三人吉三巴白浪

2004/02/15

今年最初の歌舞伎座は、幕見席で「三人吉三巴白浪」。月も朧に白魚の(お嬢吉三)駕篭にゆられてとろとろと(お坊吉三)など、七五調の名台詞をちりばめて悪の滅びを描く河竹黙阿弥の名作「三人吉三巴白浪」(または「三人吉三廓初買」)。今回はお嬢吉三が玉三郎丈、お坊吉三が仁左衛門丈、和尚吉三は團十郎丈、そして土左衛門伝吉は左團次丈という豪華配役です。

上記の有名な台詞は序幕第2場「大川端庚申塚の場」で、まず辻君おとせから百両入った財布を奪ったお嬢吉三が、おとせを川へ突き落とした後にこいつは春から縁起がいいわえときます。この場面の玉三郎丈、おとせに道を尋ねる振袖娘のお七の姿では若い娘の声なのが、財布を奪われ川を背にへたりこんで驚きおののくおとせを上から睨みおろす女方の盗賊の正体をあらわすと声のトーンが男に変わるのは弁天小僧と同じ趣向。そしてお嬢吉三の台詞の後に、駕篭の簀をぱっと撥ね上げて現れるお坊吉三の颯爽とした登場がかっこよく、ここからなるほど世間は難しい。友禅入りの振袖で、人柄作りのお嬢さんが、追落としとは気がつかねえ。二人の立回りに和尚吉三が割って入って、三人揃っての見得がこの配役でなんとも贅沢です。

二幕目の伝吉の家では、冒頭いかにもおばさんの夜鷹同士が百両ならぬ百文で喧嘩を始め、そこに夜鷹仲間が仲裁に入って台詞も所作も先程の三人吉三のパロディーとなり会場大爆笑。この幕では話の発端となる百両を落とした十三郎とその相手をつとめた辻君おとせが実は双子の兄妹であることがわかり、ここからこの百両が巡り巡って周囲の者たちの歯車を狂わせ、次々に破滅へと追いやる次第が明らかになっていく説明的な場面ですが、ここは左團次丈の芝居術で飽きさせません。一方、三幕目は倒錯的な見どころで、吉祥院の本堂と裏手の墓地とを廻り舞台で交互に見せるのですが、かたや本堂では須弥壇の下に隠れていたお坊吉三と欄間に潜んでいたお嬢吉三とのやりとり(同性愛)、一方墓場では十三郎とおとせ(近親相姦)を殺す和尚吉三(弟妹殺し)、といった具合。墓場で和尚吉三に死んでくれと頼まれた十三郎とおとせが、瀕死になりながら互いににじり寄って最期に和尚吉三の足に両側からすがりつき和尚吉三が天を仰ぐ場面にはじんときました。

そして大詰は「本郷火の見櫓の場」。いわゆる八百屋お七のお約束で、降りしきる雪の中、縄や梯子、棒などを使い捕り手の派手なとんぼに廻り舞台の機構も活用したダイナミックな立回りの末に、お嬢吉三が櫓に駆け上がって見得を切ると会場大拍手。太鼓が打ち鳴らされて和尚吉三がお坊吉三とお嬢吉三に合流し、死を覚悟した三人が最後に決める見得の瞬間舞台上がまばゆくフル照明になって大歓声と拍手のうちに幕となりました。

人間関係が複雑で筋が極めてこみいっていますが、百両の金が生き物のように人から人へと渡って、そこに巻き込まれた登場人物たちが次々に破滅し、因果が巡って見事に話がつながる筋書きの妙に感歎。黙阿弥物ならではの台詞の妙、玉三郎丈と仁左衛門丈の倒錯美(大詰で木戸をはさんで駆け寄る場面なども)、團十郎丈の重厚な芝居が圧巻。今年の観劇初めとして、これ以上ない好芝居でした。

配役

お嬢吉三 坂東玉三郎
お坊吉三 片岡仁左衛門
手代十三郎 中村翫雀
伝吉娘おとせ 中村七之助
堂守源次坊 片岡市蔵
釜屋武兵衛 尾上松助
捕手頭長沼六郎 市村家橘
八百屋久兵衛 坂東吉弥
土左衛門伝吉 市川左團次
和尚吉三 市川團十郎

あらすじ

両国橋西川岸の場 手代の十三郎は、夜鷹のおとせと遊んだ際に店の金百両を落としてしまい、身投げする覚悟で両国橋にやって来るが、通りかかったおとせの父の土左衛門伝吉に、その百両ならおとせが拾ってきたと教えられ、喜んで土左衛門の家へ向かう。
大川端庚申塚の場 十三郎が落とした百両を本人に届けようと大川端まで来たおとせは、八百屋お七を気取った女装の盗賊お嬢吉三にその百両を奪われ、大川に突き落とされてしまう。それを見ていたご家人崩れの盗賊お坊吉三はお嬢から百両を横取りしようとするが、そこへ吉祥院の所化上がりの盗賊和尚吉三が来て仲裁に入り、百両を預かったうえ、三人義兄弟の契りを交わす。
割下水伝吉内の場 溺れたところを助けられたおとせが家に戻ると、そこには十三郎。二人は喜ぶが、実は十三郎は伝吉が捨てた実子で、おとせとは双生児。伝吉は運命を呪う。
本所お竹蔵の場 伝吉のもうひとりの息子である和尚が持つ百両は、和尚から伝吉を経て図らずもお坊吉三の手元へ。その百両を貸して欲しいと頼む伝吉を、お坊は斬り殺してしまう。
巣鴨吉祥院本堂の場 追われる身のお嬢とお坊は、和尚のいる吉祥院へ辿り着き、初めて伝吉が和尚の父であり、おとせが和尚の妹だったことを知り、死のうとする。
裏手墓地の場
元の本堂の場
本郷火の見櫓の場
和尚は、畜生道に落ちた十三郎とおとせの首をはねてお嬢とお坊の身代わりとし二人を逃がすが、企みは露見し、雪の降りしきる本郷火の見櫓下で捕り手に囲まれながら三人揃って死の覚悟をきめる。