Steve Hackett

2002/01/14

お台場のTribute to the Love Generationで、Steve Hackettのライブ。

私にとってのSteveの認識は、Genesisのギタリストとして画期的なタッピング技法(古い言葉で言えば「ライトハンド奏法」)を編み出し、またサステインの効いたロングトーンの美しいフレーズでエレクトリックギターを歌わせる名手としてのそれで、5年前にJohn Wettonらを引き連れて行った来日ライブでも、彼に対するそうした期待は存分に満たされていました。しかし今回のライブは、フルート奏者のJohn Hackett(Steveの実弟)、キーボード奏者のRoger Kingを伴い、自身はガットギターを携えてのステージで、ロックではなくフュージョン寄りのライブになりそう。彼の音楽的キャリアの中でアコースティックギターがかなり早い段階から重要なポジションを占めていたのは事実ですが、私のSteve像との間のギャップの大きさに不安を抱きながら会場へと足を運びました。今日は、TLGでの3日間連続のステージの最終日です。

ほぼ定刻にステージ背後のカーテンの陰から現れたSteveは薄い色のサングラスをかけ、黒いシャツに黒いズボンでシックな装いです。まずは1人で中央の席についておもむろに弾きだしたのは、Genesisの名作『Foxtrot』に収録されている「Horizons」。ハーモニクスも交えてのアルペジオが美しい曲で、いきなり出だしでこの曲をやられると(知っている曲が少ないので)後がつらいかも、と妙な心配をしました。SteveのMC(会場周辺の環境が素晴らしいとか目の前の海で泳ぎたいと思ったとか言っていました)に続いて残りの2人が登場。フルートは吹き口のすぐ横で管が前方に曲っていてたて笛のように指を使うヘンな形のもの。キーボードはE-muです。3人での最初の曲は、エリック・サティの「グノシエンヌ1番」。以下、曲ごとにSteveの物静かながら饒舌なMCを入れて、3人で弾いたりギターのソロになったり。知っているところでは5年前のライブでも演奏した「Black Light」やGenesisの『The Lamb Lies Down on Broadway』に入っている「Hairless Heart」など。「Blood on the Rooftops」も出てきたかな?「Firth of Fifth」の一部も3曲目にやってました。

25分の休憩の後、「E-muのリブートに時間がかかるので」ということでSteveがお遊びで「Unquiet Slumbers for the Sleepers ...」を交えた即興を弾いてから始まった第2部では、サティの「ジムノペディ1番」も含みつつ、全体におとなしい演奏が続きました。うーん、わかる人が聴けばいい演奏なんだろうけど、ちょっと自分にはつらいぞ(Steveの声質と座った場所の関係でMCがよく聞き取れなかったのも一因ではありますが)と思いながら聴いているうちに本編が終了してしまいました。アンコールの1回目はサティの曲。ギターの低音のアルペジオの上でフルートが不安をかきたてるようなフレーズを吹き、キーボードはマリンバ→オルガン→ピアノとカラフルに色を変えていきます。本当はこれで終わりのはずだったのですが、客の拍手が鳴りやまず再び出てきた3人は本編でやった比較的元気の良い曲をもう一度演奏しました。全ての演奏が終了したとき、期せずして聴衆が一斉に立ち上がって3人に惜しみない拍手を送り、ミュージシャン達もうれしそうな表情で挨拶をして引き上げていきました。

終わりよければ全てよし?いくつかの曲でSteveならではの素晴らしい演奏が聴けましたが、正直に言って、彼でなければならない必然性が感じられない曲もあったように思います。しかし、それはエレクトリックギタリストとしての彼の残像を脳裏に描いたままで会場に足を運んだこちらの問題で、Steveにとってはこの夜の演奏が今の彼自身の音楽なのだということはわかっていましたし、したがって会場でCDを買うとサインがもらえるというアナウンスにつられて列に並んだときも、彼の70年代及び80年代のライブ音源のCDを差し出すことが彼にとって喜ばしいことなのかどうか悩んだのですが、CDにサインをしてくれたSteveと他の2人はいずれも暖かい笑顔で握手をしてくれて、こちらのちっぽけな心配など吹き飛ばしてくれたのでした。

ミュージシャン

Steve Hackett guitar
John Hackett flute
Roger King keyboards