バヤデルカ(レニングラード国立バレエ)

2001/01/14

レニングラード国立バレエの「バヤデルカ」(フランス語では「ラ・バヤデール」)を、Bunkamuraオーチャード・ホールで観ました。席は正面の一番高いところ。遠くはあっても舞台全体を見渡すには申し分ない位置ですが、演劇性の高いこの作品を観るにはダンサーの表情が見えない点がマイナスかもしれません。

「バヤデルカ」はマリウス・プティパ振付、レオン・ミンクス作曲で1877年初演。古代インドの詩人カーリダーサの「シャクンタラー」を題材にした異国趣味の大スペクタクルです。今回の見どころは、ニキヤのスヴェトラーナ・ザハロワとソロルのファルフ・ルジマトフという配役と、最後に「寺院崩壊」の場面が加わっているかどうかの2点にありました。バレエファンには周知の事実ですが、旧ソ連では「バヤデルカ」のクライマックスである「寺院崩壊」の場面は省略され、「影の王国」で終わる演出が一般的でした。これは、悲劇的な結末が国の意向にそわなかったため、「影の王国」で幻想的に終わることとされたものといわれており、この点は同じく国の政策によって悲劇だったのをハッピーエンドに改めさせられた「白鳥の湖」と似ています。

ちなみにバレエ・ブラン(白いバレエ)の代表とされる「影の王国」は、「白鳥の湖」の第2幕に影響を与えていると考えられています。というのも、1877年の初演が失敗に終わった「白鳥の湖」は、プティパとレフ・イワノフによって1894年に新たな振付で再演され成功を収めていますが、そのイワノフが1877年の「バヤデルカ」初演時にソロルを演じているからです。もっとも、その頃のソロルには踊る場面はなく、マイムによる演技だけが求められていたとのこと。

さて、第1幕第1場はいかにもエキゾチックな寺院の前庭。ここで踊られるソロル(ルジマトフ)とニキヤ(ザハロワ)のパ・ド・ドゥでのザハロワが、きれのよい踊りの中に恋人との出会いの喜びと舞姫としての芯のようなものが感じられました。第2場へはペルシア絨毯のような絵柄の幕がおりて時間をつなぐ演出。第2幕の婚約の儀式はオールド・バレエらしく、偶像の踊り、インドの踊り、太鼓の踊り、壺の踊りなどのディヴェルティスマンが次々に繰り出されます。全身金粉の偶像の踊りは期待していた割にはぴんと来なかったのですが、周りで踊っていた子供達の踊りがユーモラス。それよりも何よりも、太鼓の踊りは男性群舞がもの凄い迫力で圧倒的。そしてもう一人の主役であるガムザッティ(オクサーナ・シェスタコワ)が素晴らしいものでした。男性陣も根性の入ったリフトを決めてサポート。ニキヤの花籠の踊りも見どころのひとつですが、背後で同時に演技が進行しているので踊りに集中できないきらいがあります。ここに限らず、舞台、音楽と観衆との間合いが悪くて拍手がしたいときにできなかったり、集中したいのに集中できなかったり、次はヴァリエーションと思ったら違う踊りが入っていたりと肩透かしをたびたびくらいました。もっともこれは、こちらが「バヤデルカ」を観るのが初めてだからという事情が大きいのでしょう。「影の王国」では、32人のコール・ド・バレエは統一感が素晴らしかったし、トリオでは第1ヴァリエーションがしっかり見せてくれました。そして、ここで踊られるニキヤとソロルのパ・ド・ドゥではルジマトフの大きなジャンプに風格が漂い、ニキヤの踊りでの足の高さと甲の美しさも特筆ものです。

そして最後にはやはり「崩壊」の場面が用意されていました。「崩壊」を再現する場合は、神罰が下って世界が崩壊した後にソロルとニキヤの魂は天上で結ばれる、とする演出が一般的だそうですが、この場合はソロルがガムザッティと婚約したのは藩主ドゥグマンタの権力の横暴による強制であると考えないと話がつながりません。しかし今回の演出では、むしろソロルが誓いを破り心変わりをしたことが悲劇の原因となっており、したがって結婚式の場面に登場したニキヤの亡霊の最後のポーズは呪いと復讐であって、当然、ソロルはニキヤと天上で結ばれることなく、瓦礫の下敷きとなって非業の死を遂げることになります。

キャスト

ニキヤ スヴェトラーナ・ザハロワ
ソロル ファルフ・ルジマトフ
ガムザッティ オクサーナ・シェスタコワ
大僧正 イーゴリ・ソロビヨフ
ドゥグマンタ アンドレイ・ブレグバーゼ
マグダヴィア マイレン・トレンバエフ
偶像 ドミトリ・リシンスキー
奴隷 ドミトリー・シャドルーヒン
インドの踊り オリガ・ポリョコフ
アンドレイ・マスロボエフ
太鼓の踊り デニス・トルマチョフ
マヌ ヴィクトリア・シシコワ
アイヤ ユリア・ザイツェワ
「幻影の場」のトリオ イリーナ・ペレン
エルビラ・ハビブリナ
オリガ・ステパノワ
 
指揮 アンドレイ・アニハーノフ
演奏 レニングラード国立歌劇場管弦楽団

物語

第1幕
古代インドの寺院の前。大僧正、苦行僧や舞姫(バヤデルカ)たちによる火の儀式のクライマックスに舞姫ニキヤが素晴らしい舞を披露する。大僧正は立場を忘れ、ニキヤに愛を告白するが、彼女はそれを拒絶する。夜、ニキヤと戦士ソロルは苦行僧マグダヴェアに守られるようにして逢う。ソロルはニキヤに永遠の愛を約束し、それを聖なる火に誓う。その様子を見ていた大僧正は嫉妬に燃え、復讐を企てる。
藩主ドゥグマンタは、娘のガムザッティに戦士ソロルと結婚するよう命じる。ガムザッティは喜び、ソロルもいったんは戸惑うが、ガムザッティの美しさと名誉のために承諾してしまう。大僧正はソロルの破滅を期待してドゥグマンタにソロルとニキヤが愛しあっていることを伝えるが、ドゥグマンタは娘の結婚を取り止めようとはせず、逆にニキヤを殺そうとする。二人のやりとりを聞いたガムザッティはニキヤを呼び、ソロルとの婚約を告げる。動転したニキヤはガムザッティを短剣で襲おうとするが、召し使いに取り押さえられる。
第2幕
藩主ドゥグマンタの宮殿の庭。ガムザッティとソロルの婚約の儀式。悲しみをたたえつつ踊りを披露するニキヤに、花籠が手渡される。ソロルからの贈り物と思い込み喜ぶニキヤ。しかし、花籠に隠れていた毒蛇がニキヤに噛みつく。それはガムザッティの復讐だった。大僧正はニキヤにソロルを忘れて自分の愛を受け入れれば解毒剤を与えるというが、ニキヤはソロルに愛の誓いを思い出させながら息絶える。
第3幕
ソロルは悲しみに沈み、悔恨に苛まれている。苦行僧マグダヴェアがソロルの気晴らしにと呼んだ蛇使いの笛の音を聴きながらソロルがまどろむと、夢の中に、影の王国が現れる。幻影が長い列になって山の斜面を降り、そこにはニキヤの姿も見える。ソロルとニキヤは手をとりあって踊る。
ソロルとガムザッティの結婚式。婚礼の踊りには、姿は見えないがニキヤの亡霊が加わっている。新郎新婦の手が合わさったとき、人々の目にニキヤの姿が映る。次の瞬間、誓いを破ったことへの神罰が下り、宮殿は崩壊し、人々は滅びる。