出雲の阿国 / 矢の根 / 京鹿子娘道成寺 / 弁天娘女男白浪 / 寺子屋 / 保名 / 助六由縁江戸桜

2003/01/05

今年は歌舞伎400年なんだそうで、初春大歌舞伎のスタートは瀬戸内寂聴の新作「出雲の阿国」から。

出雲の阿国

歌舞伎の祖・出雲の阿国と、その夫で刃傷沙汰で果てた名古屋山三の霊が、昔を懐かしみ恋を踊る夢幻的な舞踊。山三の出に工夫があって、後方の壁にしつらえられた紗幕の向こうに照明が当たると、山三の霊(菊之助丈)の姿が浮かび上がる仕組み。阿国(福助丈)の踊りも山三との連れ舞も美しいものでした。

矢の根

お正月と言えば曽我物は欠かせません。「矢の根」は三津五郎丈の曽我五郎が豪快な荒事の典型。実に爽快な一本ですが、宝船の絵を敷いて「やっとことっちゃ」と掛け声を掛けて横になるところでは上体は45度に起こしており、これを後見が腕と肩で約5分にわたって支える(この間に曽我十郎(橋之助丈)が夢に出てきます)のが大変そうで、思うに(大和屋、重いです)(がんばれ、あと少しの辛抱だ)と囁き合っていたかもしれません。

京鹿子娘道成寺

この日の白眉。玉三郎丈の白拍子花子の舞は、最初の烏帽子を着けての能舞からくだけた歌舞伎舞への変化、衣裳を引き抜いての毬唄、花笠を使っての舞、鈴太鼓を持っての踊りと多彩な技が次々に披露され、しかも美しさと品格とが一瞬たりとも損なわれることがなく、まさに至芸の域に達しています。この間に玉三郎丈が踊りの途中ではっと振り向きざまに客席へ何かを投げ入れる場面があって「?」と思ったら、所化たちが次々にひねりものを客先へ投げ入れていました。あれは手拭い?所化といえば遊び心旺盛な部分もあって、物知りの所化が舞の起原を説明するのに天の岩戸でのアメノウズメを引き合いにだし、それを観ていたのはもちろん八百万の神々なのでそこから「お客様は神様です」という言葉が生まれたと得意げに説明して客席大ウケ。舞(まい)の種類の解説ではさらにエスカレートし、「新米・古米、横浜名物ありゃシウマイ、北海道は苫小牧……」と立て板に水。

弁天娘女男白浪

浜松屋店先から稲瀬川勢揃いまでですが、菊五郎丈の弁天小僧と團十郎丈の南郷力丸の組み合わせが贅沢。「知らざあ言って聞かせやしょう」の啖呵はなんといっても菊五郎丈ですが、さすがに「美しい娘」に見えるという設定はちょっと苦しいかも。以前観た菊之助丈の弁天小僧があまりに美しく、ここは息子に軍配を上げたい感じ。この芝居ではやはり浜松屋の番頭が娘(菊五郎丈)に贔屓の役者をたずねる場面があって、菊五郎丈本人・幸四郎・菊之助・松緑がNG、團十郎がOK。しかし水を向けられた若党(團十郎丈)は「身共はあのような役者(團十郎)は大嫌いだ」と言うことになっているのが、わかっていても笑えます。

寺子屋

菅原伝授手習鑑から「寺子屋」は、寺入りを省いて源蔵戻りから。それだけに最初のうちのなごやかな部分がなくなってこの芝居の厳しさが際立つことになりましたが、玉三郎丈の千代の悲しみを深める意味では最初からやってほしいところ。松王丸(幸四郎丈)の泣きの場面ではこっちもぐっとなるところですが、肝心のこの場面で客席の後ろの方でぼそぼそと隣に解説している声が聞こえてきて、残念ながら感情移入しきれませんでした。

保名

真っ暗な中から清元の高い謡につれてほのかに黄色く照明が浮かび上がってきて、やがて菜の花畑の情景が一面に広がるという幻想的な演出。芝翫丈の舞踊に目が釘付け。

助六由縁江戸桜

最後は御存じ「助六由縁江戸桜」(これも曽我物)。團十郎丈の助六、雀右衛門丈の揚巻、菊五郎丈の白酒売り、左團次丈の意休と文字通り役者が揃った感があります。團十郎丈の助六にはやはり成田屋ならではの大きさと勢いがあり、吸い付けたばこの雨が降るというのも納得。揚巻が意休にさんざん悪態をついて「うほ、うほ、うほほほ」と笑うのも胸がすき、揚巻・白玉の絢爛豪華な衣裳も含めて、いかにも正月にふさわしい芝居です。さて、毎度おなじみの通人里暁(松助丈)のスラップスティック、今回は助六に「今年の大河ドラマ(「武蔵 MUSASHI」)の主人公のお父さんじゃありませんか」と写メールでツーショットを撮影。ついで白酒売りに「股ぁくぐれ」と言われて「ファイナルアンサー?」。アラミスのオードトワレを振りまき、アザラシの真似をしてタマちゃんの股くぐりとまぁやりたい放題ですが、これはこの場面のお約束です。

配役

出雲の阿国 阿国 中村福助
山三 尾上菊之助
矢の根 曽我五郎 坂東三津五郎
曽我十郎 中村橋之助
大薩摩主膳太夫 中村歌六
京鹿子娘道成寺 白拍子花子 坂東玉三郎
弁天娘女男白浪 弁天小僧菊之助 尾上菊五郎
南郷力丸 市川團十郎
忠信利平 尾上松緑
赤星十三郎 尾上菊之助
鳶頭清次 市川團蔵
浜松屋幸兵衛 澤村田之助
日本駄右衛門 松本幸四郎
寺子屋 松王丸 松本幸四郎
武部源蔵 坂東三津五郎
戸浪 中村福助
春藤玄蕃 坂東彦三郎
千代 坂東玉三郎
保名 安倍保名 中村芝翫
助六由縁江戸桜 花川戸助六 市川團十郎
白酒売新兵衛 尾上菊五郎
髭の意休 市川左團次
三浦屋白玉 中村芝翫
朝顔仙平 坂東正之助
福山のかつぎ 尾上松緑
奴奈良平 片岡亀蔵
国侍利金太 片岡十蔵
通人 尾上松助
くわんぺら門兵衛 市川段四郎
曽我満江 澤村田之助
三浦屋揚巻 中村雀右衛門

あらすじ

出雲の阿国

鴨川四条の河原で踊る出雲の阿国。いつしか現れた名古屋山三の霊と阿国は、共に過ごした日々を懐かしみながら踊り続ける。

矢の根

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京鹿子娘道成寺

桜の紀州道成寺で鐘供養の所化達が集まっているところへ訪ねてきた都の白拍子花子は、鐘を拝ませてもらうかわりにと舞を舞うが、やがて清姫の執念が乗り移った蛇体の本性を表す。

弁天娘女男白浪

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寺子屋

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保名

菜の花の野を、恋人榊の前の死を嘆くあまり心乱れた安部保名が踊りさまよう。

助六由縁江戸桜

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