 大島由賀子
 
指揮 アレクサンドル・ソトニコフ
演奏 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

物語

第1幕
中世、ラインの谷あいの村の純真な娘ジゼルは、最近村にやってきた青年に夢中で、今日も身体が弱いことを忘れて彼との逢瀬を楽しんでいる。しかしジゼルに好意を寄せる森番ヒラリオンはそれが面白くなく、折しも村を通りがかった領主クールランド公爵とアルブレヒトの婚約者バチルド姫がジゼルの家で休憩をとっているときに、青年がクールランド公爵の息子アルブレヒトであることを知る。ヒラリオンの暴露によって愛する青年が貴族の変装した姿だったことを知ったジゼルは錯乱し、息絶えてしまう。
第2幕
未婚のまま死んだ乙女の霊ウィリの女王ミルタが支配する暗い森に、ヒラリオン、アルブレヒトがジゼルの墓参りにやってくる。ヒラリオンはウィリにつかまり、激しく踊らされて息絶える。ジゼルはアルブレヒトを守ろうとミルタに懇願するが、かなわずアルブレヒトも踊りの嵐に巻き込まれる。アルブレヒトの命が尽きようとする瞬間、夜明けを告げる鐘が鳴り、ウィリたちは静かに消えていく。やがてジゼルも墓の中へと消えていき、アルブレヒトは朝の光の中に一人取り残される。