塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

ビセンテ・アミーゴ meets 新日本フィル

2002/05/24

ビセンテ・アミーゴの音楽に初めて接したのは、スペイン国立バレエ団の1999年の公演で「ポエタ」が踊られたときでした。振付けも装置も素晴らしかったのですが、何といってもフラメンコ協奏曲「ポエタ」が衝撃的で、さっそくCDを購入し、以後愛聴盤となっています。その後、ビセンテ・アミーゴのコンサートは2000年5月に観に行ってベスト盤にサインをもらい握手までしてもらってこれはこれでうれしかったのですが(←ミーハー)、やはりいずれは「ポエタ」を生で聴きたいという希望は持ち続けていました。

今回のコンサートは、そうした希望がかない竹本泰蔵指揮・新日本フィルとの共演による「ポエタ」日本初演です。

会場のすみだトリフォニーホールは錦糸町駅の北西側すぐのところにあり、ホールの中に入ると正面に大きなパイプオルガンが聳え、ステージは低くて客席の目線と近いところにあります。開演は19時からで徐々に聴衆が集まってきましたが、どうやらホールのうしろや2階席以上はがらがらに空いているらしいのが不思議というか残念です。ビセンテ・アミーゴの本来の人気からすると、プロモーションに何か問題があったのではないでしょうか。

定刻になり、黒ずくめのリラックスした服装で出てきたビセンテ・アミーゴ。まず第1部は彼の「ソロ」から始まります。全ての弦をかき乱すような激しい曲で、毎度のことながらフラメンコギタリストの右手の自在な奏法はロックギターのそれしか知らない自分にはミステリー。次回、彼の演奏を聴く機会までにはフラメンコギターの奏法について勉強しておかねばと思いました。この曲の終わりの方でセカンドギターのホセ・マヌエル・イエロとパーカッション / カンテのパトリシオ・カマラが出てきてパルマを合わせます。スペイン語でのMCの後に3人で物凄い音圧で演奏された「ファンダンゴ」は、3拍子でコード進行が決まったアンダルシア地方発祥のスペイン民謡。カホンの音が久しぶりで懐かしく、またビセンテ・アミーゴのギターは実に存在感のあるいい木の音が鳴っていました。3曲目、静かなつまびきから、6拍子のアルペジオの上で叙情的なフレーズが流れる「ケリド・メセニー」。タイトルの通りパット・メセニーに捧げられた曲で、途中から照明が赤く変わり4×3の12拍子にテンポアップ。緊迫したソロを聴かせてから冒頭のアルペジオと柔らかなフレーズに戻ります。右手の細かいトレモロが印象的な「ソロ」に続いて、3人での「ブレリア」で第1部を締めくくりました。

15分間の休憩中、ステージ上は大忙し。2人分のパーカッションにマイクとPAがセットされ、見れば舞台奥にもオケの打楽器群が並んでいてなかなか壮観です。20時すぎにオケのメンバーが入り始め、音を合わせてから指揮者とビセンテ・アミーゴ、それにバンドのメンバーを迎えました。ビセンテ・アミーゴは指揮者の下手側、舞台のほぼ中央に座り、ギターの1フレットにカポをつけました。彼から下手側へ順にホセ・マヌエル・イエロ、パトリシオ・カマラ、ヒゲ面のホセ・パッラ(カンテ)、長髪のパキート(パーカッション)と連なります。

原曲に入っている波の音や詩の朗読はなしで、冒頭の短調のコードから直ちにストリングスの寄せては返すようなフレーズに移りますが、心なしかテンポが遅いような?それでも「夜の花」のパートでホセ・パッラの枯れた声でのカンテが入ってくるとようやく原曲の世界が蘇ってきたように感じました。ビセンテ・アミーゴの表情も最初のうちは固かったのですが、「海の詩人」の中間でパーカッションが加わると笑顔が面に現れました。第2楽章はメランコリックな「愛、甘き死よ」から入り、パキートの合図でいよいよパーカッション群の見せ所「誰も眠りを知らない」。この後はギターとオケの闘いになるところですが、どうもリズムが噛み合っていない印象を受けます。ギターをバックにホセ・パッラの独唱が響く「東の船乗り」に続いて、「君の心の海」は原曲ではビセンテ・アミーゴ自身も一部歌っていましたが、さすがにここではホセ・パッラが声音を変えて通して歌っていました(ちょっと残念)。そして、全曲中最も美しいストリングスのフレーズに続いて最後にビセンテ・アミーゴの超高速パッセージが炸裂!まだ楽章の切れ目なのに早くも聴衆は歓声と大拍手です。同じことは「グアヒーラ」の終わりでも起こりましたが、最終曲「風の詩人」のラストの激しいギターとオケのキメの直後には一瞬空白の間があって、次の瞬間ひときわ大きな拍手が沸き起こりました。もちろん自分も精いっぱいの拍手を送ったのですが、最初から最後までビセンテ・アミーゴ及び彼のメンバーとオケの感じている拍子にずれがあったように感じられて、正直に言うと十分満足できる演奏ではなかったように思います。それだけ、原曲でのコルドバ管弦楽団の演奏がよかったということなのかもしれませんが、スペイン人と日本人のリズムに対する感性の違いを見せつけられたような気もしました。

アンコールは、まず「ポエタ」の最終パートである「風の詩人」のラスト、ギターのアルペジオからエンディングまで。続いてビセンテ・アミーゴのギターとパキートのパーカッションに他のメンバーがパルマで参加して1曲。全ての演奏が終わり、スタンディングで拍手を送る聴衆にビセンテ・アミーゴも笑顔で応えていたのを見てこちらもうれしく思いました。