白鳥の湖(アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ)

2003/03/02

アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ(AMP)の「白鳥の湖」を、Bunkamuraオーチャード・ホールで観ました。会場に入ってプログラムを買い、ロビーをふらふら歩いていると今日の配役表が置かれており、どきどきしながら配役表を手にとって思わずにっこり。他の客も配役表を見て「やった〜」「うれしい〜」と喜んでいます。スワン / ストレンジャー役を、お目当てのアダム・クーパーが演じることになっていたのです。というわけで、配役は次の通り。

ザ・スワン
ザ・ストレンジャー
アダム・クーパー
王子 ベン・ライト
女王 マーガリート・ポーター
執事 スティーブ・カークハム
ガールフレンド フィオーナ=マリー・チヴァース
幼年の王子 ギャヴ・パーサンド

私がAMP版の「白鳥の湖」の存在を知ったのは映画『リトル・ダンサー』がきっかけで、その最後に主人公のビリーが成長した姿としてアダム・クーパーが登場し、ほんのわずかの時間でしたが「白鳥」を踊ったのを見てびっくりさせられ、その後ずっと記憶に残っていたのでした。アダム・クーパーは1997年まで英国ロイヤル・バレエ団でプリンシパルをつとめ、クラシックからモダンまで幅広く踊る人気ダンサーで、最近はAMPを主な活動の場としているほか客演も多く、自ら振付も行う才人で、日本でも熱狂的なファンが多いスターです。またAMPは、1987年にマシュー・ボーンを中心に結成されたダンス・カンパニーで、バレエをベースに置きながら、様々な映画からのインスピレーションを舞台に反映させているというちょっと変わったカンパニー。そしてこのAMP版「白鳥の湖」は、チャイコフスキーの音楽とストーリーの大筋をそのままにしつつ、斬新な解釈と設定で米英を熱狂させた、彼等の代表作。この作品のコンセプトには、チャイコフスキーの音楽はクラシックバレエの振付けでは表現しきれていない攻撃性や暴力性があり、現実の白鳥もまた威嚇的で力強い鳥だという発見があります。その結果、白鳥は全て男性に置き換えられ、舞台設定も現代の(チャールズ皇太子やダイアナ妃の)英国に移して、女王の愛を得られない王子と白鳥との同性愛的な関係を主軸に置き、そこにロットバルトを陰謀家の執事にして絡ませるという大胆なストーリーが展開します。

第1幕は演劇的な場面で、音楽こそチャイコフスキーですがノリはミュージカルのそれに近い感じ。舞台装置がリアルで、王子の寝室、劇場での観劇(劇中劇の「蛾の姫」(?)が抱腹絶倒。女性が踊っているのにトロカデロの雰囲気)、宮殿の一室、ダウンタウンのクラブ、夜の公園とスムーズに場面転換していきます。そして、壁に囲まれた寝室や宮殿の一室は王子の息苦しくなるような閉塞感を暗示し、クラブを追い出された王子がソロで踊る場面ではそれまでのダンスとは質の違う踊りで、くねくねと腕を身体にまとわりつかせながら上体を曲げての回転系の踊り(表現方法が見つからないのですが、強いて言うと「太極拳をスピーディーかつ悲痛にした感じ」)に一気に感情移入させられてしまいました。そして、王子が公園の奥の池に身投げしようと走り寄ったとき、ぴったりのタイミングで横から走り込んでさえぎったのが白鳥のアダム・クーパー。鼻筋に黒い線をひき、上体は裸、下半身は白い羽根をつけた不思議な衣裳で登場しましたが、やはりクラシックの技法の第一人者だけに動きが他の白鳥たちとはずいぶん違って存在感抜群。ここはバレエでは第2幕にあたるところで、あれはどうするのかな、と思っていた「4羽の白鳥の踊り」は雛鳥らしい4羽がどたどたと出てきて邪悪かつコミカルにやってくれて大笑い。しかし、全体を通してあの美しい音楽に合わせた群舞や白鳥と王子のパ・ド・ドゥは全員男が踊っていてもまったく違和感がなく、このバレエ曲の素晴らしさを再認識しました。

第3幕の舞踏会の場面、マスコミが集まって参加者の写真を撮ったりやじうまが手を振ったりしているのは現実の英国王室を模したものらしいのですが、「スペインの踊り」や「ナポリの踊り」といったディヴェルティスマンもしっかりストーリーに組み込まれていて、ストレンジャーがその場の女性たち、なかでも女王を篭絡するプロセスが描かれていきます。しかし、クラシックならディヴェルティスマンはそれだけに視線を集中していればいいのですが、こちらの場合は群舞の間も後ろでストレンジャーがうろついたり参加者にちょっかいを出していたりして視線のもっていきどころに困ります。そのストレンジャー役のアダム・クーパーは革のパンツでジゴロっぽく登場し、純真な王子の心を弄んでいく悪役ぶり。ガールフレンドは第1幕では執事の悪事に加担しているようにも見えたのですが、この幕では群舞の中でもひたむきに王子を見つめ続けて好感度アップと思っていたら、かわいそうに発砲沙汰に巻き込まれて犠牲になってしまいました。そのまま第4幕に移り、再会した王子と白鳥に対して白鳥の群れが執拗なまでの攻撃を加える場面は、野生の白鳥の残忍さがストレートに表現されていて鬼気迫るものがありました。結局王子は死ななければ母に抱かれることもなく、白鳥と結ばれることもなかったという結末はあまりにも救いがありませんが、しかし、これが本来のこのバレエの意図に合致しているのでしょう。

終演後のカーテンコールはスタンディングオベーション。役者たちも手をつないで声をあげながら舞台奥から客席に向かって走り寄るパフォーマンスを見せて大いに盛り上がりました。適当なところで劇場側が客電をつけておしまいにしましたが、ほっておいたら何十分でも拍手が鳴り続けたに違いありません。

物語

プロローグ・第1幕・第2幕
とある王国の宮殿、女王である母の愛情に飢えた幼い王子の孤独は、成人しても変わらない。陰謀をめぐらす執事の手引きで知り合ったガールフレンドは、宮殿には似つかわしくない下品さで女王との折り合いが悪い。酒に酔って女王に愛を訴えても突き放され、宮殿を抜け出して紛れ込んだダウンタウンのクラブでも喧嘩沙汰を起こして叩き出される。絶望のうちに夜の公園で自殺をしようとした王子の目の前に白鳥の群れが姿を現し、ひときわ大きな一羽が王子に生きる気力を与える。
第3幕
各国の王女たちを招いた華やかな舞踏会。遅れて登場した一人の男性客は、あの夜の白鳥と瓜二つで王子は驚く。しかし男は妖しい力で女王を含む全ての人たちを魅了していき、王子は孤立する。女王への思慕と白鳥への想いの両方を失った王子は自暴自棄となり、発砲事件を起こしてしまう。
第4幕
寝室に軟禁された王子のもとへ白鳥が救いをもたらすために訪れる。しかし群れを離れようとするその行動を怒った他の白鳥たちによって白鳥は殺され、絶望した王子も死ぬ。王子の魂は天上で白鳥に抱かれ、王子の亡骸もようやく女王の腕に抱かれる。