白鳥の湖(世界バレエフェスティバル全幕特別プロ)

2003/05/16

先日、アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ(AMP)の「白鳥の湖」を観てその演出の斬新さを楽しみましたが、同時にその演出がチャイコフスキーの曲をより効果的に表現しているものであることにも驚きました。これはもう一度「普通の」白鳥を観てみなくてはと探したのが、この世界バレエフェスティバル全幕特別プロ。共にパリ・オペラ座バレエ団のエトワールで、公私ともにパートナーでもあるアニエス・ルテステュとジョゼ・マルティネスの二人が客演するということなので、期待しながら当日を待ちました。

第1幕の序曲から、幕が開いて舞台上がぱっと明るく照らされるあたりの盛り上がりは好きなところで、ストリングスの細かくて速いパッセージがつなぐリズムが力強く、ここを聴くといつもわくわくしてしまいます。まず登場する王子のジョゼ・マルティネスは、スリムな長身がいかにもバレエダンサーという感じで、申し訳ないけれど日本人ダンサーには真似のできないノーブルな雰囲気を漂わせ、ソロで見せるトゥール・ザン・レールは極めて高く安定しています。それでも東京バレエ団も気合が入っていて、パ・ド・トロワはミスはあったものの頑張っていましたし、道化(吉田和人)のグランド・ピルエットは軸がぶれそうになって「あぁっ、大丈夫か?」とはっとさせられたものの巧みに態勢を立て直しました。

第2幕、冒頭に短いがおそろしくキレのよいロットバルト(高岸直樹)の登場があって、王子が湖のほとりにさまよい込んでくると唐突にオデット(アニエス・ルテステュ)が姿を現しました。かなり説明的なマイム・演技の応酬があり、一度は立ち去りかけたオデットが後ろ髪を引かれるように振り返り王子に歩み寄った後のグラン・アダージョは、しっとりした雰囲気の中に滑らかなリフトとポアントでの高度なバランスを織り込んでいました。また4羽の白鳥も、これまで観てきた中ではもっとも端正で、喝采を浴びていました。

第3幕の冒頭の豪華絢爛な曲は、王宮の舞踏会の華やかさで最も好きな曲。チャルダッシュ、ナポリ、マズルカと続く各国の踊りの後に花嫁候補6人の踊りがぴったり息が合っていて素晴らしかったのですが、暗転してロットバルトとオディールが登場した後に真っ赤な照明で踊られたスペインの振付は、あまりスペインっぽく感じられません。ここでも王子とオディールとの演技が面白く、オディールに夢中になった王子をオディールがひらりとかわすと王子は苦笑しながら「おいおい、なんだよ」という表情を見せるのが見てとれました。そしてお待ちかねのグラン・パ・ド・ドゥ。アニエス・ルテステュのグラン・フェッテ・アン・トゥールナンもジョゼ・マルティネスのグランド・ピルエットもそれぞれ抜群の安定感で、いずれも演奏を止めてのブラボーの嵐でした。ロットバルトとオディールが正体を現し、王子を嘲りながら王宮を去る場面で、スペインの踊り手たちもグルだったことを示すというパターンは初めて見ましたが、普通は最初に踊られるスペインを最後にもってきたのはこういう理由であったのかと納得。しかし、後で調べてみると、版によってはディヴェルティスマンを踊る人々が全てロットバルトの手下という設定もあるそう(恐ろしい……)。そして第4幕は、ハッピーエンド。悔い改めた王子が急に強くなってロットバルトの羽をもぎとり倒し、オデットと寄り添って朝日を浴びます。

今回は「観る」というより「聴く」方に力点があったのですが、チャイコフスキーの曲は本当に魅力的な旋律が次々に湧きだしてくるようで美しく、調性の変化による情景描写も巧みで、さらに何か所かで出てくるワルツで、それはワルツだから当然3拍子なのですが、その上に2拍子のアクセントをもった旋律が乗るポリリズム的な部分があったりして、なにげにプログレファンの心をそそるものだと感じました。

キャスト

オデット / オディール アニエス・ルテステュ(パリ・オペラ座バレエ団)
ジークフリート王子 ジョゼ・マルティネス(パリ・オペラ座バレエ団)
王妃 加茂律子
悪魔ロットバルト 高岸直樹
道化 吉田和人
家庭教師 飯田宗孝
パ・ド・トロワ 佐野志織 / 早川恵子 / 木村和夫
ワルツ 遠藤千春 / 大島由賀子 / 福井ゆい / 西村真由美 / 乾友子 / 高木綾
四羽の白鳥 早川恵子 / 荒井祐子 / 太田美和 / 高村順子
三羽の白鳥 遠藤千春 / 大島由賀子 / 福井ゆい
司会者 飯田宗孝
チャルダッシュ 佐野志織 / 平野玲 / 太田美和 / 門西雅美 / 倉谷武史 / 高橋竜太
ナポリ 荒井祐子 / 吉田和人
マズルカ 大島由賀子 / 福井ゆい / 後藤和雄 / 高野一起
花嫁候補たち 早川恵子 / 武田明子 / 西村真由美 / 乾友子 / 高木綾
スペイン 井脇幸江 / 遠藤千春 / 後藤晴雄 / 芝岡紀斗
 
指揮 ミッシェル・ケヴァル
演奏 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団