エッシャー展

2002/11/24

Bunkamura ザ・ミュージアムで「エッシャー展」を見ました。

オランダで生まれたエッシャーは、イタリア在住時代に旅行で訪れたアルハンブラ宮殿のモザイクから空間の正規分割という、後の彼の版画に現れる重要なモチーフのインスピレーションを得、風景画の時代、メタモルフォーシスの時代(《昼と夜》など)、遠近法の時代(《上と下》など)、そして無限への接近の時代(《画廊》など)へとテーマを変容させながら、知的好奇心をそそる(それゆえに美術評論家からは長らく美術作品と認められなかった)作品群を制作し続けました。今回の展示は、いわゆるメタモルフォーシスやだまし絵でしか知られることが少なかったエッシャーの画業をその始めから体系的に紹介しているところに特色があり、極めて充実していました。

エッシャーの版画をまとめてみたのは高校生の頃以来で、そう言えばあの頃は(男子校だったせいか)よく男同士で連れ立って展覧会に行ったりプールに泳ぎに行ったりしたものだ、と妙なことを思い出しましたが、今回の展示作品の中でも主だったものはそのときに観ていた記憶があります。ただ、今回の展覧会はかなり徹底した紹介ぶりで、その割に会期が2週間と短く会場は連日超満員だったために、最終日の開場時刻にチケット売場に並んだところ図録は売り切れていました。この展示は長崎のハウステンボス美術館収蔵品を公開しているものなのですが、そのハウステンボスの在庫も切れてしまったそうです。くー、残念。

《もう一つの世界 II》(1947年)。この展覧会のポスターにも使われていた作品。画面の奥へと続く消点は、正面の人鳥にとっては遠地点ですが、下の人鳥にとっては天頂、上の人鳥にとっては天底となります。いずれも同じ月面の風景を3通りに見せたものですが、しかし私には、この回廊(?)が全く異なる三つの世界へ窓を開いているように見えてなりません。
《物見の塔》(1958年)。摩訶不思議な塔の上層と下層は、現実にはあり得ない方法で結合されており、謎を解くヒントは手前のベンチに座る人物が手にした奇妙な立方体とその前の図面の中にあります。また背景の谷や山の情景は、エッシャーのイタリア時代に制作された作品群を思い起こさせます。
《上昇と下降》(1960年)。僧侶の隊列が行進している階段は、どんどん上昇し続けるのに少しも高くなりません。この無限性が見るものに無力感をも与え、右下の階段にいる寂し気な背中がかえって解脱を思わせます。しかし、報われない永遠と孤独な自由と、果たしてどちらが幸福なのでしょうか。
《滝》(1961年)。上の2作品と関連をもつモチーフが描かれています。あり得ない結合方式で構築された水路の塔、水平(むしろ下降気味)に流れているのにいつの間にか重力の呪縛を離れて高さを獲得している水の循環。