塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Yes

2003/09/15

東京国際フォーラムで、Yesのライブ。本当は2月に来日するはずだったのに、Jon Andersonが「クリスマスの飾り付けをしていて脚立から落ちて(?)頚椎を傷めた」とかで7カ月延期になっていたものです。無茶するなよ、歳なんだから。

定刻の17時にストラヴィンスキーの「火の鳥」が流れはじめ、パープルのライトと歓声の中メンバーが登場。今回は左からGのSteve Howe、VoのJon Anderson、後ろにDsのAlan White、右にBのChris Squire、そしてお待ちかね、KeyはあのRick Wakemanです。

今回のツアータイトルは「Full Circle Tour」。Full Circle……もしや還暦?とか一瞬ワケのわからない連想をしましたが、それはともかくオープニングは「火の鳥」から定番の「Siberian Khatru」。名盤『Close to the Edge』からの曲でまず聴衆をつかんでおいて(それにしても最後の延々と続くギターソロからエンディングのキメへ移行する部分、アイコンタクトもなしにどうやってタイミングを合わせていたのかさっぱりわかりません)、次に演奏された最新作からの「Magnification」はJon Andersonが不思議な形のアコギを抱えて優しく始まりましたが、後半からAlan Whiteの土砂降りシンバルで盛り上がってライブ映えのする曲でした。

一瞬のブレイクの後リズムが変わって「Don't Kill the Whale」。日本でこの曲をやるとはいい度胸してるな〜と妙な感心をしながら聴きましたが、最後はRick WakemanとChris Squireが頭突きをするようなアクションで終了。続く「In the Presence Of」はピアノのイントロで始まり、Chris Squireのベースはプレシジョン風のものに変わっていました。驚かされたのはJon Andersonが『Fragile』で披露した多重録音のボーカル曲「We Have Heaven」で、これはエコーでループを作っていたのでしょうか?また、そこから同じ『Fragile』の「South Side of the Sky」にもびっくりさせられました。そういえばこの曲のベースは、かつて一所懸命にコピーしたものです。この曲の最後には原曲にはないギターとMinimoog(!)の掛け合いがあり、その間Jon AndersonとChris Squireは、ドラムセットの前でおっさん丸出しでにこにこしながら踊っていました。そしてアコースティック12弦のハーモニクスのフレーズが穏やかに鳴り響いて名曲「And You and I」。スティールギター大活躍で、この楽器をロックに持ち込んだSteve Howeの卓見に改めて感歎。前半の最後はSteve Howeのソロコーナーで、大好きな「To Be Over」をアコースティックギターでほぼまるまる弾いてくれました。

15分間の休憩が終わってミュージカルショーのようなお気楽なBGMに乗り、踊るようにJon Andersonが登場。毎度おなじみの童謡コーナーはちらっと「ぞうさん」を見せつつ実は「チューリップ」でしたが、ギターでマイナーコードをつけるのは一種シュールな解釈だと思いました。そして「古い曲でレコーディングはされなかった」というMCつきで「Show Me」。途中からRick Wakemanのストリングスが加わって、期待通りそのままRick Wakemanのソロコーナーは「Henry 8th」から入りました。こうして聴いてみると、シンセサイザーのパワーを真正面に押し出してくるRick Wakemanのスタイルはやはり1970年代風で、これだけでも感涙ものです。

続いて「Heart of the Sunrise」「Long Distance Runaround」と『Fragile』からの曲、つまり私がベースを始めたばかりの頃に夢中になってコピーした曲が続いて、これらもずいぶん懐かしく聴きました。ちなみに「Long Distance Runaround」鑑賞のポイントは、リズム自体は普通の4拍子なのにスネアの位置が5/8ごとに入ってくるので、そこにタイミングを合わせてヘッドバンギングするのがキモ(←はたから見ると無気味)。

Chris Squireのソロコーナーは、盟友Alan Whiteとともに「The Fish」。Steve Howeの7拍子ハーモニクスリフをバックに仁王立ちになって腕まくりのマネをしてみせるChris Squireは、もはやプロレスラーの迫力です。愛機Rick Wakemanenbacker4001を抱え上げての派手なソロは、途中に「On the Silent Wings of Freedom」の有名なコード弾きパートを交えながら10分以上に及び、拍手喝采が湧き上がりました。そしてこの曲の途中で姿を消していたSteve Howeが戻ってみるとSteinbargerのギターを肩から下げていたので「さては」と思ったら案の定、次は大作「Awaken」でした。Chris Squireもあのトリプルネックを抱えて現われ、ここから滂沱の15分間。さすがに11/8拍子でのフレットレスベースのフレーズはずいぶんシンプルなものになっていましたが、揺るぎのないリズム、完璧なコーラス、華やかなギターと重厚なキーボードの上にJon Andersonの天上からのボーカルが絡んで、この世のものとは思えません。Telecasterによる最後のフレーズが鳴り響いて、本編終了。

アンコールで出てきたJon Andersonが「リクエストがあったので、今回初めてプレイします」とMCを入れたので何をやるのかな?と思っていたら、予想だにしなかった「Owner of a Lonely Heart」!あのギターフレーズがSteve HoweのTelecasterで弾きだされたときには歓声が上がり、サビのコーラスは皆で合唱になりました。ギターソロはTrevor RabinのものではなくSteve Howe風に変えてあり、またRick Wakemanがオーケストラヒットを入れ損ねて、後は「まぁ適当でいいや」といった表情で突拍子もないところに「ジャン!」と入れたら、すかさずChris Squireににやにやとチェックをされていたのが笑えます。ちなみに前日はここは「I've Seen All Good People」だったようです。

そして正真正銘ラストの曲は「Roundabout」。中間のパートは省略したタイトなアレンジになっており、Rick Wakemanのオルガンが疾走感溢れるソロを奏でます。そしてギターとキーボードの掛け合いになるあたりでJon Andersonが舞台下手の袖へ走って行ったと思ったら、若い女性を引っ張りだして一緒に踊ったりキスしたり(どうやらJon Andersonの娘さんらしい)。

割れるような拍手と歓声の中、ライブ終了。5人はにこやかな表情でお辞儀をすると、舞台下手へ消えていきました。夢のようだった2時間半。私の座席は1階8列目という恵まれた場所で、ちょうどSteve Howeのわずかに左側でした。ここからは各人の表情や演奏ぶりがよく見えたのですが、相変わらず鶏ガラのようなSteve Howeは悪評高い奇怪なステージアクションがずいぶんおとなしくなっていて(それでも「Siberian Khatru」のギターソロでトリルを繰り返しながら目を見開いて前を見据えていたのは本当に恐かった)、Jon Andersonはくつろいだ服装というかただの好々爺、Chris Squireは巨体を揺すってよく踊っていました。その点、Alan WhiteとRick Wakemanはもっともまともなミュージシャンらしい姿をしていてほっとさせられましたが、それにしてもJon Andersonのボーカルは相変わらず高音がよく出ており、特に「Heart of the Sunrise」の最後、I feel lost in the city〜!と歌うところの声の伸びは鳥肌が立つほどでした。今年はYes結成35年ということなのですが、練達の楽器奏者4人をバックに従えて、30年以上前のハイトーンの曲をそのままに歌いきってしまうJon Andersonのヴォーカリストとしての底力に、心から感動させられたライブでした。

ちょっと斜に構えた見方をすると、ほとんどが30年以上前の曲ばかりでライブが成り立ってしまう(=例えばKing Crimsonとは対極にあるスタイル)ということをYesのメンバー自身がどう受け止めているのか聴いてみたい気もしますが、それだけ今日演奏された曲がどれも完成された魅力をもっていて、しかもこのメンバーによる演奏があってこそこれらの楽曲が煌めきを発するのでしょう。もちろん、そのマジックの中心にいるのは、Jon Andersonのボーカルです。そして聴衆も、本編終了までは座って聴いていたのですが、それでも1曲ごとに物凄い拍手で、それがいつまでも止まらないというのは初めての経験です。それくらい、この日のYesは聴衆のリスペクトを集めていたのでした。

ミュージシャン

Jon Anderson vocals, guitar, harp, percussion
Chris Squire bass, vocals
Steve Howe guitar, vocals
Rick Wakeman keyboards
Alan White drums

セットリスト

  1. Opening (Firebird) / Siberian Khatru
  2. Magnification
  3. Don't Kill the Whale
  4. In the Presence Of
  5. We Have Heaven
  6. South Side of the Sky
  7. And You and I
  8. Guitar Solo (To Be Over / Clap)
    -
  9. Jon Anderson Solo(チューリップ / Show Me)
  10. Keyboard Solo
  11. Heart of the Sunrise
  12. Long Distance Run Around / Bass & Drum Duo
  13. Awaken
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  14. Owner of a Lonely Heart
  15. Roundabout