マリハ・パヘス舞踊団

2001/02/24

マリア・パヘス率いる舞踊団の「ラ・ティラーナ 〜プラド美術館の亡霊〜」を、Bunkamura オーチャードホールで観ました。

東急本店の横をBunkamuraに向かって歩くと何人かのダフ屋の姿。「マリア・パヘスって、ダフ屋が立つほど人気だったのか?」と驚きましたが、同じBunkamuraのシアターコクーンでトニセン主演の「東京サンダンス」のチケット目当てでした。とはいえ、マリア・パヘスももちろん大物。アントニオ・ガデス舞踊団でデビューし、1990年から自身のダンス・カンパニーを率いている彼女の姿はカルロス・サウラ監督の映画『フラメンコ』のビデオの表を飾っており、またリバーダンスにも参加してフラメンコのパートの振付と舞踊を担当しています。

今回上演される「ラ・ティラーナ」は1998年にセビリヤで初演され、1999年のケルン・フェスティバルで批評家から絶賛された作品。一人の青年(アンヘル・ムニョス)が、警備員をだましてプラド美術館で夜を過ごすことにする。ゴヤが愛したアルバ公爵婦人の肖像画に愛を告白するために。誰もいなくなった美術館の中で、絵の中から抜け出た公爵婦人(マリア・パヘス)と青年の情熱的なダンスが繰り広げられる。ゴヤの魂(マノロ・マリン)が、そして他の絵画の登場人物たちが踊りに加わる……といったストーリーです。

マリア・パヘスの舞踊は、これまで見慣れてきたサパテアードがどかどかっと威圧してくるフラメンコとは全く異なっていて、恵まれたプロポーションを使って上体、特に肩から腕を実に優雅に使い、滑らかなブエルタ(回転)を多用してバレエのように美しいものです。一方、アバニコ(扇子)やマントン(大型のショール。劇中、これを目隠しに使って舞台上で衣裳を替えていた!)を使った小技はケレン味たっぷり。正直に言うと、これまでフラメンコの舞台を何度か見てそのエネルギーに感動してはいても動きが「美しい」と思ったことはなかったのですが、今日ばかりはこれまでの見方を変えないわけにはいきません。もちろん彼女自身も、またカンパニーのメンバーによる群舞の中でもサパテアードの場面はあるのですが、これらは情熱むき出しの個人技ではなく機械的なまでに統制のとれたかっちりしたもので、上体をすっきりと直立させまっすぐ前を見ての集団サパテアードはリバーダンスでアイリッシュダンスの技法と振付に接したことが影響しているのではと思わせました。

また面白いのは使われている楽曲が多彩で、様々な分野の曲が使われていること。「パッヘルベルのカノン」やシューベルトのピアノ・トリオも意外ですが、ピアソラの「オブリヴィオン」、マイルス・デイヴィスによる「枯葉」、ジーン・ケリーの「雨に歌えば」と何でもありの選曲に驚かされました。ただ、やはりフラメンコの技法が合わない音楽もあるもので、冒頭の「ソロウズ・オール・アラウンド・ミー」はロック調の曲ですが、このように2拍4拍がかっちり決まらないとさまにならないタイプの音楽はフラメンコには向かないように思えました。また「雨に歌えば」はジーン・ケリーの雨中のダイナミックなダンスがあまりにも印象強いだけに、ついオリジナルとの比較で見てしまいます。一方で、何曲か使われているファン・マヌエル・カニサーレスのギター曲がよく、特に激しいパッセージが炸裂した「彗星の星」には圧倒されました(ただしテープ演奏?)。

全体を通してみれば斬新なストーリーと演出が効果的で面白く、何よりもマリア・パヘスの美しい舞踊に感動しました。終演後、日本では珍しく立ち上がって拍手を送っている客が少なくありませんでした。