ロメオとジュリエット(チューリヒ・バレエ)

2002/06/06

チューリヒ・バレエの「ロメオとジュリエット」を東京国際フォーラムで観た……のですが、最初に書いておくと、東京国際フォーラムはロックのコンサート会場としては最高ですが、バレエを観るにはハコが大きすぎます。それに中価格帯のチケットがすぐに売り切れてしまったので(当方の出足が遅かったといった方が正確)悩んだ末に低価格帯のチケットにしたところ、あのでかい会場の一番うしろ=上の方の席で、ステージ上のダンサーの動きは見えても表情はまったくわかりません。やはりそれぞれに適正規模・適正会場というのがあるのだということを、今さらながら学習しました。

さて、今回はロメオに熊川哲也、ジュリエットにヴィヴィアナ・デュランテというゲストダンサーを入れてのプログラムで、このバレエ団の初来日にゲストダンサー目当てで行くというのも失礼かなと少し気が咎めたのですが、結果としてはやはりこの二人が全体を締めてくれました。しかし全体のプロダクションはなかなかよくできていて、シンプルながらつぼを押さえた装置で短い暗転の間に街頭・邸内・寝室・庭・教会・墓地といった様々な場面がスムーズに展開し、全体のストーリーを追うことを妨げません。演出は特に後半のストーリーをかなりの部分マイムに頼っていましたが、街頭での賑やかな群衆シーンではロメオと二人の友人たち(フランソワ・プティ / マシュー・グリミエ)、それに3人の街の女たちが絡む明るいダンスが楽しく、また舞踏会での特徴的な曲(プログレファンはEmerson, Lake & Palmerのロイヤル・アルバート・ホールでのライブを思い出そう)に乗った群舞も大きなうねりがバレエならではの舞台の躍動感を見せてくれました。

そしてまず熊川哲也は、この作品では派手なグラン・パ・ド・ドゥがない分、友人たちとの男性3人でのコンビネーション・ダンスが自身の見せどころになるのですが、やはり切れのよさは他の二人の追随を許さない感じ。それだけに、一歩間違えればバラバラという危険を孕んだスリリングなものになりました。彼のダンスを観たのは実は初めてで、これ以前では彼が初めて世の中に名前を知られるようになった1989年のローザンヌのコンクールでの模様をテレビで観たことがあるだけ(例によって毒舌の解説の女性が彼のダンスに素直に感嘆しながら「これでもう少し足が長ければいいのに」といったことを言っていました)。その意味では、人気が高い彼のダンスがやはり本物だったことを知っただけでも収穫でした。

しかし、この作品ではジュリエットの女性としての駆け足での成熟がむしろ主題です。館の中でのいかにも深窓の令嬢風の登場や舞踏会での人形のような希薄な存在感が、ロメオとの出会いによって目覚めた自我を最初に発揮するバルコニーの場面、「寝室のパ・ド・ドゥ」風の情熱的な目覚め、と主体性を獲得していき、ロレンスに毒薬をもらう場面まではまだロメオ(の幻影)の力を借りなければ踊ることができなかった彼女が、ついに寝室で毒薬を仰ぐ際には一人立ちした女性としてソロを踊るところが象徴的です。このメタモルフォーゼをヴィヴィアナ・デュランテは見事に演じきり、特にバルコニーの場面では、ジュリエットはまだいかにもはかなげで夢見るような浮遊感を出さねばならず、そのために熊川哲也も後ろから絡めた手でジュリエットの体重を支えたり大きなリフトを繰り出したりと巧みに彼女をサポートしていました。

ただ、何としても物語自体があまりに暗くて救いがなく、墓碑の上で寄り添うように息絶える二人の上に赤いバラの花びらが散っていくエンディングには溜め息が出てしまいました。

キャスト

ジュリエット ヴィヴィアナ・デュランテ
ロメオ 熊川哲也
マキューシオ フランソワ・プティ
ベンヴォリオ マシュー・グリミエ
パリス伯 ジョゼフ・ヴァルガ
ティボルト ティグラン・ミカイェルマン
売春婦たち アナ・カレズマ / ファビアナ・マルタロッリ / クリスティーナ・エリーダ・サレルノ
ヴェローナ大公 スタニスラフ・イェルマコフ
乳母 カリン・シニカ
キャピュレット公 ミヒャエル・リスマン
キャピュレット夫人 サビンヌ・ムスカルデス
モンタギュー公 ホァン・エイマール
モンタギュー夫人 アグネス・ギャラトワ
僧ロレンス クリス・ジェンセン
 
指揮 ダヴォール・クリニャク
演奏 東京ニューシティ管弦楽団

物語

第1幕
キャピュレット家とモンタギュー家はことごとに対立している。キャピュレット家の舞踏会に忍び込んだロメオは少女ジュリエットとひと目で恋に落ちるが、ジュリエットのいとこティボルトに引き離される。その夜、庭に忍び込んだロメオとバルコニーに出て思いを馳せるジュリエットはダンスを通じて互いの愛を確かめ合う。翌日、教会で僧ロレンスの立ち会いのもとに二人は密かに夫婦の誓いを交わす。
第2幕
街角でのいざこざからロメオの友人マキューシオはティボルトに刺し殺され、逆上したロメオはティボルトの命を奪う。大公はロメオの追放を命じ、ロメオはジュリエットと別れの前の夜を共にした後、去っていく。そこへジュリエットの両親が現われ、彼女に青年貴族パリスとの結婚を命じる。救いを求めてロレンスを訪ねたジュリエットは、仮死状態になる毒薬を譲り受け、屋敷で毒を仰ぐ。墓所に安置されたジュリエットのもとへ駆けつけたロメオは、最後のキスを交わし自らの命を断ってしまい、目覚めたジュリエットはロメオの死を知り、彼の剣で後を追う。