白蛇伝(上海京劇院)

2002/05/18

池袋の東京芸術劇場で、上海京劇院の「白蛇伝」を観ました。主演はもちろん、「昭君出塞」でいっぺんにファンになってしまったあの史敏です。

「白蛇伝」の主人公・白素貞は女性的な高い発声で切々と唱を歌いあげる青衣(正旦)の役どころですが、同時に折子戯(一幕物)ともなる「盗仙草」「水漫金山」では激しい武戯を見せる武旦の力量を問われることにもなります。したがって、通して演じられるときは一般には武旦と青衣とが場面に応じて交替するのですが、今回は史敏が両方の役柄を一人で演じるところがポイント。

幕が上がると西湖の春。表情や仕草の表現力が実に豊かな小青役の劉佳に続いて、168cmとすらっと背が高い史敏が現れると、舞台はいっぺんに明るくなりました。伸びやかな唱で江南の美しい情景を歌い、許仙(李軍)と白素貞の出会いが演じられます。許仙が呼び止めた舟に乗るあたりは、先日観た「秋江」と同様、巧みに舟の揺れを表現しており、そこから婚礼、法海(張達発)の登場、そして許仙の死まで、非常にテンポよくストーリーが進んで、最初の立回りの場面となる「盗草」は、これも先日観た折子戯としての「盗仙草」と比べるとずいぶんあっさりしてはいたものの、精霊との闘いの中で白素貞が非常に激しい回転技を披露して圧倒されました。「色彩の旋風」と異名をとる史敏の面目躍如といったところです。

そしていよいよ見どころの「水闘」。水族が加勢しているので、ひらひらと動く二枚貝や亀が現れ、狂言学習のため滞日中で日本のファンが多い厳慶谷の那咤とユーモラスな闘いを繰り広げます。さらに水族や護法神のアクロバティックな宙返りに沸いたところで、史敏が四方から投げつけられた槍を手にした槍や足で打ち返す「打出手」の技を披露。まるで練達のジャグリングのようにたくさんの槍が宙を飛んで目が回る程の忙しさの中に、はっと呼吸を合わせて史敏がジャンプし、飛び上がった両足で一瞬のうちに左右からの槍を打ち返します。しかもそれが連続技で行われるのだから観衆は大喜びです。

しかし、もちろんこうした激しい武戯も素晴らしかったのですが、闘いに破れた白素貞が西湖のほとりに逃げ延び、そこで金山寺を抜け出してきた許仙と再会する場面は、史敏が長い唱をたっぷりと聞かせて聞きごたえがあり、これに対して許仙の李軍も豊かな声量で永遠の愛を歌うところがぐっと感動させました。この「断橋」の場の前に15分の休憩が入っていたのですが、ストーリーの展開上の理由もさることながら、激しい立回りの「水闘」の後で息を十分に整える意味もあったのでしょうか?最後のエピローグはいきなり「数年後」と唐突な感じですが、もともとの説話では白蛇は雷峰塔に永遠に閉じ込められて終わるので、ハッピーエンドにするための付け足しといった感じ。

ともあれ、スピード感あふれる展開で史敏の魅力全開。それに史敏だけでなく役者一人一人の性格付けが鮮明で仕草や表情も現代的で、2時間の公演時間があっという間に感じられた楽しい舞台でした。

配役

白素貞 史敏
許仙 李軍
小青 劉佳
法海 張達発

あらすじ

第1場:遊湖 峨眉山で先年の修行を経た白蛇と青蛇は、それぞれ白素貞 / 小青という名の娘に姿を変え、人間界に下って西湖の春景色を満喫する。にわかの雨に傘を貸してくれた青年・許仙と白素貞は恋に落ちる。
第2場:結親 翌日、許仙は白素貞の住まい紅楼を訪ねる。小青のとりもちで、白素貞と許仙は婚礼を迎える。
第3場:説許 金山寺の禅師・法海は白素貞と仲睦まじく暮らす許仙を訪ね、白素貞が蛇の化身であると告げる。
第4場:酒変 端陽節の祝いから戻った許仙に雄黄酒を強いられた白素貞は床に就く。酔い覚ましを煎じて寝室に入った許仙は、白素貞の正体を見て驚愕のあまり死んでしまう。
第5場:盗草 夫を救うため崑崙山の仙草を取りに来た白素貞は、仙草を守る精霊たちと激しく切り結ぶ。
第6場:上山 許仙は無事生き返りはしたものの、法海に説かれるまま金山に同行してしまう。
第7場:水闘 許仙を取り戻すため、白素貞と小青は金山寺を訪ねる。白素貞らは長江の水族たちの加勢を得て寺を水攻めにするが、法海は護法神を派遣して双方は激しく闘う。
第8場:逃山 禅堂に閉じ込められていた許仙は外の騒ぎに白素貞が自分を救いに来たことを知り、小僧に頼んで寺を抜け出す。
第9場:断橋 身重の白素貞は闘いに破れて西湖のほとりに逃れ、そこで寺から逃れてきた許仙と出会う。怒る小青を押し止め自らの正体を明らかにする白素貞に、許仙も永遠の愛を誓うが、追ってきた法海は白素貞を金の鉢に捕らえ、雷峰塔に閉じ込める。
エピローグ 数年の後、峨眉山で修行を重ねた小青は白素貞を雷峰塔から救い出し、白素貞と許仙は再会を果たす。