くるみ割り人形(キーロフ・バレエ)

2000/11/25

キーロフ・バレエの「くるみ割り人形」を、グリーンホール相模大野で観ました。会場はちょっと小振りではあるもののオーケストラ・ピットも備えた立派なホールで、開場時刻を少し過ぎたところで中に入ってみるとオケが音出しをしており、さらに舞台上手には打楽器群、下手にはこの演目ならではのチェレスタが置かれていました。

チャイコフスキーの三大バレエ曲といえば「白鳥の湖」(1877年初演)「眠れる森の美女」(90年)、そしてこの「くるみ割り人形」(92年)ですが、最後に作曲されただけあって「くるみ割り人形」は実に美しく、また親しみやすい曲が全編にちりばめられています。私が初めてこのバレエ曲に接したのは中学生の頃に見たディズニーの「ファンタジア」だったと記憶していますが、その後もいろいろな機会に断片的に耳にしていて、後から「これも『くるみ』なのか」と驚くことが少なくありませんでした。

その「くるみ割り人形」は、プティパとイワーノフが振り付けた初演時はあまり評判がよくなかったそうです。当時のバレエはマイムを大幅にとり入れていて第1幕は子供中心のマイムが続き、一方大詰めのグラン・パ・ド・ドゥはディヴェルティスマン(ストーリーと関係のない踊り)の最後に登場する金平糖の精と王子に踊らせていたことが原因で、このためにストーリーがただのおとぎ話に終わってしまっていたことになります。その後、ロシアでは主人公の少女の名前をクララからマーシャへ、設定をドイツからロシアへ移し、さらにワイノーネンが3幕構成にした上でくるみ割り人形が変身した王子とマーシャにグラン・パ・ド・ドゥを踊らせたことによって、ストーリーが一貫性のあるものになり、夢見る少女から理想の女性への精神的な成長の物語に進化しました。今回のキーロフ・バレエの「くるみ割り人形」は、このワイノーネン版の演出によるものです。

小さい序曲に続いて始まる第1幕は、雪の中人々が集まるシーンからクリスマス・パーティーの場面へ。舞台装置も豪華できらびやか。有名なマーチにのっての群舞や黒人の人形の踊りが楽しく踊られます。短い第2幕はねずみと人形の戦争の後にマーシャと王子の最初のパ・ド・ドゥがありますが、フィッシュのところでよっこらしょという感じなのがちょっと……。一方、雪片の精の群舞はコール・ド・バレエの見せ場で、「白鳥」の第2幕に似て幻想的で極めて美しいものです。メインの第3幕では「白鳥」や「眠り」でも見られるキャラクター・ダンスが楽しいのですが、アラビアの踊りが流麗な旋律にのってエキゾチック、中国の踊りもキレのよいダンスで目をひき、カーテンコールでもとりわけ拍手を集めていました。ロシアのトレパックもコサック風(?)開脚ジャンプで頑張っていましたが、パ・ド・トロワがちょっと不安定だなと思ってみていたらやはり最後の決めのポーズで真ん中の男性がぐらっとバランスを崩してしまいました。有名な花のワルツに続いて、いよいよグラン・パ・ド・ドゥ。ワイノーネン版ではアダージョで4人の男性がヒロインをサポートし、この点「眠り」のローズ・アダージョに通じるものがあります。「白鳥」のオディールのグラン・フェッテ・アン・トゥールナンや「眠り」のオーロラ姫のアティテュード・アン・プロムナードのような派手さはないと聞いていたのに、大胆なリフト(空中での受け渡しまで!)や半回転しながら飛び込んでのフィッシュ、ポアントでのバランスの連続など、決して地味ではありません。男性のヴァリエーションは高さがあり、ヒロインのヴァリエーション(チェレスタの曲が有名)もきっちりした踊りだと感じました。最後にお菓子の国の登場人物全員でマーシャを高く掲げたところで舞台は暗転、目を覚ましたマーシャがくるみ割り人形を抱き上げるところで幕がおりて終演。

全体を通してみると、ところどころに少々雑な部分もあって感動の嵐というわけにはいかなかったのですが、それでも十分に楽しめる内容でした。

キャスト

マーシャ マヤ・ドゥムチェンコ
王子 アントン・コールサコフ
シュタールバウム ウラジーミル・ポノマリョフ
シュタールバウム夫人 アレクサンドラ・グロンスカヤ
ドロッセルマイヤー ピョートル・スタシューナス
祖母 ナターリヤ・スヴェーシニコワ
祖父 ウラジーミル・レペーエフ
乳母 エレーナ・マカロワ
フリッツ ポリーナ・ラッサーディナ
ルイザ ナターリャ・ラルドゥーギナ
道化 デニス・フィールソフ
人形 イリーナ・ジェロンキナ
黒人 アントン・ルコフキン
ねずみの王様 ウラジーミル・ポノマリョフ
雪片の精 ヴェロニカ・パールト
ダリア・パヴレンコ
スペインの踊り ガリーナ・ラフマーノワ
アンドレイ・ヤコヴレフ
東洋の踊り エレーナ・パジェノワ
中国の踊り ユーリヤ・カセンコーワ
アレクセイ・クラスノフ
トレパック ポリーナ・ラッサーディナ
リーラ・フスラモフ
アントン・ボイツォーフ
パ・ド・トロワ イリーナ・ジェロンキナ
エルヴィラ・タラーソワ
アレクセイ・クラスノフ
花のワルツ クセーニヤ・オストレイコフスカヤ
ニコライ・ゴドゥノフ
クセーニヤ・ドゥブローヴィナ
ドミトリー・プィハチョフ
ヤナ・セレブリャコーワ
セルゲイ・サリコフ
ヴィクトリア・クテーポワ
デニス・フィールソフ
 
指揮 ボリス・グルージン
演奏 キーロフ歌劇場管弦楽団

物語

第1幕
クリスマス・イブのシュタールバウム家。パーティの席上、叔父のドロッセルマイヤーが人形劇を子供たちに見せる。それは、ねずみの王様がお姫様を誘拐しようとすると、くるみ割り人形が王様を倒し、お姫様を救い出すという物語。さらに大きな箱から取り出されたぜんまい仕掛の人形たちが踊って子供たちを喜ばせる。最後にドロッセルマイヤーがシュタールバウム家の娘マーシャにプレゼントしたのは醜いくるみ割り人形だったが、マーシャはくるみ割り人形を気に入る。
第2幕
くるみ割り人形をかたわらに置いてマーシャが眠りにつくと、居間にあったクリスマスツリーが巨大化し、ねずみたちとくるみ割り人形率いるおもちゃの兵隊たちとの戦争が始まる。マーシャの手助けもあって人形たちが勝利すると、ドロッセルマイヤーが現れてくるみ割り人形を王子の姿に変えた。マーシャは王子とともにお菓子の国へ出かけ、途中、雪の国を通る。
第3幕
マーシャと王子を乗せた小舟はお菓子の国に到着する。二人を歓迎する宴が開かれ、アラビア、スペイン、中国、ロシア、フランスなど各国の踊りが繰り広げられた。最後にマーシャは、王子と踊る。
エピローグ
マーシャは目を覚まし、これまでの出来事が夢だったことに気づく。かたわらにあるくるみ割り人形を抱き上げ、マーシャは夢の余韻に浸る。